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しばらく前から少し離れた場所で、ヨハンと長髪の騎士が戦う様子を見つめる男がいた。
あの身のこなしはまるで……。
「アルベルト様、どうかなさいましたか?」
従者に呼びかけられて男は我に返った。「いや、なんでもない。ところであの少年は何者だろう」 従者はヨハンのほうを見て答えた。「また物乞いの子供が迷いこんだのでしょう。すぐにかたがつくと思いますが、目障りならわたしが追い払って参ります」
「いや、それには及ばないよ」アルベルトはヨハンの動きから目を離さずに言った。子供相手に本物の剣とは大人げない気もするが、まさか正騎士が少年の命を奪うことはあるまい。
それにしても見事な体さばきだ。若輩とはいえ正騎士の剣を巧みにかわすだけでなく、木剣で正確に相手の急所を打ち据えていく。魔術師であるアルベルトは、剣技については人並み程度の知識しかないが、戦いは互角、いや間違いなく少年が優勢に見える。
だがそれがよくなかったのだろう。大男まで戦いに加わるべく剣を抜いた。さすがにアルベルトも仲裁に入ろうと歩き出した。いくらなんでも正騎士二人を相手にして無事ではすむまい。
案の定、正面から斬りかかってきた大男の一撃こそかろうじてかわしたが、背後から長髪の男の剣がせまっていた。間に合わない。アルベルトはやむを得ず魔術で二人の騎士の動きを封じようとした。
その瞬間少年の頭上に発光する球体が浮かび上がった。球体は一瞬静止してから二つに分かれ、少年の前後にいる騎士めがけて飛んでいき、まばゆい光を放ってはじけた。騎士たちは衝撃で後方にはじかれ、地面に倒れた。一瞬のできごとだった。命をおとすほどではなさそうが、意識は完全に失っているだろう。
「お見事です。アルベルト様」後ろから来た従者に声をかけられたが、アルベルトは返事をすることができなかった。
今のはわたしではない。あの少年の仕業か? それにしても、あの術は、まちがいなく……。
剣と魔術の両方を習得する者もいないわけではない。しかし大抵はどちらか一方の技量は他方に比べて大きく劣り、両方を実戦で使えるほどに会得できることはめったになかった。あの年齢であの剣技だけでも驚くべきものなのに、おとなの男二人を同時に失神させるほどの魔術を操るとは…。
アルベルトが知る限り、あのくらいの年齢でそのような芸当ができた人物は、これまでに一人しかいなかった。
アルベルトと従者が近づくと、まだ戦いの興奮が冷めやらぬヨハンは木剣を構えなおした。ヨハンの頭上に白く発光する球体が新たに出現した。
ようやく従者も、先ほど二人の騎士を倒した球体を操っていたのがヨハンであることを察し、剣を抜いて臨戦態勢を取った。緊張感が高まり一触即発の空気がただよう。だがアルベルトは少しもあわてず落ち着いて球体を一瞥した。すると途端に球体は消滅した。
ヨハンは球体のあったあたりを茫然として見つめ、それからアルベルトに向かって言った。「おじさん何かした?」
「おじさんではない。アルベルト様だ」従者が即座に一喝するが、アルベルトは笑いながら言った。「きみより強力な魔力をぶつけて無力化したんだよ。きみは騎士団に入りたいのかい? なら少しわたしと話をしよう」
ヨハンは警戒心をあらわにしてアルベルトを見ていたが、「昼ごはんがまだならわたしの部屋で食事をごちそうするよ」という言葉につられて木剣をおろした。その日は朝から何も食べていなかったのだ。




