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王国北部の辺境の村で育ったヨハンは、王立騎士団に入団するため家を出て王都を目指した。13歳の春のことだった。
王都までは徒歩で数ヵ月半の旅だったが、母親から魔術と剣の手ほどき(ヨハン自身はただの遊びの延長と思っていたのだが)をうけていたので、辺境に巣食う魔獣に遭遇しても命を脅かされることもなく、また食うにも困らず、無事王都までたどり着くことができた。
王都のどこまでも広がる町並みや大勢の人々に圧倒されつつ、ヨハンは王立騎士団の門をくぐった。
すると前から二人組の男たちが歩いてきた。一人は細身で長髪、もう一人は熊のようにがっしりした大男だった。どちらも背が高く小柄なヨハンはかろうじて二人の腰より上くらいの背丈だった。 男たちは若く装備も簡素で、騎士としての位はそれほど高くなさそうだが、それゆえに血の気が多そうだった。簡素な装備とはいえ、どちらも剣を腰に差している。二人はうさんくさげにヨハンを見やった。やがて大男が面倒くさそうに言った。「おい、小僧。どこへ行く?」
ヨハンは臆することなく答えた。「ちょうどよかった。アルベルトっていう人を探しているんだけど。案内してくれる?」
二人組は顔を見合わせた。長髪の男が言った。「口のきき方を知らないガキだな。アルベルト様がおまえなどに会うわけなかろう。いったいなんの用だ?」
「母さんが手紙をわたしてくれって。おれは騎士団に入団しにきたんだ」
「騎士団に入るには入団試験に受からなければいけないのだぞ。だいたい剣も持たずにどうやって試験を受けるつもりだ?」
ヨハンは荷物の中に無造作に突っ込んでいた木製の剣を取り出して、顔の前にかざした。「こいつがあれば十分だよ」
男たちはこらえきれずに吹き出した。確かに入団試験は木剣による模擬戦だが、入団を希望する者は本物の剣を持っているのが普通なのだ。その上ヨハンの木剣は刃渡りも短く、まるでおもちゃのようだった。ヨハンは涼しい顔で言う。「この木剣でおじさんたちに勝てば文句ないよね?」
笑っていた男たちの表情が一変し、険悪な雰囲気が漂う。「ちょっと懲らしめてやる必要があるな。安心しろ、殺しはしない。腕や足の1本くらいなら、後で魔術でくっつけてもらえるだろう。ここには優秀な魔術使いも大勢いるからな」長髪の男はそう言って剣を抜き、ためらうことなくヨハンに振り下ろした。
当たれば腕がちぎれ飛ぶほどの鋭い切り込みだったが、ヨハンはすばやく身をかわし、木剣で相手の右手の甲を打ちすえる。
その後も男の剣は空を切り続け、ヨハンに打たれたあざが増えていった。業を煮やして大男が加勢しようと剣を抜く。「悪く思うなよ、小僧。俺たちもこけにされて黙っているほどお人好しじゃないんでな」
二人は軽く目配せすると、同時にヨハンに襲いかかった。正面から切りつけてきた大男の剣をヨハンは木剣ではらって受け流したが、大男の一撃にふらつき一瞬体勢がくずれた。そこにヨハンの無防備な背中めがけて、後方の死角から長髪の男が剣を振り下ろした。




