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地上救世紀グラウンド・ザ・ワールド  作者: 光が丘ばなな公園
第四章『あなたと一緒なら心が安らぐ』
11/11

第十一話『エースコレクター』

「━━っ」


……午前七時。


今日の聡美は目覚ましが鳴るよりも早く、現実世界に戻って来る言葉が出来た。


「……?」


目を擦り、ベッドから身体を起こしながら……いつもの朝とは違う、ある違和感に聡美は気がつく。


「━━歌が聴こえる」


耳を澄まさなければ聴こえない、基地のどこかで歌っているであろう、誰かの歌声を確認した聡美。


そう、聡美は目覚ましの代わりに、その歌声を耳にした事で目を覚ましたのであった。


「……」


顔を洗って、隊服に着替えて、朝の支度を整えていく聡美。


聡美にとって、AGPRでの活動を始めてから八日目の朝を迎えようとしていた━━その歌声は誰から発せられている物なのか、それを確かめるべく聡美は外に出た。


「……」


部屋から出た事で、歌声のボリュームが少し大きくなった。


しかし、誰が歌っているかまでは現時点で確認する事は出来なかった……。


一方で、その歌声は一体どこから聞こえてきている物なのか……聡美は耳を澄まして、辺りをキョロキョロとしていると……


「━━はっ……はっ……」


「ん、あれ? 歩佳ちゃん?」


「あっ聡美ちゃん? おはよう〜」


歌声が聞こえない方から……ジャージ姿の歩佳が、トロトロと走ってきて聡美の前に姿を現した。


「おはよう! 何してたの?」


「えっと……ジョギングだよ。実は最近……少し太っちゃって、ダイエットの為にしてたの……」


「おお、偉いねぇ……そうだ、私もやんなきゃだ! 今から私もお供していいかな?」


「うん、大丈夫だよ……てか聡美ちゃん、何か歌みたいなのが聴こえない?」


「……あっ」


その歌声に歩佳も気付いて、それが聞こえてくる方を見る……


聡美の方はその歌声を意識しつつも……ちょっと息が上がっている歩佳が色っぽいなと思うのであった。


「そう!それを聞いて、私も起きて来たの!」


「そうだったんだ……何か、綺麗な歌声だね」


「……ねぇ歩佳ちゃん、誰がどこで歌ってるか見に行ってみない?」


「えっ……いいけど、全然知らない人だったらどうしよう……」


「そしたら見るだけ見て帰って来ればいいよ。行こっ」


「うん……」


綺麗な歌声だけど不審者だったらどうしよう……慣れない運動の疲れによって引き起こされた不安な表情を浮かべている歩佳の手を取って、聡美は歌声の元へ向かっていく。


……そうして二人がやって来たのはエレベーターであった。


「この歌声……格納庫の方から聞こえるね」


「……そうだね」


エレベーターを待っている間……歩佳は格納庫のある天井の方を向いて、その事に気がついた。


「……ど、どうしよう……歌ってたのが実はおばけとかで、格納庫に行ったら誰もいなかったとかだったら……」


「ええっ……!? 怖いよ聡美ちゃん! やめてよ〜」


「もっ、勿論冗談だよ!」


エレベーターで格納庫階へと上がっていき、歌声が徐々に大きくなっている中で……ふと聡美は、歩佳にそう質問をした。


歩佳は聡美よりも少し背が高くて……背が高いにも関わらず、怯えている姿が可愛くて……おばけは私も怖いけど、出てきたら絶対に守るからねと聡美は思うのであった。


『格納庫階です』


「……さて、歌声がここから聴こえて来てるのは間違いないね」


「ううっ……」


やがて格納庫にやって来た、聡美と歩佳。


歩佳は聡美のせいで……歌声の主が人では無いという考えに、完全に囚われて怯えてしまっており……聡美にしがみつきながら、彼女にくっついた状態で歩いていた。


「でも本当に綺麗な歌声だよね……聞いてると何だかリラックスしてこない?」


「リラックスしてくるけど……あれ? これ英語の歌だ」


「ここで働いてる人で外国人なんかいたっけ?」


「ううん、皆京極の人だったと思う……」


そうして歩佳が〇五部隊で働いている人種を思い出していると……その英語の歌の発生源だと思われる、隊のピーストレーラーが格納されているスペースまでやって来た。


「ここを曲がった所に、歌ってる人がいそうだね……歩佳ちゃん、心の準備はいい?」


「ねぇ聡美ちゃん、やっぱりやめよう? もしそこに、誰もいなかったら━━」


「大丈夫大丈夫。誰かいても誰かいなくても、私が歩佳ちゃんの事をお守りするからね」


「さ、聡美ちゃん……」


歌声の主がいるであろう場所からは死角になっている、彰子のトレーラーであるストックの足元で話し合う二人……やがて聡美と歩佳は、ストックから身を出してそーっと歌声が聞こえてくる方を見た。


「━━〜♫」


「「……!!」」


まだ業務開始時間では無い格納庫内は薄暗く……天井からはトレーラー達の所在確認が出来るように、最低限のスポットライトが当てられている。


そのそれぞれのトレーラーに当てられている光の中心で━━胸に両手を当てて、青紫色の長髪を靡かせながら歌っていた美夜子はいた。


「〜♫」


「「……」」


スポットライトに当てられかつ、綺麗に流れるように歌っている今の美夜子はとても映えている……普段聡美と歩佳が思っている、彼女に対しての強気な印象に反する光景を見て、綺麗だなという気持ちがより一層に強まり、歌い続ける美夜子に見蕩れていると━━


『━━美夜子様、格納庫内でAGPR職員二人の存在を確認致しました』


「━━っ……誰!?」


「「!?」」


突如、美夜子の物だと思われるトレーラーがそのように反応して、美夜子は歌うのをやめて辺りを見回した。


「━━!!」


「!?」


その美夜子の四望は非常に早く、あらゆる場所に視線を向けて、しらみ潰しにそこに人がいないかを確認していく━━そんな状態の美夜子と二人が目が合ってしまうまで、さほど時間はかからなかった……。


「ちょっと、誰よそこいんの!!」


「やばっ……」


「ひえっ……」


という訳で二人はしっかりと目が合った上で……美夜子から飛んできた言葉から避けるように、反射的にストックに身を隠した。


「そこにいんのは分かってんのよ!出てきなさい!」


「ど、どうしよう……」


「……!」


二人がストックに隠れていると分かっている以上、そこを見続ける美夜子……そして聡美はうずくまっている歩佳を見て、逃げるのでは無くある事を決意する。


「━━ぶ、ブラボー!」


「……古川さん?」


それは拍手をしながらストックから身を出して、美夜子に姿を晒すという物。


「ブラボー……!」


そしてそんな聡美の真似をして……歩佳もストックから美夜子の前に姿を現して、聡美と並んで拍手をしたのであった……。


「歩佳までいたの……ちょっと、拍手はやめて。 恥ずかしいから……」


「あぁごめん、でも油井さん、お歌上手だったよ!」


「うん、凄く綺麗だったよ……!」


「あら、聞かれていたのね……」


美夜子の事を褒めながら、彼女に近づいていく聡美と歩佳。


一方で美夜子は、先程の強気な時とは一変……二人から目を逸らしながら自身の片腕を掴み、小声を出して弱気な態度を見せた。


「……ごめん、もしかして邪魔しちゃった感じ?」


それが聡美からは、美夜子が落ち込んでいるように見えたので……そっと謝罪の言葉を入れた。


「いえ、邪魔されたなんか思ってないわ……元々色んな人が利用する、この格納庫で歌ってた私の方が悪いんだし」


「美夜子さん、朝からずっとここで歌ってたの?」


「ええそうよ。誰もいない早朝から歌ってたつもりなんだけど……そっか、もう皆が起きてくる時間ね……まさか私の歌で、二人を起こしちゃった感じ?」


「ううん、起きたには起きたけど……うるさいって思いながら起きたんじゃなくて、寧ろ気持ちよく目を覚ませたよ!」


「私は美夜子さんが歌ってる頃には起きててジョギングしてたから……美夜子さんが歌う前から起きてたと思うから、大丈夫だよ」


「そう……ならよかったわ」


それから美夜子はため息をつくと、そのまま聡美を避けてエレベーターの方へと向かった。


「そしたら私は……一回部屋に戻って準備をしたいから、失礼するわ」


「あっうん! またミーティングルームでね!」


「食堂でも会えたら、一緒に朝ごはん食べようね」


「ええ……それじゃあまた」


そうして聡美の再会宣言と、歩佳からの誘いに手を振って返しながら……美夜子はエレベーターに乗って下へと降りて行ったのだった……。


「うう、行っちゃった……もっと歌の事について聞きたかったのに」


「あんまり触れられたくなかった事だったのかもね……なんか、早く会話を終わらせたかった感じだったし」


「やっぱり悪い事しちゃったのかな……歩佳ちゃん、油井さんをここで見たのは二人だけの秘密にしようね!」


「うん、勿論……あっ、そろそろ朝食の時間が始まるから、食堂に行こ?」


「うん!」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「━━そういえば二人とも、名前で呼び合ってたよね……歩佳ちゃん、前までは油井さんって呼んでたような……?」


「あぁ、この間のムサシ回収作戦で一緒になった時にね……お互いに名前で呼ぼうって所まで、美夜子さんと仲良しになる事が出来たんだ〜」


「なるほどね〜、確か歩佳ちゃんと油井さんのペアだけ大物を回収出来たんだもんね。おめでとう!」


「ふふっ、ありがとう……」


「私達はシナノを回収出来なかったけど……ペアだった彰子ちゃんと前よりも仲良しになれたよ!」


「そっか……確かに聡美ちゃんも、星出さんと名前で呼び合ってたもんね……!」


……その後、食堂にて歩佳と並んで朝食を食べる聡美。


歩佳は微笑みながら、ぱくぱくと米やおかずを口に運んでおり……大物を回収出来たのは、歩佳が美夜子と仲良くなった絆による賜物もあるのだろうと思いながら、嬉しそうな歩佳を見て聡美も微笑むのだった。


「ねぇ歩佳ちゃん、油井さんってどんな人? 私……まだ油井さんとあまり話した事が無いから、どんな人か分からないんだよね」


「……美夜子さんはね、負けず嫌いな人だよ〜」


「そうなの?」


「うんっ、ムサシ回収作戦の時も、色んな隊の人達と会ったけど……それでも絶対にムサシを回収するって、美夜子さんは意気込んでて……その美夜子さんが導いてくれたおかげで、私も一緒にムサシを回収する事が出来たから」


「負けず嫌いかぁ……んぅ、私……油井さんと仲良く出来るかな」


紫苑、歩佳、彰子……聡美はこれまでに色々なコレクターと一緒に仕事をこなしてきたが、まだ唯一美夜子とだけペアになった事が無かった。


美夜子が負けず嫌いというのは、いつも彰子と言い合いをしているのを見ているので充分承知している……仲良くなれたらいいのだが、私も美夜子ちゃんと言い合いになるような事態にならないかという事を、聡美は心配していた。


「私も最初はそう思ったけど……美夜子さん、私達が思ってるよりもずっと優しい人だよ」


「優しい……?」


「美夜子さん、なんていうか目的の為ならどんな手を使ってでも達成するような大胆な人だけど……大胆に見えて、一緒にいた私の事も沢山気遣ってくれたし」


「美夜子さんのやり方に、私も合わせなきゃいけないと思ってたけど、無理しなくてもいいって美夜子さんも言ってくれたし……でも無理をしないとそれはそれで、何も出来なかったのが辛くて……」


「それで、何も出来なかった代わりに、お詫びじゃないけど頑張ってお料理を作ったら……美夜子さん、美味しそうに食べてくれて━━はぁ、あの時は嬉しかったなぁ……」


「おお……?」


嬉しそうを通り越して、最早うっとりとしている歩佳……未だかつて見た事の無い彼女を見て、聡美は魂消ているような声をあげる。


「だから変に気を遣わないで、聡美ちゃんもいつも通りの聡美ちゃんでいいと思うよ……そもそもの聡美ちゃん、コミュニケーション能力あるし一緒にいると楽しいし、どんな人とでもお友達になれるよっ」


「えへへっ……ありがとう」


日頃から大人しい歩佳は、活発的な美夜子のテンションに合わせられず、悩んでいた時期もあったが……歩佳は歩佳の得意な事で、美夜子と親しくなってみせた。


そんな歩佳は聡美に対して、聡美の得意な事、聡美が持っている武器について、聡美自身では気付きにくい二人称の視点から話してくれた……


いつも通りの私でいい━━聡美の本気を制御していた、美夜子を気遣わなければいけないという変な使命感が消えて、聡美の中で自信が湧き上がってくる……。


「わかった! 私、絶対に油井さんとも仲良しになってみせるよ!」


「ふふっ、頑張ってね。聡美ちゃんなら絶対に出来るよ」


「そしたらいつか……紫苑ちゃんと彰子ちゃんも入れて、五人で歩佳ちゃんのお家でお泊まり会しようね!」


「お泊まり会か、いいね……って、私のお家でやるの!?」


あと一人━━美夜子と友人関係になる事が出来れば、聡美は〇五部隊の同い歳組達皆と友人関係になれたという事になる。


「そしたら早速、油井さんに声をかけなきゃ!歩佳ちゃん、早くミーティングルームに行こ!」


「あん、聡美ちゃん待ってぇ!」


そのコンプリートに聡美が燃えている一方で━━別の場所にて、〇五部隊の人間関係について悩んでいる人物がいた。


「━━うーん……」


……聡美が所属する、我等が〇五部隊の隊長である諏訪理奈隊長である。


理奈は役職員室にある、隊長専用の自席に座りながら……両手を頭の後ろに回して、クルクルと回転椅子で自身も回りながら考え事をしていた。


「……隊長、おはようございます」


「うい。おはよ〜、ゆあちゃーん」


その時、朝食を終えた米田ゆあ副隊長が役職員室に入ってきた。


理奈はゆあに挨拶を返しながら、椅子と自身を回すスピードをより上げて……ピタッと止まると同時にゆあと目を合わせた。


「ねぇゆあちゃん聞いて〜」


「如何致しましたか。隊長」


そんな理奈から目を逸らして、自身の席に座って書類の整理をするゆあ……すると理奈は、椅子に座ったままコロコロとゆあの隣まで移動してきた。


「昨日の朝礼の時さ! 皆いい感じじゃなかった?」


「昨日の朝礼……星出と古川が罰を受けた日の事ですか?」


「そうそう!彰子と聡美ちゃんが囲まれて皆とお話してた時、皆の気持ちが一つになってたというか……なんかよかったよね!」


「……そうですね。古川が入隊してきてから、〇五の雰囲気は変わったと思います……あそこで古川も罰を受けていなければ、あのような展開にはなっていなかったでしょう」


「だよねだよね!」


理奈との会話に、無表情で話し続けるゆあ……一見人間関係に興味が無さそうな彼女だが、隊員達の事をしっかりと分析しており、理奈はその事に対して嬉しく思いながら返事をした。


「ほんと、聡美ちゃんが入ってから変わったよね〜。特に聡美ちゃんと仲良しな紫苑ちゃんと歩佳ちゃんが変わったよ!聡美ちゃんが来る前よりも来た後の方が、二人の平均的な資源回収量が大幅に上がってるんだ〜」


「新人である古川の手本になるような資源回収をしようという、金井と大西の先輩としての気持ちが表れているのでしょう」


「それに聡美ちゃんが仲良くしてくれたおかげで、二人とも前よりも明るくなったしね〜……彰子とはもう仲良しになってる感じだから、後は美夜子とも仲良しになってくれると嬉しいな……」


「━━来たる作戦の為にも、〇五部隊の気持ちは一つにならないといけないんだ……その為には、誰に対してもフレンドリーな聡美ちゃんが重要なキーパーソンになりそうだね〜」


「はい」


聡美が入った後の隊員達の心境の変化を、理奈は嬉しそうにゆあに話す。


理奈が見てきた光景は、常に隣にいたゆあが見てきた光景でもある……なので理奈が喜ぶ気持ちを充分に理解しており、自身に寄りかかってくる理奈の話を、少しだけ口角を上げながら聞き続けていた。


「しかし……今の〇五は金井と大西と古川、星出と油井と理香で、それぞれ一つのグループが出来ているような気がします」


「そうなんだよねぇ〜、聡美ちゃんにはそこで満足して欲しくないというか……どうにかそこのグループを一つに纏めるように頑張って欲しいというか……でもそれを聡美ちゃんだけに押し付けるのは荷が重すぎる……」


「そこでまずは聡美ちゃん以外で、そこのグループからそれぞれ一人ずつをくっつけたい訳なんだけど……ゆあちゃん━━美夜子と紫苑ちゃんが会話している所を見た事はあるかな?」


「油井と金井ですか……そういえば無いですね」


「でしょでしょ?あの二人の関係はねー……仲が悪いっていう訳じゃないと思うけど、お互いがお互いを避けてるっていうか、お互いがお互いに興味が無いっていうか……」


「彰子チームと紫苑ちゃんチーム……二つのグループが合体出来ないのは、美夜子と紫苑ちゃんがお互いに距離を取ってて、反発関係にあるからと私は思うんだ」


「……なるほど」


「そう!だから今日の編隊は━━」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


……その後、八時五十七分。


「おはようございます!」


「ふぅ、ふぅ……おはようございます〜……」


朝礼が始まる三分前……聡美と、走ってすっかりと息が上がってしまった歩佳がミーティングルームに入室してきた。


「おっ、お前ら遅刻ギリギリって感じか?まだ九時にはなってないから大丈夫だぜ!」


「おはよ〜聡美ちゃん、歩佳ちゃん!」


「えへへっよかった……彰子ちゃんも理香ちゃんもおはよう!」


「おはようございます〜」


入ってきて早々、既に着席している彰子と理香に声をかけられ……聡美は歩佳と一緒に挨拶を返しながら、いつもの席に座っている紫苑の元へと気まずそうに向かう。


「……」


その途中……聡美は話しかけようと思っていた、彰子の後ろの席に座っていた美夜子と目を合わせる。


「━━」


「あっ……ううっ……」


━━だが美夜子の方から、ぷいっと聡美から目を逸らした。


今朝歌を見てしまったからなのか……仲良くしようと思っていたのに、既に嫌われてしまったか━━美夜子と仲良くなってみせるという自信から、美夜子に馴れ馴れしく思われないかという心配に変わり、聡美の中で色々な気持ちが交差する中……もう話しかける時間もないので、聡美は仕方なく美夜子の横を通り過ぎたのであった。


「……おはよう。聡美さん、歩佳さん」


……それから聡美と歩佳は、いつもの一番後ろの廊下から一番遠い席に座っている紫苑の元へとやって来た。


「おはよう、紫苑ちゃん……」


「おはよう〜」


その気持ちのままで紫苑に挨拶を返してしまった為に、元気が無い感じになってしまった聡美……一方で歩佳の方は、ご機嫌な感じで笑顔で挨拶を返した。


「?……随分と遅かったじゃない、二人揃って寝坊してしまったのかしら?」


「ううん、ちゃんと時間通りに起きれて朝ご飯も食べれたんだけど……食堂からここに来るまでの、一番近い道の途中が工事中になってて……通れなくて遠回りしたから遅れそうになっちゃったんだよ〜……ね?歩佳ちゃん」


「うん……いつも通ってた道が急に通れなくなるなんて……あの時は焦ったよ……ふぅ」


「そうなる事を予め予想して、もっと余裕のある時間から活動し始めなきゃダメよ」


格納庫で私が歌っていた事を、紫苑に言いふらすのでは無いか━━そう心配して、美夜子は聡美達の方を見たがそのような事は無く、聡美と歩佳が着席してこちらの視線に気がつく前に、美夜子は前を向いた。


「━━うぇい、おはよ〜」


「「「おはようございます!!!」」」


……その後九時になり、それと同時に理奈とゆあが部屋に入室してきて、隊員達は起立して挨拶を返した。


「……」


今日も彰子達と紫苑達のグループでそれぞれ別れている……理奈は部屋を見渡してその事を確認しながら、教卓まで移動した。


「はいおはよう、皆座っていいよ〜」


「隊長、こちらを」


「うん!ゆあちゃんありがと〜……おっ、やっぱり大型からは資源がよく取れるから、最近の中でも回収率は断トツだね〜。美夜子も歩佳ちゃんも、本当によく頑張ったね」


「「ありがとうございます!!」」


その後、ゆあは昨日回収した資源量の結果が書かれた書類を理奈に手渡して……理奈はそれを読み上げながら美夜子と歩佳を褒めた事により、二人はお礼を叫び返した。


因みに聡美と彰子はメイド服を着ていて行った、昨日の〇五部隊の活動は……ムサシを確保した美夜子と歩佳が、その回収の続きをして……それ以外の彰子と紫苑と聡美は、普通に地上に転がっている小物や中物を回収していくという内容であった。


「そんでねー、今日はねー、ムサシの方の回収をハイペースにやろうと思っててねー……そっちの回収する人員を一人増やさせて貰うのとね━━もう片方のチームには、今回特物を狙って貰うよ〜」


「特物……!?」


「うんうん、ここから西にある洞窟の奥に特物が眠ってるっていう情報が入ってね〜……ムサシを確保された事が評価されてね、それを回収しろっていう本部から直々のご通達さ」


「だから私達しか回収しちゃいけないっていう決まりになってるから……この間の大型争奪戦の時みたいに他の隊に取られる事も無いから、焦らず回収しに行くで大丈夫だからね〜」


「という訳で今日のムサシ回収チームと、特物回収チームに就いてもらうメンバーをそれぞれ発表するよ〜」


理奈がそう話した事により、特物という言葉を聞いてザワつくのと同時に……隊員達は固唾を飲んで彼女と目を合わせる。


……だがその中で紫苑だけが、机に頬をつきながら理奈から目を逸らしており……理奈は紫苑の事を見ながら言葉を続けた。


「まず特物を狙って貰うのは━━美夜子と紫苑ちゃんと聡美ちゃんの三人でして貰うよ〜」


「えっ?」


「「!?」」


理奈がそう話した事により、聡美は声を出して……美夜子と紫苑は同時に顔を歪ませて、理奈の方を見た。


「ふふふっ……」


理奈は二人に睨みつけられても、その迫力が何も効いていない様子でニコニコと満面の笑みを浮かべている。


「……」


一方でゆあは、そんな理奈の事を横から見つめながら……朝礼前に役職員室で、理奈と話した会話の内容について思い出していた━━


『まず美夜子と紫苑ちゃんは絶対に組ませるでしょう?そして、そこに聡美ちゃんも一緒に入れちゃおう!』


『……その二人と一緒に組ませる事こそが、古川にとって荷が重すぎる事なのでは?』


『でもそれで、どんな化学反応が起きるのか気になるじゃん?隊の中で一番仲が良い紫苑ちゃんと、隊の中で今一番仲良くしたいと思っている美夜子と組ませたら聡美ちゃんはどうなるのか━━ふふっ、楽しみだなぁ〜』


『……』


……そうしてゆあは、その時に浮かべていた理奈の悪魔みたいな笑顔を思い出しながら、隊員達のいる正面を向いた。


「それでムサシの回収の続きは……ゆあちゃんと彰子と歩佳ちゃんにやって貰うよ〜」


「了解」


「了解っす!」


「了解しました……」


理奈からの命令に、ゆあと彰子と歩佳は次々と返事をして行き……ムサシを見つけたにも関わらず、チームから外された事に対して残念に思いつつ美夜子は俯いた。


「……美夜子はどうかな? ムサシに続いて、特物の方も見つけられるかな?」


「━━大丈夫です。いけます」


「ふふっ、流石はうちの中で回収率トップのエースコレクターだ。特物だけじゃなくて、洞窟の中にある他の資源も根絶やしにする勢いで、今日も頑張るんだよ」


「お任せください」


美夜子は再度理奈に目を合わせたまま……そのように答えた。


残念な素振りはもう感じず、切り替えた様子の美夜子からはやる気は充分に感じられる……理奈はそう思いながら、再度笑みを浮かべて言葉を続ける。


「洞窟の中は迷路みたいになってると思うから、三人ともはぐれないように仲良くやるんだよ〜。洞窟の中での作業は初めてな聡美ちゃんも紫苑ちゃんも、美夜子と一緒にいさえすれば大丈夫だからね」


「わ、分かりました!」


「……了解」


「そんじゃあまぁ、今日も元気に行ってみよ〜━━総員、出撃準備!」


「「「はい!!」」」


そうして理奈の号令によって、格納庫へ向かう隊員達……。


「紫苑ちゃん、なんだかんだ一緒のグループで活動するのは初めてだよね……よろしくね!」


「ええ、よろしく」


その道中、紫苑に話しかけた聡美。


それは紫苑も嬉しく思っており……朝礼時に理奈を睨みつけていた時とは一変、口角を上げながら聡美に返事をした。


「よっと……おはようコスモス!」


「はい、おはようございます。聡美様」


紫苑と一緒に仕事が出来るのは物凄く嬉しい……だが今回は、美夜子とも力を合わせて資源を回収して行かなければならない。


先程は歌を目撃してしまい、気まずい感じになってしまったが━━この間出会った〇三部隊の室井薫から教わった気持ちの切り替え方を参考にして、もう馴れ馴れしいとか思われてもいいから、任務中は美夜子とも仲良くしようと、コスモスに乗り込みながら聡美は思うのであった……。


「……よし」


……それと、聡美はちゃっかりいつも一緒に寝ているテディベアをコスモスに持参してきていた。


紫苑と美夜子と一緒のチームにいる事もさながら、この子とならどんな場所へでも行ける……洞窟という未知の場所への恐怖を勇気に変えて、聡美はテディベアを抱き締めた後に膝の上に置いたのだった。


『よし皆集まったね〜、それじゃあ〇五部隊!出撃!!』


『『『はい!!』』』


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


……その後、地上。


『では我々はムサシで資源の回収を行っていく……星出、大西、私に着いてこい』


『あいあい!』


『了解!』


ゆあの乗っているニーレンベルギアは、彰子の乗っているストックと歩佳の乗っているオリーブを引き連れて、今回の回収対象であるムサシへと出発していった。


「……」


……それから地上と地下を繋ぐトンネル付近に取り残された、コスモスとデイジーと美夜子のトレーラー。


「うぅ……」


こちらのチームには、指揮をする役職者がいないので……誰も動かず、無線が飛び交わず、立ち止まったままの気まずい雰囲気に、聡美は圧迫されていた……。


「……」


その一方で動こうとしていたのは美夜子であった。


美夜子は〇五部隊が出来た時からいる、所謂ベテランに入るコレクターだ……そんな先輩である私が、後輩達を纏められなくてどうするんだと、美夜子は葛藤していた……。


「━━そしたら洞窟に行きましょ。私がナビを設定するから、あんた達着いてきて」


『あっ、うん!』


『……』


その気持ちを言葉にして、美夜子は聡美と紫苑に無線を入れた……そうしてバラバラになっていた二人は、美夜子の元にやって来た。


「━━ペチュニア」


『はい、美夜子様』


「洞窟までのルートを表示して」


『畏まりました、音声案内を開始致します。現在地から洞窟までの距離は四十三キロメートル。到着予定時刻は十時五十三分となります』


「分かったわ……行くわよ二人共」


『うん!』


『……』


ペチュニア━━自分で名前をつけたトレーラーに、美夜子はそのように指示を出して、モニター越しに見える地上の世界に沿ってルートを表示させた。


地上に出てから三分経った現在……三人は漸く、洞窟を目指して歩き始めた━━


「……」


それからの移動中……再び誰も話さず、ただ黙って洞窟を目指していく沈黙した時間が流れる……。


「うぅ……」


━━気まずい!


美夜子が一緒にいる緊張感で、今の聡美は紫苑といつものように話せなくなっており……逆に美夜子との会話に集中してしまうと、紫苑と一緒に仕事出来て嬉しいと言った癖に、彼女を放ったらかしにしてしまう事態となる。


いやでも、私が頑張って何とかして二人と会話をしてみせよう……そう思い、聡美は口を開く━━


「━━いやぁ!特物の回収チームに入れて貰って光栄だなぁ!私達は大型を確保してないのに、特物を回収させて貰って大丈夫なのかなぁ?ねぇ紫苑ちゃん!?」


『ん? えぇ……そこに関しては私も、申し訳無いとも思っているし感謝もしているわ』


「だよね!ごめんね油井さん〜……本当に私達も、特物を回収しちゃって大丈夫なの!?」


『そこは気にしないで。特物って大型ほど大きくは無くて寧ろ小さいんだけど……沢山の資源が凝縮されてるって感じだから。一体分のトレーラーに積んであるボトルだけじゃ回収しきれないレベルの量だから、気にせずジャンジャン回収して頂戴』


「よかった〜ありがとう!」


……いい調子だ。


紫苑と美夜子にバランスよく話し掛けていく中で……二人が今どのような事を考えているのか、知る事が出来る。


特に紫苑は、特物を回収するのに後ろめたい気持ちを持っている……その謙虚さがあれば、美夜子はそんな紫苑を受け入れてくれて仲良くする事も出来るだろう。


だが今すぐそうする事は出来ないので……私が二人の仲介役となって話しを進めようと、聡美は思った。


「てか凄いねぇエースコレクターって!油井さんって私達とは同い歳の筈なのに……どうやったらエースコレクターになれるの!?」


『そりゃあ、資源をとにかく回収しまくる事よ……この間の大型争奪戦の時だって、絶対に私達が確保するぐらいの根性と意地があれば、誰だってエースコレクターになれるわ』


「そうなんだ!きっと洞窟でも凄まじい回収を見せてくれるんだろうね〜。どういう風に回収していくのか参考にさせて貰おうね! ねっ紫苑ちゃん!」


『ええ……そうね』


『……』


会話している中で、紫苑が美夜子の事をどう思っているのか……その片鱗が見えた。


敵意を持っている感じでは無い。


参考にさせて貰おうという、嫌いであれば嫌がりそうな事に対しても紫苑は素直に言う事を聞いた。


この調子であれば、紫苑と美夜子が打ち解けやすい展開に持っていけるかもしれない……そう思いながら聡美は、再び口を開けようとする━━


『随分その子と仲がいいのね━━紫苑』


「……へ?」


『……』


突如、仲介せずとも直接紫苑に話し掛けた美夜子。


いつかは名前で呼び合える程の関係になって欲しい……そう願っていた直後に起きた出来事で、しかも名前で呼んだ為に聡美は驚いた。


『あんなに人に興味が無かったあんたが、誰かと友達みたいな感じで話してるなんて……正直驚いたわ』


『……話していて、何か悪いのかしら。それに聡美さんは友達みたいじゃなくて、普通に友達よ』


「し、紫苑ちゃん……」


そうして紫苑の方も、直接美夜子に向かって返事をした。


『別に悪いとは言ってないわよ。友達同士になった方が仕事も楽しくなるし、古川さん以外とも好きなだけ仲良くすればいいじゃない』


『……言われなくてもそうさせて貰うわ』


『はぁ、本当に変わったわね……自分から古川さんの友達を名乗るなんて、誰かと一緒にいるよりも独りでいる方が好きな人だと思ってたんだけど?』


『独りが好きな訳では無いわ……勝手に決めないで』


『てかさ、あんた━━私よりも古川さんの事が好きなんでしょ』


『っ……』


「……えっ?」


無理に入らず、二人の無線を聞いていた聡美……突如自分の事が話題に出てきて、聡美は声をあげた。


そして美夜子に対して、一話一答で言い返していた紫苑も……その質問をされた時だけは即答をしなかった。


『━━ええ……聡美さんの事は好きよ』


「!? しっ、しし、紫苑ちゃん……?」


『でもあなたよりも好きという言葉には語弊がある……聡美さんの事が好きだからと言って、あなたの方は嫌いという訳で無いわ』


『一々そんな事を聞いてくるなんて━━美夜子さん、私に嫉妬でもしているのかしら?』


『っ……』


今度は紫苑の方から仕返しをするように、美夜子に対して核心をつく質問を飛ばした……それは目には見えない槍となり、確実に美夜子の心に刺さり、彼女は言葉を詰まらせる……。


『……別に? あんたが人に興味が無いって理解してた頃から、私は私で好きにやらせて貰ってたし……あんたもあんたで好きにやればいいじゃない!』


「あっ……」


そして詰まらせた結果……美夜子はペチュニアを操作して先に行ってしまった。


『……』


そんなペチュニアを追いかける事無く、紫苑は立ち止まったまま美夜子を見送った……。


会話には置いてけぼり、何が何だか分からない聡美も、紫苑と共に立ち止まっていた……。


「あの、紫苑ちゃん……その……油井さんとは一体どんな関係なの?」


『悪いけど仕事に集中したいから、今は話せないわ……私達の事が気になる気持ちも分かるし

、そうなっているのも完全に私達のせいだけど……あなたもお仕事に集中して』


「う、うん……わかった……」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


……それから洞窟に辿り着いた、聡美と紫苑と美夜子の三人。


「……」


洞窟の入口は、ピーストレーラーを問題なく入れられる程に大きく……三機は洞窟の中に入ると、その中の状態を確認した。


入口が広ければ、洞窟の中も広い……その至る所では、沢山の小物資源が落ちていた。


「まずはここら一帯の資源を回収しちゃいましょ、特物を探すのはその後よ……そしたら私はここの資源を回収するから。 古川さんは向こうの方の資源を、紫苑はあっちの方に落ちてる資源の回収をお願い」


『りょ、了解!』


『……うん』


「そしたら……ペチュニア、閃光弾出して」


『承認、閃光弾発射スタンバイ━━発射します』


美夜子からリクエストを出されて、ガチャガチャと音を立てて右腕が変形していくペチュニア……


やがて右腕はキャノン砲のような物に変わり、美夜子はその中に込められている閃光弾を天井に向けて発射させて……弾は天井に付着して、洞窟の中一帯を照らした……。


『おー明るい!』


「あまり奥に行き過ぎると絶対に逸れるから……資源はここにある明かりの届く範囲に落ちてるやつだけを回収すんのよ」


「とりあえずここを集合場所にするから……暗い場所に資源が落ちてても、それは回収しないで絶対にここに戻ってくる事……資源を回収する事よりも、逸れない事の方を意識して頂戴……いいわね二人とも」


『わかった!』


『……了解』


そうして美夜子の指示に、聡美と先程微妙な会話の終わり方をしてしまった紫苑も従って……三人はそれぞれ、手分けして別の場所で回収作業を始めた……。


『……』


『……』


無線で雑談もせず、ただ黙々と回収作業を行っていく紫苑と美夜子……。


「……」


そんな静かなコスモスの中で、聡美もすっかりとレーザーソーを使いこなして資源を分解させた後、三態変化光線銃で液体にしてからクリーナーで資源を回収していく。


そうしてスムーズに作業が出来ている中で……他の事を考えられる余裕が生まれた為に、聡美の中でとある気持ちが膨れ上がっていた。


━━紫苑と美夜子の関係についての疑問。


紫苑からは仕事に集中しろと言われていたが……ただ口で言われただけで考えないようにするには無理な話であった。


『聡美様、ただいま回収した資源により、これまでに一日で回収した最大資源量を更新致しました。おめでとうございます』


「あぁありがとう、コスモス」


友達では無いと思っていたが、普通に馴染みのある感じで話していた二人……大前提として、二人はどのような関係なのか。


油井さんはどうして、紫苑ちゃんから見た好感度を気にしていたのか……油井さん自身に対しての物も聞いていたし━━もしかして油井さんは、紫苑ちゃんの事が好き……?


それでもし好きだったとしたら━━油井さんにとって、紫苑ちゃんといつも一緒にいる私の事は邪魔な存在とでも思っているのか……?


誰も答えを教えてくれないコスモスの中で……聡美の中で勝手な憶測による考えが更に膨れ上がっていく……。


そして、あんなに怖かったレーザーソーを聡美が扱えているのは……その考えで脳内が圧迫されている為に、恐怖を感じる余地が無いからであった。


「はぁ、はぁ……」


━━そうして考えながら回収を続けていき……聡美が気がついた時には、身体にかなりの疲れが溜まっている状態になってしまっていた……。


今まではそうでなかったのに、そうして"疲れた"と脳で認識した瞬間……精神と身体が合わさった聡美の疲弊状態は、ますます酷な物になっていく……。


「はぁ……はぁ……っ……」


『聡美様━━現在の聡美様は四時間連続で回収作業を行っています。これ以上の連続作業は身体に重大なダメージをもたらしてしまう可能性があり、当機は休憩時間を設ける事を提案致します』


「!? いつの間にかそんなに経ってたの!? ならそうだね……ありがとう、コスモス」


答えが分からないまま、これ以上考え事をしていても仕方が無い……一旦気持ちをリセットしよう。


それにそろそろ……紫苑ちゃんと油井さんとお話がしたい。


二人が直接会話が出来る関係だと分かっていても尚……聡美は仲介役としての立場を、まだ辞退したつもりでは無かったのだ。


「━━お昼にしよう!!」


なんの前触れも無く、突如無線をオンにしてそのように叫んだ聡美。


『『……えっ?』』


……同じく回収に集中していた様子の美夜子と紫苑は、同時に返事をした。


「気がついたらもうお昼過ぎちゃってた!私もうお腹ペコペコだよ〜」


『あら、もうこんな時間だったのね……そうね、午前の分は充分回収出来たし、私も休みたいわ』


『……そしたら、どこかで集合する?』


「うん!じゃあさっきの明かりの所に集合で!」


ペチュニアの中で伸びをしながらリクエストに答えた美夜子と……集合するかを聞いて、一応皆で昼食時間を過ごす気がある意志を見せた紫苑……そんな二人に、聡美は招集をかけた。


「……よっと」


それから閃光弾の発光源に真っ先に戻って来た聡美……セーフフィールドを展開してコスモスから降りて、紫苑と美夜子が来る前にそそくさと昼食の準備を整えていく。


二人を仲良くさせるとしたら、直接顔を合わせて食事をする事となる昼食の時間がチャンスだ━━そう踏んだ聡美は、二人に楽しく昼食時間を過ごして貰えるように、どんな料理でも作れるような量の野営器具を持参して来ていた。


「━━随分と沢山持ってきたのね」


「あっ紫苑ちゃん!えへへ……この間シナノで彰子ちゃんと一緒に食べたお昼ご飯が美味しかったからさ〜、その時の味を再現出来るように、ちょっと頑張っちゃった!」


「なるほど……聡美さん、料理出来たのね」


「出来ないよ〜、でも持ってきたのは全部レトルトだから私でも作れるから大丈夫! あっこれ紫苑ちゃんの分の椅子ね!」


「……ありがとう」


その後、器具をセット出来た段階で紫苑がデイジーから降りて、聡美の元にやって来た……聡美は水を沸かし、紫苑は椅子に座り……後は美夜子が戻ってくるのを待つだけである。


「━━あら、張り切ってるじゃない古川さん」


「あっ、油井さんおかえり!」


「……」


「ただいま。その様子だと古川さんがお昼ご飯を作ってくれるのかしら?」


「うん!歩佳ちゃんとは違って私は上手じゃないし、作るのもレトルトになっちゃうんだけど……それでもいいなら!」


「いいえ、作ってくれるだけで有難いわ。それじゃあお願いね」


「うん、任せて!」


それから紫苑に注目されながら……美夜子もやって来て椅子に座り、特物回収作戦のメンバーが揃った。


紫苑の事が好きならば、一緒にいる私の事は嫌い━━そう聡美は過程していたが、美夜子は笑顔を織りまぜて会話をしてくれている。


聡美はその事に安心しながら……レトルト食品が入っている風呂敷を開けた。


「紫苑ちゃんも油井さんも何食べる〜? 米にかける物でもパンにかける物でもパスタと混ぜる物でも何でもあるよ!」


「……ペペロンチーノがあったら、それでお願い」


「親子丼とかあるかしら」


「……おっ、二つともあるね!それじゃあパパっと作るから二人共待っててね!」


そうして紫苑はペペロンチーノを、美夜子は親子丼を選んだ事により……沸騰したお湯にレトルト食品の袋を入れている間に、米を炊き始める聡美。


「「……」」


紫苑と美夜子は、ちょこんと座って大人しく待ちながら……ぶくぶくと沸騰している鍋の中を見つめていた。


「……紫苑ちゃん! 紫苑ちゃんは洞窟の中の資源は回収した事があったんだっけ?」


「ええ、私は一回だけ……聡美さんは初めてだったわよね」


「うん! 地上の世界ってただでさえ薄暗いから、洞窟の中に入ると殆ど見えなくなっちゃうよね〜……ほんと、油井さんが用意してくれた閃光弾様々だよ!」


「……ええ、そうね」


「……」


会話の中にキレが無いというか、何だか本調子では無い様子の紫苑……聡美からの感謝に紫苑が同意したタイミングで、美夜子は紫苑の方を見る……。


だが紫苑の方から美夜子に目を合わせる事無く、そっぽを向く紫苑……あ〜あと思いつつ、聡美は美夜子の方にも声をかけようとする。


「油井さん! 油井さんは今の所どれくらい資源を回収出来た?」


「特物の為にスペースを余らせておかなきゃいけないから、そんなには回収してないわ……古川さんの方はどう?」


「んぅ、ぼちぼちかな〜……でももう、資源自体をスムーズに早く回収出来るようになったよ!」


「凄いじゃない。私はエースコレクターとして回収量一位でやらせて貰ってるけど、古川さんの方は隊の中で一番早く資源を回収出来るように目指すのもいいかもしれないわね」


「えぇ、出来るかな〜。その為にはまず、米田さんが見せてくれた回収スピードを越えないと……」


「それと━━私の事も名前で呼んでくれていいわよ」


「……えっ?」


「紫苑の事は名前で、私の事は苗字で呼んでたらこんがらかっちゃうでしょ? だから私の事も名前で呼んで、統一して貰って大丈夫よ……私も、あんたの事名前で呼ぶからさ」


「うん分かった!そしたら……美夜子ちゃん!」


「ええ……宜しくね、聡美」


「えへへ……」


紫苑と美夜子を仲良くさせるつもりで動いていたのに、美夜子と親愛度を深めてしまった聡美……予想外の出来事に、聡美は満面の笑みを美夜子に向ける。


「……」


嬉しそうな聡美を見て、美夜子も微笑んでいる……そんな美夜子の事を、今度は紫苑の方から見つめていた……。


「……なに? 何か私に用?」


「……」


その視線を感じて……逸らす事無く、美夜子の方からは紫苑に声をかけた。


「━━その子、変に気を遣わなくてもいいというか……一緒にいて落ち着くでしょう? 」


「し、紫苑ちゃん?」


紫苑から唐突に褒められて、聡美はぽっと頬を染める。


「そうね……無愛想だったあんたが、好きになった気持ちも分かる気がするわ」


「あんたとは違ってよく笑うし、何を考えてるかも分かりやすいし━━あんたなんかよりも、聡美の方がよっぽど可愛いわ」


「!……美夜子ちゃん、そこまで言わなくても……」


「━━いいの、聡美さん」


「……紫苑ちゃん?」


同意を求めてくる紫苑に、美夜子は鋭い言葉を返す……ここで何かを言い返すのが紫苑だが、反論する事無く……紫苑の為に怒りそうだった聡美の事を留まらせた。


「確かに私は無愛想だった……誰かに興味なんて無かったし、誰かと仲良くなんかしなくても、AGPRの中で仕事をしていけると思っていた……」


「でも聡美さんと出会って、貴女の言う通りに私は変わった━━仲良くしなくていいなんて、友達が出来なかった事の理由にして強がって、本当は寂しかった気持ちを押し殺していただけ……」


「紫苑ちゃん……」


「……」


今の紫苑は、いつもとは明らかに違う……しおらしく自分の思っていた事を話す紫苑に、聡美は心配そうに名前を呟き、美夜子は腕と足を組みしかめっ面から表情一つ変えずに話を聞いていた……。


「だから今は逆に、皆と仲良くしながらお仕事をしたいと思っているわ……その楽しさを、聡美さんは私に教えてくれたから」


「……」


「だから……昔の私とは違うから……今の状態で、もう一度私にチャンスをくれないかしら?」


「……」


「今度は無視をしないで、ちゃんと返事をして……ちゃんとあなたと会話をするから……美夜子さん」


「……」


……そうして紫苑の話が終わり、紫苑は心の底から訴えている気持ちで、美夜子の名前を呼んだ。


美夜子はふぅとため息をつくと……眉間に寄せていた皺を元に戻して、話を続けた。


「とりあえずあんたが何考えてんのか、やっと気持ちが分かったわ……相当焦ってるっていうのもね」


「仲直りの話とか素直にならないと絶対に出来ないから、誰にも見られたくないから二人だけで話す所なのに……事情も知らない聡美の前で、そんなお願いする普通?」


「……ごめんなさい」


「いや、別に謝んなくていいわよ……寧ろ謝んのは、勝手に話に巻き込んでる聡美に対してじゃない?」


「……そうね」


「え、えっと……」


再び黙って話を聞いていた聡美……呆然としていると、いきなり紫苑と美夜子から視線を向けられて、聡美は戸惑う。


「ごめんなさいね、聡美……もう何が何だかって感じでしょう」


「ううん、それは平気なんだけど……私、この場にいてもいいのかな……」


「大丈夫よ……この際私達がどんな関係なのか話すわ……この子になら話してもいいわよね、紫苑」


「……」


「……絶対に誰にも言わないって約束出来る?」


「う、うん!!」


美夜子からの要望に、紫苑は黙ってこくりと頷いた。


他でもない、仲良くしたいと思っている美夜子からのお願い……そんな彼女からの約束を絶対に守ると聡美は決意した後、ドキドキしながら美夜子の言葉に耳を傾けた━━


「私と紫苑はね━━婚約をしているの」


「……」


「へぇ〜……ええええっ!?」

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