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第九話『愛情の絆、永遠の美、求愛 II』

━━Above Ground Peace Regain.


略してAGPR……地下で暮らす人々が、再び地上で生活出来るようにする為に、有害物質や兵器という名の資源を回収し、地上を綺麗にしていくのを目的として設立された組織である。


「……」


部隊としては全部で五つあり、その中で聡美は〇五部隊に所属している訳で……甲板から見えている、関わりが無い未知の存在である〇三部隊の者達に興奮と期待を隠せずにいた。


『━━ここら辺でいいですかね?』


『ええ、そこなら目立つし大丈夫だと思うけど……』


そんな〇三部隊のトレーラー二機は、何やら旗を出して……シナノの前に立てようとしていた。


「……あーっ!!!」


その光景を彰子も見ており……そのタイミングで何かを思い出すかのように、彰子は唐突に叫んだ。


「っ……びっくりした、彰子ちゃん急にどうしたの?」


「あっごめん……でもああされるのはマジでまずい! このシナノが俺達〇五の物じゃ無くなっちまうぞ!」


「ええっ!?」


「ちょっとあいつら止めてくるわ!」


「わ、私も行く!」


そうして彰子はストックに乗り込み、明らかに急いでいる彰子のペースに遅れないように、聡美もそそくさとコスモスに乗り込む。


「聡美!マジでマジの緊急事態だから、悪いが俺はここから飛び降りてあいつらを止めに行くぜ?」


『えぇっ、ここから飛び降りるの!? 結構高くなかった!?』


「ピーストレーラーなら飛び降りた時の衝撃にも耐えられる……そうだろストック?」


『甲板から地上までの距離、十三メートル。当機は百メートルの高さから落下した場合でも損傷無く着地する事が可能です』


「へへっ、頼もしいな……それじゃあまたな聡美!聡美は危ないから、ちゃんと中から通って地上に来るんだぞ!」


『ええっ!?』


そう聡美に言い終える頃にはストックは既に甲板から身を乗り出しており、地上に目掛けて飛び降り始めていた。


『ちょっと待てお前らああああああああ!!』


「うう……」


可能であれば、彰子と揃った状態で同じタイミングで〇三部隊の者達とコンタクトをしたい。


だが危ないや怖いというよりは……例え機体が耐えられるとしてもコスモスを大事にしたいから、聡美は甲板から飛び降りれずにいた。


『聡美様、宜しければパラシュートをお使いください。そうすれば安全に地上に着陸する事が出来ます』


「あっそうなの?そしたら、降りてもいいかな……」


そんな聡美をコスモスは怖がっていると判断し、そのような提案を出した事で……聡美は飛び降りる決意をしたのであった。


「えいっ!」


彰子は既に着陸しており、〇三部隊のトレーラー二機と向かい合っている。


迷っている時間はもう無い。なので怖いと思う前に勢いに任せる事にして、聡美はぴょんと甲板から飛び降りた。


「うわっ……」


瞬時に開くパラシュート、それに合わせて瞬時に落下速度もゆっくりになり……


そのまま地上に着地して、パラシュートが機体に覆い被さって周りが見えなくなるも……すぐに背中へと収縮されて、周囲の状況を確認出来るようになり……


「ほっ……」


『聡美様、綺麗な着地お見事でございます』


「えへへっ、ありがとっ」


ストックと〇三のトレーラー二機は依然として睨み合ったままで……会話はまだ始めていなさそうな現状に、安全に着地出来た安心も含めて聡美は溜息をつくのであった……。


「っ……」


だがその安心の時間はすぐさま終わり……三機のトレーラーが睨み合っている事で生まれる緊張感に、聡美は圧迫されそうになる。


〇三部隊のトレーラーにはどのような人物が搭乗しているかも分からない……その得体が知れない恐怖に、聡美は思わず一歩コスモスを後退させたその時━━


『━━頼みます!!この大物、俺達に譲ってください!!』


「!?」


これから他部隊との抗争が始まりそうな程のピリピリとした空気だったが……彰子は二機のトレーラーに向かって、ストックを使って手を合わせて頭を下げて、謝罪をした事でその空気は崩れたのであった。


更にその時━━


『聡美様』


「ん? どうしたのコスモス」


『前方、〇三部隊二機のトレーラーより、通話申請が届いております』


「……あっ、お話したいって事かな。 いいよ! 繋いでくれる?」


『畏まりました。 彰子様のストック機も合わせて、グループ通話を起動します』


それからモニターに、彰子のアイコンと〇三部隊のトレーラー二機のアイコンが表示されて、グループ通話が開始された次の瞬間━━


『━━ダメに決まってんじゃん!』


「えっ……」


二機に乗っている内の一人からそう言い返されてしまい、その迫力に聡美は声を漏らした……頭を下げた彰子の誠意が無駄になってしまったのであった。


『ですよねー……』


当の本人も魂が抜けたように、全てを諦めたかのように元気無く声を漏らした。


『まぁまぁひかりちゃん? 先に来ていたのは〇五部隊の人達で間違いないんだし、そこまで強く言わなくても……』


『いや甘いっすよ薫先輩! 先に来てたのは向こうでも、旗を立てたのはウチらが先だしー』


『そうだよなー……いややべぇな、マジで……」


「?」


シナノを譲って貰えなさそうな流れになっているが、彰子は何も言い返せずに〇三部隊の娘からの言葉をただ受け入れる事しか出来ずにいた。


しかし彰子の出す一声一声が先程から震えており……断られて落ち込んでいるというか、どこか怯えているような感じがして聡美は疑問に思った。


「彰子ちゃん、どうかしたの?」


『ああ実はな━━俺も理奈さんから、シナノを見つけたらまず〇五部隊の旗を立てるように言われてたんだ』


「……えっ!?」


『でもすっかり忘れて、資源の回収を先に始めちまった……やべぇ、俺帰ったら理奈さんに殺されるかも……』


「そんなに!?」


普段は緩くてマイペースそうな我らが〇五部隊隊長の理奈。


そんな彼女を怒らせたらヤバそうなのは……今朝のミーティングで、美夜子に対してチームワークの大切さについて説いているのを見ていた聡美にも充分伝わっていた。


「彰子ちゃん、そんなに怖がらなくて大丈夫だよ……こうなったら、私も一緒に理奈さんに殺されるよ!」


『!?、なんでそうなる? 聡美は何も悪くねぇだろ』


「ううん、彰子ちゃんと一緒に行動している時点で、その事に気付かなかったり疑問に思わなかったりした私にも責任があると思う……」


「それに、私達はチームだし……彰子ちゃんだけに責任を押し付けて、私の方はお咎めなしで知らんぷりなんかそんなの嫌だよ!」


『聡美、お前……』


「でも殺されるのは流石に嫌だから……普通に一緒に理奈さんに謝ろ? ね?」


『ああ、そうだな……』


そうして彰子に励ましの言葉を送った聡美。


彰子の声の震えが少しだけ軽減されたような気がした……素直に話を聞いてくれる彼女に対して、聡美は励ましてよかったと思うのであった。


『何やら物騒なお話をされていますが……ここは公平に半分ずつ資源を分け合うという事でどうでしょうか〜?』


『えっ、いいんすか?』


そして彰子にとって、優しいのは聡美だけでは無かった。


声からして大分のほほんとしたお姉さんっぽい……〇三部隊の内の一人からそのような提案をされて、彰子は顔を上げながら声に元気を取り戻した。


『いやダメですよ薫さん! そんな事したら旗立てた意味が無くなっちゃうじゃないっすか!』


『えぇ〜、そうかしらぁ。夏見ちゃんなら何だかんだ許してくれそうだけどー……』


『いやダメダメ、マジでダメ。その部隊の物の証明になる旗を最初に立てなかった、あいつらの方が完全に悪いっす。忘れてたとかマジで舐めてるっしょ』


『ううっ……』


……だがもう一人の、強気でギャルっぽい口調の娘に……お姉さんの優しさが掻き消されてしまう。


そして次々と事実を、言葉の槍に変えて……彼女は彰子の心に突き刺すのであった。


「っ、そこまで言わなくても……!」


ここで黙っている聡美では無い。


お姉さんが優しいので、ギャルの口の悪さが余計に目立つ……なので聡美はそう言い返す事で、ギャルに対しての敵意を剥き出しにした。


『てかよく見たら、二人とも〇五じゃん。そんな数字が一番下のヘンキョーにいる隊に、ウチらが大物を譲る訳無いじゃん』


『ヘンキョーの隊ならヘンキョーの隊らしく、地元の小物資源だけをちまちま回収してろよバーカ!』


『……おいテメェ、それは普通に聞き捨てならねぇぞ』


「っ……!! もう完っ全にあったまきた!! ちょっとそこの人、今から外に出てきてよ!!」


『ん? 聡美?』


更にギャルから嘲笑しながらの追い討ちを喰らい、流石に彰子も感情を露わにしたが……聡美は彰子以上に彰子が冷静になる程に怒り、そのようにギャルに吹っ掛けた。


『……ひかりちゃん、今のは流石に言い過ぎよ。謝りなさ━━』


『はぁ? なにあんたウチとやる気!? いいわ買ってやんよそのケンカ!!』


そして聡美の怒りの炎はギャルの方にも燃え移り……お姉さんからの注意を無視してしまう程に、炎を散らして聡美に威嚇した。


「そしたらコスモス! えっと……セーフフィールドを展開して!」


『聡美様、資源回収や食事の時、緊急事態以外でセーフフィールドの使用は禁止されています』


「いいから展開して!!」


『……畏まりました』


更に周りが見えなくなっているのは聡美も同じ……先程まで大事に扱っていたコスモスにさえ、そのように言い返してしまう程に今の聡美はとても怒っていたのだった。


「ねぇまだ?」


そうしてハッチを開けて外に出てきた聡美。


聡美はそう煽りつつも、向こうの〇三部隊のトレーラーの一機もハッチが開き、今正に外に出てこようとしていた。


「っ……いい加減にしろよテメェ!」


……やがて出てきたのは結び目の根元が動物の耳のようにピョンとはねている、黒髪のツインテールの少女。


彼女は八重歯を剥き出しにしながら聡美を睨みつけて、ズンズンとこちらに近付いてきている。


「!!」


つり目から生えている長いまつ毛も合わせて、口調も見た目も明らかなギャルである少女……だが聡美は不良っぽいビジュアルに全く怯む事無く、こちらからもギャルに近付いて立ち向かっていく……。


「旗を立てなかったのはこっちが悪いとしても……私達をバカにしたのは絶対に許さない! 謝ってよ!!」


「うるせぇよ!! そもそもここら辺は基地が近いウチら〇三のテリトリーだし! 〇五の方が遠いくせに態々こっちまで来て調子に乗ってんじゃねぇよ!!」


「テリトリーなんて知らない! だったらその場所の入口から分かりやすいように、そっちの方に旗を立ててよ!! そんな配慮も出来ないくせに自分の物ぶってるから先に取られちゃうんだよ!! 」


「━━本当に大切に思ってるなら、他所から来た人達に取られる事を予測して、もっと早く動きなよばかっ!!」


「っ!!……んだとテメェ!!」


「!!」


ギャルの〇五部隊に対しての見下している態度に対して、聡美はそれ以上に〇三部隊がおかしたであろう失態を次々と口にしていく。


その指摘は確実にギャルの心に刺さり……我慢が出来なくなったギャルは、遂に聡美の胸ぐらを掴み始めた。


「━━おい待て待て!!」


この流れは流石にまずいと思った彰子は、聡美とギャルが言い合っている間にハッチを開けて外に出ており……そのタイミングで二人に近付いていった。


「っ!!━━」


一方で聡美は胸ぐらを掴まれて、完全に大嫌い判定を下した者から触れられて……聡美の方からも手を出そうと、ギャルの頬に向かって手を振りかざそうとしていた━━


「よせ、堪えろ聡美! 任務中に他部隊と資源の取り合いで乱闘になったなんか知られたら、全隊会議モノになっちまうぞ!」


「彰子ちゃん! でもっ……!」


「ここで手を出したら聡美の方が悪くなっちまう! こんな奴の為に聡美が処罰される必要なんかねえって!」


「くっ……! わかった、ごめん……」


そうして背中から手を回されて、取り抑えられながらギャルから引き離された聡美は……彰子からの説得を受けて冷静さを取り戻した。


「っ、待てよテメェ!」


手を出されなかった事で痛い思いをせずに済んだギャル━━


「っ!!」


「━━」


だがそれを、いつの間にかトレーラーから降りていたお姉さんが許さず……ギャルに向かって平手打ちを喰らわせたのであった。


「……」


そのパチンという音と共に、急に静寂が訪れる━━赤くなった頬に手を当てながら俯くギャルを、聡美は何とも思わず見つめていたのであった……。


「うちのひかりちゃん最近〇三部隊に入ったばかりで……それが嬉しくて、よく分からない理由だけど貴方達を馬鹿にしてしまったんだと思う……ごめんなさいね、ひかりちゃんの代わりに謝らせて頂戴」


改めて見るお姉さんの姿━━茶髪の長い髪を三つ編みで纏めて、それを右肩の前から通している髪型をしており……ギャルを睨みつけている時は一瞬だけ鋭い物になっていたが、優しそうな垂れ目を二人に向けながら、彼女は両手を前に合わせて頭を下げた。


「い、いえこちらこそすんません! 俺が旗を立てなかったせいで、シナノがまだ誰の物にもなってないって勘違いさせてしまったみたいで……本当すんませんでした……」


ギャルでは無くこのお姉さんとなら、まともな話が出来そうだ。


そう確信した彰子は、聡美にかけていた腕固めを解除した後にお姉さんに頭を下げ返した。


「……」


彰子だけに頭を下げさせる訳にはいかない……聡美はそう思って、彰子に続けてお姉さんに頭を下げた。


「いいえ〜。ふふっ、とりあえず初めて会った事だし、自己紹介をしなきゃねぇ」


そうしてお互いに謝罪し合った後……お姉さんは柔らかい笑みを浮かべながら両手を合わせて、場の空気を切り替えようとしていた。


「私は〇三部隊所属の室井薫よぉ。歳は十九で、〇三部隊では後輩ちゃん達を纏める班長を務めているわぁ、よろしくね〜」


「よろしくっす……えっと、俺は星出彰子っす」


「……古川聡美です、よろしくお願いします」


表情が柔らかければ口調も柔らかい、先程ギャルにビンタを喰らわせた者と同一人物だとは到底信じられない、二人に優しいお姉さんな印象を与える薫。


彰子と聡美はそんな薫に戸惑いながらも、自らの名を名乗った。


「それで、この子が藤堂ひかりちゃん。さっきも言った通り〇三部隊には入ったばかりの新人ちゃんよ〜」


「……」


そして次はひかりの両肩に手を置いて、自己紹介するどころでは無い彼女の代わりに、二人に名前を教えた薫。


ひかりは勝手に名前を教えた薫に言い返す事無く……依然として頬を抑えながら、二人から目を逸らしている。


何を考えているか分からないひかりに対して、もう怒っているとは感じずに優しく振る舞う薫……この切り替えの早さが大人か。と聡美は思うのであった。


「そしたらどうしましょ、ここはやっぱり先にシナノにいたあなた達〇五部隊に譲るという事でいいかしらぁ?」


「それはそれでありがたいんすけど……うーん、このまま全部頂いちまうのも、なんか申し訳無さがあるというか……」


「大物の資源って、他の隊の人達と山分けとか出来ないの?」


「それが出来ねぇんだよな……大物の資源は一番早く旗を立てた隊の物になるっていう、早い者勝ちにする事で隊のモチベを上げさせる為のAGPR本部が決めたルールがあるんだ」


「そっか……」


先程譲ってくれと頭を下げていた時とは一変……お姉さんの態度を見て申し訳なさが生まれ、しかしそのまま譲り返したら理奈に怒られるしなぁと、二人を天秤にかけて困っている最中の彰子。


一方で聡美は、彰子からAGPRのルールを聞いて……仲良く分け合うといった友好的な物が感じられない、AGPR本部の情の無さを知る。


「……?」


━━その時、フィールドの外殻にぽつりと水滴がついて、そのまま下へと流れていったのを聡美は確認した。


……その水滴は上から次々とフィールドに付着し、外殻全体をあっという間に覆っていく。


「!? やべぇぞ聡美、黒い雨だ! 急いでトレーナーに戻ってシナノの中に入るぞ!」


「う、うん分かった!」


「あの、よかったらお二人もシナノの中にどうぞ」


「ありがとう、そうさせて貰うわぁ。行きましょひかりちゃん」


「……はい」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


任務中であろうが容赦なく地上に突き刺さる黒い雨。


「……」


それは現在本降りとなって、地面や岩に当たって溶かしている様を……緊急事態の為に再々度セーフフィールドを展開した上で、聡美はシナノの中から伺っていた。


「予報より早くから降って来ちまったな……あの様子だと暫くは止みそうにねぇぞ」


彰子はぽつんと立っている聡美の隣に立ち、スマホで地上の天気予報を確認しながら自身の頭をかいた。


「……でもこの中にいれば安全なんでしょ? だったらその間に資源を回収しちゃおうよ」


「そうしたい所だが、まずは理奈さんに報告だ。下手すりゃ今日はこの中で泊まりになるぞ」


「えっ、そうなの?」


彰子からそれを聞いて、不謹慎だが一瞬だけわくわくした気持ちになった聡美。


だがこの間歩佳の家に泊まった時とは違い……今回は帰りたくても帰れない、緊急事態でやむを得ない状態で外泊をする事になると察して、わくわくしてはいけないと思って聡美は考え方を変えた。


大きなシナノの中にいれば黒雨に当たる事は無いとはいえ、完全に安全だとは言い切れない……だが彰子と一緒にいれば大丈夫だろうと、口角をあげながら聡美は思うのであった。


「夏見ちゃん大変!基地に帰れなくなっちゃったわぁ……」


「……ええ、今はひかりちゃんと一緒にシナノの中にいるわぁ」


「それでねぇ、今は私達だけじゃなくて〇五部隊の子達とも一緒にいて━━」


薫はひかりと共に、既に〇三部隊の隊長に報告を入れていた。


「さて、俺も理奈さんに報告しなきゃだな……怖えな、なんて言われんだろ……」


AGPRのアプリを起動し、隊の中でのチャット画面を開いた後に、スマホを持つ手を震わせる彰子。


そう、今の彰子は頼れる先輩モードでは無くなってしまっていたのだ。


━━守らなきゃ。


先程から彰子が脅えている、本気でキレさせたらヤバそうな理奈は確かに怖いが……〇五部隊の中では経験が少なくて失敗してはいけない責任も持ち合わせていないので、聡美は彰子程怯えてはおらず咄嗟にそう判断した。


「……彰子ちゃん大丈夫? もしあれだったら、私の方から理奈さんに言おうか?」


「いやそれは流石にさせられねぇ、先輩の失敗を新人に押し付ける訳にはいかねぇよ」


「でも彰子ちゃん……凄い汗だよ?」


「それでも失敗したのは俺だから、俺の口から理奈さんに報告するよ……ありがとな聡美。俺から直接報告して、理奈さんから直接罰を受けるよ」


「……彰子ちゃん、いなくなったりしない?」


「それだけは絶対にねぇ。安心してくれ」


聡美にはそう強く言ったが、すぐに弱々しい表情になり……彰子はすぐそばにあった石に腰掛けて、胸に手を当てて深呼吸をした後に理奈に電話をかけた。


「……あっ、理奈さんですか?」


『おーっす彰子、黒い雨降ってきてるけど大丈夫かー?』


「ああはい、大丈夫っす……今は聡美と一緒に、シナノの中にいます」


『おっ、二人とも無事にシナノに辿り着けたんだね。よかった〜……んでどうした?』


「はい、実は……っ……」


『……?』


ここまでスムーズに理奈と会話する時間を設ける事が出来た彰子……だがいざ本人に話そうとした所で、彰子は言葉を詰まらせてしまう。


理奈は相変わらず、こちらの調子が狂うマイペースな感じだが……失敗を告げた時に、彼女がどのように変貌するかが分からない。


「っ……!」


スマホを持っていない方の、膝の上に置いてある方の手の震えが止まらない……!


「……」


そんな彰子を見て、今の自分に何が出来るかを聡美は考えた……。


先輩である彰子の失敗をフォローして、〇五部隊の利益になるように導く事は聡美には出来ない。


彰子が申し訳ないと思うなら、聡美が代わりに薫と交渉してシナノを譲って貰うというのも余計なお世話であろう。


「━━」


「……!」


だから今の聡美に出来る事は……彰子がやろうとしている事を応援するという事だけであった。


聡美は震える彰子の隣に座ると……そっと手を握って、優しい眼差しで彰子と見つめ合うのであった。


聡美にとって、失敗した責任を一人で背負う必要は無いという……彰子に対しての精一杯のアピールであった。


「━━あの、仰る通り無事にシナノに辿り着く事は出来たんすけど……」


『……うん』


聡美の甲斐あって、再び話し出す事が出来るようになった彰子。


その調子だという気持ちを込めて、聡美は彰子を見守り続ける……。


「それで、着いたら真っ先に資源を回収し始めて……肝心の旗を立てるのを忘れちまって……」


「今は〇三の人達と一緒にいるんすけど……後から来たその人達に、旗を立てられちまいました……ごめんなさい!!」


『━━そっかー、まぁドンマイ』


「……へっ?」


そうして全てを伝え切ったが━━理奈のテンションは変わらない。彰子は思わず変な声で聞き返してしまった。


「……あの、怒らないんすか?」


『怒らないよー。大物を狙いに行くのはいいんだけどね〜……全部〇五の物にしちゃうのも問題があるんだ。大物を一つも取れなかったなんて事になったら、割と出来たてな〇五よりも先輩な他四隊の格好がつかなくなっちゃうからね』


『でも一個ぐらいは〇五の物にしたいよねって事で……美夜子と歩佳ちゃんがやってくれたよ〜、ムサシは〇五の物になったんだ』


『でも紫苑ちゃんと理香に狙って貰ってたヤマトは、普通に〇一に取られちゃった……流石は大物の中の大物、それをエリートしかいない〇一が見逃す筈ないよね」


『だから大物を一体取れただけで、うちとしては充分なんだ。ごめんね今更になって話しちゃって、でもこんな話を最初から聞かされたらモチベ上がんないだろ?』


「いえ、こちらこそすみません……」


『というか大物なんかを回収するよりも……皆が━━彰子が無事に帰ってきてさえくれればそれが一番の成果さ』


「理奈さん……」


謝ろうと怯えていた彰子の心は……聡美の物も合わせて、いつの間にか理奈の優しい気持ちに包まれていた。


包まれて、徐々にぽかぽかした気持ちになっていくのを彰子は感じる……。


『という訳で雨が止むまで、聡美ちゃんと一緒にシナノに入れてもらって大人しくしてるんだよ〜、〇三の人達とも仲良くね〜』


「理奈さん……分かりました!」


『あぁ、あと彰子━━基地に帰ってきたら、その日一日はメイド服生活ね』


「!? えっ、メイっ……えっ?」


『なに、文句ある? 怒らないとは言ったけど、許すとは言ってないよ? そういう事だから罰を受ける為に、無事に帰ってきてね。それじゃ』


「ヒェッ……」


息を吸いながら声を出した時には、既に理奈との通話は切れていた。


「!? 彰子ちゃん大丈夫?」


一瞬にして青ざめていく彰子の顔……それを見ていた聡美は、握っていた彰子の手の上から更に手を重ねてそう尋ねた。


「お、おう。とりあえずは大丈夫だ!今はとりあえず安静にして、雨が止んだら基地に真っ直ぐ帰ってこいってさ」


「そっか……怒ってた?」


「おう怒ってた……でも隊を辞めさせられる事は無いから安心してくれ」


「よかった〜……」


基地に帰れば、理奈から罰を受ける事が確定している彰子。


だが彰子は不思議と怯えておらず、冷静な気持ちで聡美と会話する事が出来ていた。


「手を握ってくれてありがとな……聡美も気をつけろ。理奈さんを怒らせるとマジでやばいからな」


「それは何となく分かっていたけど……そんなにやばいの?」


「あぁ、ありゃあ猫の皮を被ったライオンだ。 小せぇからってナメてかかると痛い目に遭うぞ……俺は実際遭ったし……」


「遭ったんだ……でも〇五部隊が出来た頃から一緒にいるんだったら、どうしても怒られちゃう時もあるよね」


「いや、理奈さんとは〇五が出来る前からの付き合いだぜ」


「あぁそんなに前から?」


「ああ」


それからスマホを隊服にしまい、すっかりと落ち着いた彰子は……儚げな顔になりながら昔話を始めた。


「俺な……昔は浮浪児だったんだ」


「……ふろうじ?」


「要するに親のいないホームレスだな。物心ついた時にはその状態で……同じホームレス達に育てて貰いながら、生きていく為に盗みとか悪さもいっぱいした」


「凄い……なんか、ギャングだね」


「あぁ、そう言われても仕方ねぇぐらいの事はしてた……んで、そんな中で出会ったのが理奈さんだった」


「ほら理奈さんってちっさいからパッと見弱そうだろ? だから一回奥まで連れ込んで、カツアゲした事があったんだわ」


「か、カツアゲ!?」


「でも理奈さんは強くてな……本人もナメられないように色んな格闘技やってっから、秒でボコボコにされたわ」


「ぼ、ボコボコ……」


百六十八センチ━━〇五の中では二番目に背が高い彰子と、〇五の中で一番背が小さい理奈との身長差は相当な物だ。


十五歳女子の平均身長よりもやや低い聡美は、並んで座っていても、彰子の事は見上げながらでは無いと目線が合わない……その彰子の身長の高さを身近で改めて感じながら、本当に理奈に負けたのかと信じられない気持ちでいた。


「それでボコボコにされた後に……俺は理奈さんに引き取られたんだ」


「これからある部隊を作ろうと思ってるって誘われて……ボコボコにされた後に誘われるとか、殆ど脅しみたいなもんだったけどな」


「でも俺も毎日同じ場所で同じ生活を繰り返して飽き飽きしてたから……外の世界を見てみたかったのもあってオーケーした」


「……」


「部隊っていうのは勿論〇五の事で、〇五が出来るまでの間に……盗みとかカツアゲが悪い事だって知らなかった俺に……外の世界で生きていく為には必要な常識とか、理奈さんは色々な事を教えてくれたよ」


「それで盗みカツアゲが悪い事だって漸く知れて……今まで迷惑をかけちまった人達に報いる為に、俺を拾ってくれた理奈さんに恩返しする為に、地上での活動を一生懸命頑張ろうと思ってる━━それが今の俺だな」


「……おお」


「そう言ってんのに仕事ミスっちまってて説得力ねぇけどな……とにかく、理奈さんにはすげぇ世話になってるって事だ」


「元々面倒見がいい人だからな、俺達を纏める隊長を務めてるぐらいだし……聡美も、いつかは怒られちまう時が来るかもだけど、それも絶対に聡美を思ってやってくれてる事だから……いっぱい甘えるんだぞ」


「……わかった」


そうして理奈の怖さだけでなく、彰子の過去まで知る事が出来た聡美。


それを知って、改めて聡美から見る彰子の印象……廃れていた時期があったとは思えない程、今の彰子は愛嬌がありつつも頼もしく感じられる人だ。


今は自信が無いけれど、私もAGPRで三年働けば、彰子のような頼りがいのある人物に成長出来るのだろうか……聡美はそう思いながら、理奈に対しての気持ちを言葉にして、恥ずかしそうに笑う彰子を見つめるのであった……。


「そしたら報告も終わったし、今はこのシナノの中で生き残らねぇとな……とりあえずシナノはいらないって事を、あの〇三の二人に話してくるわ」


「あっ、私も行く!」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「━━そういう訳なんで、シナノは〇三部隊にお譲りします!」


「あらぁ……本当にいいの?」


「はい、うちはもう一体大物取れたんで……それだけで充分っす!」


「ごめんなさいねぇ、ありがとう」


……それから彰子は薫に〇五の進捗を話し、薫は彰子からのシナノ譲渡を了承した。


「ほらひかりちゃん? あなたからもお礼を言いなさい」


「……あざす」


そして薫は先程から一言も話していないひかりにそう伝えると、彰子と聡美に向かって頭を下げさせたのであった……。


「そうしたらお詫びと言ってはなんだけど……うちのお風呂セットを使って頂戴なぁ」


「お、お風呂セットですか?」


「ええ、こういう事があると思って基地から持ってきたのぉ。外で野営するにもお風呂には最低限入りたいじゃない? 丁度四人分あるから、貴女達にもあげるわぁ」


そういうと薫は自身のトレーラーから取り出してきていたアタッシュケースを二つ、彰子と聡美に手渡したのであった。


「すんません……ありがとうございます」


「ありがとうございます!」


「いえいえ〜、これからシナノの中で泊まる隊同士、仲良くしましょ〜」


シナノは〇三部隊の物になったが、薫は〇五の二人を追い出す事無く、笑顔と待遇で受け入れてくれている。


「……」


そして優しい薫とは一方で、寡黙を通し続けているひかりの存在。


そんなひかりの事が気になって、度々聡美は注目するが……ひかりはぷいっとそっぽを向いて、聡美の視線から逃れるのであった。


「あら、もうこんな時間なのねぇ……そしたら私は晩ごはんを作っておくから、その間に皆はお風呂に入っちゃいなさい」


「えっ? 俺も手伝いますよ!?」


「わっ私も手伝います!」


「いいのいいの、シナノを譲って貰ってしまったんだもの、これぐらいはさせて欲しいわぁ。はいひかりちゃん、あなたの分のお風呂セットね」


「……あざす」


流石に申し訳無くなり、薫にそう主張した彰子と聡美……だが薫はそう言って、一方的に〇五を持て成したいという気持ちを見せた。


「ふんふふーん〜♪」


それからひかりにもお風呂セットを渡し終わった薫は……鼻歌交じりで料理道具を広げながら、既に晩飯の支度を始めていた。


「すごいね、〇三にはこんな便利な物があるんだ……でも使い方が分からないよ」


「俺もだ……野営する時は風呂に入らずに過ごしてたからな……」


「━━ウチが教える」


「えっ? あっ、ありがとう……」


持ち上げたアタッシュケースを睨みつける聡美と彰子に……唐突にひかりはそのように話しかけてきた。


「じゃあ薫さん……ウチら、あっちの方で風呂入ってきます」


「はーい、気をつけてね〜」


それからひかりは薫にそう伝えると、彰子と聡美を連れて、辺りが壁で囲まれている部屋のような場所にやって来た。


「そしたらまずケースを開いて」


「お、おう」


「そしたらこことここを繋げて、ここを伸ばせば……シャワースタンドが出来るから」


「おお凄い、こうなるんだ」


「それで湯船に浸かりたい場合は、こいつのここのボタンを押せば出来るから」


「おお……おっきくなった」


そうしてひかりに教えて貰いながら、シャワースタンドを組み立てたり、小さい空き缶のような物をガチャガチャと大きく変形させたりして、自分の分のお風呂セットを完成させていく彰子と聡美。


「これでシャワースタンドからはいつでもお湯が出るし、こっちのドラム缶型風呂はここのボタンを押せば勝手にお湯が溜まっていくから」


「凄い……どうもありがとう!」


「ありがとな!」


先程まで馬鹿にしていた者とは同一人物だと思えない程に、丁寧にお風呂セットの解説をしたひかり。


「別に……これぐらいしないと詫びにならないっしょ」


そして聡美と彰子から礼を言われて……ひかりは頬を染めながらツインテールをおろして、自身の服を脱ぎ出すのであった。


「……あれ?」


「いやぁ、さっきは冷や汗が凄かったからビッショビショだ。こうして体を洗わせてくれる事になってマジでありがたいぜ」


ひかりに合わせて、彰子も隊服やタンクトップも脱いでいく……。


何やら三人で一緒に、入浴時間を過ごす流れになってしまっているが……聡美がそれに気がついた時には、ひかりと彰子は既に下着だけの姿になっていた。


「どーしたの、何で脱がないの?」


「あっ、えっと……お外で裸になるのは、流石に恥ずかしいかなって……」


「えっ、なにあんた。もしかして野営初心者?」


「おう、実はそうなんだ。この聡美は〇五(うち)に入ったばっかの新人でな」


何やらもじもじとしている聡美にひかりがそう聞くと……彰子がそう答えた事で、風呂は室内でしか入った事の無い聡美が、外で裸になる行為に抵抗を感じている事をひかりは知る。


因みに聡美達が今いる場所は……部屋のような場所と言っても、そこを囲む壁が崩壊しており、殆ど外が見えてしまっている状態である。


「大丈夫か聡美? ここが嫌なら、もっと奥の方に移動しても大丈夫だぜ?」


「ううん、もうお風呂セット組み立てちゃったし……一人で入るのも寂しいから、皆と一緒に入るよ」


「ここら辺にはウチら以外誰もいないから大丈夫っしょ、外が気になるんならウチとこの人で盾になるし」


「おうそうだぞ……っておい、勝手に俺も含めんなよ」


「だってあんた、野営慣れてそうじゃん」


「まぁそうだけどさ……大丈夫か聡美、盾になるか?」


「ふふっ大丈夫だよ……んしょと……」


そうして彰子とひかりが話している間に、そそくさと服を脱いでいく聡美……。


「んっ……」


そうして裸になり、外気が全身に触れてスーッとする感覚を擽ったく感じつつも……聡美はスタンドのボタンを押して、シャワーを浴び始めるのであった……。


「あーっ、きもちーっ……」


「……」


それに続いて彰子とひかりも、任務中にかいた汗をシャワーで流していくのであった……。


「本当に気持ちいいね……〇五部隊にも、このお風呂セットって無いの?」


「野営中は風呂に入ろうとは思ってなかったから分かんねぇけど、もしかしたらあるかもな……後で理奈さんに聞いてみっか、やっぱりどんな時でも汗をかいた後はシャワーを浴びてぇわ」


「そうだね……」


ふと、シャワーを浴びている彰子の身体にチラッと目をやる聡美。


日頃から運動している為に、マッチョまではいかずとも全身に程よくついた筋肉……胸が大きく、背が高いスタイルのよさも相まった姿は彫刻のように美しく、そこにシャワーを滴らせている彰子に見蕩れていると……。


「ん? どうした?」


「な、なんでもないよ……」


彰子にその視線に気付かれて、聡美はそっぽを向く。


そんな彰子の顔は中性的だが、目がぱっちりしていて実に可愛らしい……逞しい身体に対しての、柔らかそうな胸やその顔つきのギャップに聡美は悶々となり、切り替える為にシャンプーを出そうとポンプに手を伸ばした。


「……あれ?」


……が、ボトルに入っているそれが殆ど無くなってしまっていた事に聡美は気がつく。


使わせて貰っている手前、シャンプーが切れているなど口に出せずに、どうしようか迷っていると……


「━━これ、使いなよ」


「あぁ、ありがとう」


ひかりが気が付き、ボトルごと聡美に手渡す事で、〇五に対しての詫びをまた一つ達成したのであった。


「にしても〇三も大物を狙いに来てたとはな……普段自分達のエリアで回収してる小物とか中物が枯渇して来たからとか、そういう理由か?」


「ううん違う。隊長の命令で、景気づけにパーッとやるかって感じで大物を狙いに来てた……ウチの隊長、そういうノリが大好きな人だから」


「なるほどな、うちもそういう感じだ……大物回収なんて殆どお祭りみたいなもんだしな」


「そうなの彰子ちゃん?」


「ああ、滅多に見つからない大物を、全部隊でこぞって回収しにいくなんて何だかワクワクするだろ? 大物の目撃情報が一体しかなくて、それを全隊で狙いに行った時なんかは凄まじかったぞ」


「お祭りか〜いいなぁ」


まだ〇五の基地にいた時……理奈が大物を狙いに行くとミーティングルームで発表して、グループ分けしていた時の雰囲気が何故だか好きだった聡美。


その時の聡美は確かにワクワクしていた━━だが今の聡美は、幻の大物を狙いに行っている以外でもう一つ昂っていた気持ちがあった……。


「そうだね……でも私、他の部隊の人達と会えてる事にもワクワクしてるかも!」


「おっ、そうなのか?」


「うん! 〇三部隊は私達と歳が近そうな人が働いてるって今日で知れて、他の部隊もそうなのかなって思った!━━ひかりちゃん、歳いくつ?」


「えっ……じゅ、十五だけど……」


「おお! 私達と同い歳じゃん!」


「だなぁ! 同い歳で新人とか、聡美と殆ど同じじゃねぇか」


「っ……」


屈指の無い笑顔で接してくる聡美と彰子……聡美に唐突に名前で呼ばれて戸惑っているのも合わせて、ひかりの方はとある疑問に心を支配されていた。


「━━……どうして」


「?」


「さっき、あんなに酷い事言ったのに……どうしてそんなに、ウチと普通に話せんの……?」


「酷い事って……確かに言われてムッとなった時もあったけど、薫さんにぶたれてた時にチャラになったと思うし、私はもう気にしてないよ?」


「っ……」


「それは俺もだな……てかお前の方からも普通に話してきてんじゃねぇか」


「それは、ウチなりの詫びを入れる為に話しかけたというか……そっちは全然、ウチの事を嫌いな感じで接して来ないじゃん! それがおかしいって言ってんの!!」


「そんな事しないよ。折角同い歳なんだし……違う隊でも私、嫌いになるよりも寧ろひかりちゃんと仲良くしたいな」


「何言ってんのあんたっ……」


疑問に対する気持ちを正直に、必死になってぶつけるひかり……それに対して聡美は、優しく微笑みながらひかりの気持ちに応えた。


その聡美の笑顔を見て、くしゃっと表情が崩れて泣きそうな顔になるひかり……先程まで殴り合いの喧嘩になりそうだった者達とは思えない。彰子はタオルを首にかけて、ふふっと笑いながら二人を見ていた。


「お前の方はどうなんだ?」


「……えっ?」


ふと彰子は向かい合う二人の間に立つと、それぞれの肩に手を置いた後に……ひかりの方に声をかけた。


「親切にしてくれるって事は……少しでも俺達と仲良くしてくれる気持ちがあるって事なんじゃねぇのか?」


「そんな事、あんた達の事をバカにしたウチが思っていい訳が無いじゃん……」


「思っていいよ。お互いに仲良くしたい気持ちがあるなら、私達全然やり直せるよ……ね、お友達になろ?」


「!」


そう言って聡美は、ひかりの気持ちを確かめる為に握手する為の手を差し伸べた。


ひかりは目を擦った後……聡美の手をじっと見つめて、握り返した後に言葉を続けた。


「こんなウチと仲良くしたいだなんて、変なヤツ━━さっきは、バカにしてマジでごめん……」


「こちらこそ、ぶとうとしてごめんね……これからよろしくね、ひかりちゃん」


「ううっ……天使かよサトゥミ……」


「さ、サトゥミ?」


「ふっ……すっかり仲直り出来たみてぇだな」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「よーし出来たっ♪」


その頃、薫の方では……聡美と彰子という客人を持て成す為に、一人で豪勢な料理を作り上げていた。


「うーん……」


流石に作り過ぎてしまったか……でも食べ盛りの子達が三人もいるし、まぁ大丈夫かと思いながら鍋をかき混ぜていると……


「━━は? あんた達そんな遠くから来たの?」


「おう、そうだぜ。黒雨が降ってこなかったとしても、どちらにせよ泊まりになってたかもしんねぇな」


「ふふっ、大冒険みたいで楽しかったよね〜」


「ウチらなんてこっから基地まで三十分もかかんないんですけど」


「ええっ近っ! いいなぁ、いつでもシナノ狙いたい放題じゃん」


「まぁ狙いたい放題でもあんた達に先に取られちゃったんだけど……」


「あらっ、ふふっ……」


入浴時間を終えて、ジャージ姿で薫のいる拠点に戻ってきた三人。


先程ここから離れた時とは違い……ひかりはいつものテンションを取り戻しつつ、聡美と彰子と親しげに話しているのを見て、薫は口に手を当てながら微笑むのであった。


「皆おかえりぃ、料理出来てるわよぉ」


「えっ、すごっ……これ全部薫さんが作ったんですか!?」


「マジですげぇな……俺達が風呂に入ってる間に作れる量じゃねぇだろ……」


「薫さんちょっと張り切りすぎっしょ……」


「うふふっ、今回は他所から来た子達もいるんだもの……お姉さん本気出しちゃったっ♪」


それから薫が作った料理を見た、聡美と彰子とひかり……三人が目を丸くしている所を見て、頑張って作った甲斐があったなと、薫は再度微笑むのであった。


「さぁ、冷めない内に食べて食べてぇ」


「「「いただきます!!」」」


そして三人は手を合わせると、スプーンを持って薫の料理を食べ始めた。


「あぁ美味しい……お外でこんなご馳走が食べられるなんて思ってなかったよ〜」


「だなぁ……パスタだけじゃ正直物足りなかったとこがあるからなぁ……ありがてぇ」


薫が作った料理はポトフとエビピラフ、アクアパッツァとマカロニサラダであり……カルボナーラやミートソースパスタとは違って様々な具材が使われている献立に、聡美と彰子は頬を膨らませてもごもごと動かしながら、幸せそうな表情で頂いていくのであった。


「あっ、勿論彰子ちゃんが作ってくれたカルボナーラも美味しかったよ!」


「おうありがとな!でも流石にレトルトじゃあ手作りの料理には敵わねぇわな……」


「あら、そのご飯を食べてからそんなに時間が経ってない感じかしら? ごめんなさいねぇ、食べ切れなかったら残しちゃっても大丈夫よぉ」


「いや全然、こんなに美味しいの全然完食出来ますから! ありがたくご馳走させて頂きます!」


「ふふっ、そう?」


薫からの気遣いに、モリモリ食べる様子を見せて彼女を安心させた彰子……。


〇三で働いていれば、この人の料理が毎日食べられるのか……皆との会話に入らず、一人黙々とご飯を食べているひかりを見て聡美はふと思う。


いやでも基地に帰れば、同じく料理が得意な歩佳ちゃんがいるし……と、聡美は羨ましく思う気持ちをすぐにかき消したのであった。


「あの、〇三部隊で野営をする時は、いつもこのぐらいお料理を作られるんですか?」


「えぇ作るわぁ。うちは体育会系の子達が多くてねぇ、このぐらい作らないとすぐに無くなっちゃうの」


「体育会系……?」


聡美からの質問に対して、〇三部隊の雰囲気を一言でそう表した薫……だがふわふわとした優しいお姉さんである薫からは、そのような印象は見受けられない……。


薫さんはその優しい雰囲気に反して、実は鋼の肉体の持ち主だったりするのか……聡美は難しい顔になりながら、そのような事を思っていると━━


「━━おいサトゥミ、今変な事考えてたろ?」


「えっ、いや別に! 何もかんが、考えてなかったよ?」


ひかりからの指摘に、聡美は噛みながら苦し紛れでそう答えた事により……薫と彰子は苦笑いを浮かべるのであった……。


「〇三は確かに暑苦しい奴等が多いけど、薫さんの場合は違うし! そいつらが体育会系なら、薫さんの場合はマネージャーというか……皆からは母ちゃんって呼ばれてるくらいなんだから!」


「ふふっ、私としてはお姉さんって呼んで欲しいのだけれど……」


「なるほどな……でもひかり、お前も体育会系って感じじゃねぇよな」


「アキャコ━━ウチは元々、〇二部隊にいたんだし」


「〇二部隊……?」


「アキャコ……?」


聡美にとって初めて聞く、新たな数字がつく部隊……ひかりから呼ばれた渾名に彰子が首を傾げている一方で、聡美はその部隊の名を口にした。


「そうよぉ、ひかりちゃんは〇二部隊から異動してきたの。 資源回収はお手の物だけど〇三に来てからまだ日が浅いから、そういう意味でひかりちゃんは新人なのよぉ」


「異動……そういうのもあるんだ……」


「私達の〇三は本当に元気な子達が多くてね〜。 皆可愛いんだけど、ギャルなひかりちゃんはまた違った可愛さがあって……体育会系じゃない者同士気が合いそうだったから、入隊して来てからすぐに声をかけちゃった♡」


「薫さんちょっと、恥ずいっすよ……」


異動……学校でいう転校みたいな物だろうか。


聡美がそのような事を考えている間……薫は嫌そうでも抵抗はしていないひかりを抱きしめて、頬ずりをした。


恐らく〇三のノリに馴染めていなかった様子のひかりを見兼ねて、薫は声をかけたのだろう……くっついたままの薫とひかりを見て、彰子はその光景を想像しながら微笑むのであった……。


「……あら、皆完食してくれたのねぇ、嬉しいわぁ」


「はい、ご馳走様でした!」


「いやマジで美味しかったっす!」


「ふふっ、よかったわぁ。 それじゃあお片付けしちゃうわねぇ」


「あっ俺もお手伝いしますよ」


「わ、私も!」


「ありがと〜」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


……その後。


「……あっ、寝れそう」


風呂にも入り、晩飯も食べて後は寝るだけとなった聡美。


いつまでもセーフフィールドを展開しておく訳にもいかず……聡美達はそれぞれのトレーラーの中で寝る事にした。


シートを倒した状態の機内は足を伸ばして寝る事が出来る……おまけにシートにはふかふかな素材が使われているので、聡美の中で一気に眠気が押し寄せて来たのを感じた。


『聡美様、暖房はお入れ致しますか?』


「ううん大丈夫だよコスモス、今が一番丁度いいから……」


『畏まりました』


「……」


このまま寝れそうだけど、いつも一緒に寝ているテディベアがいない……胸の上が寂しく感じ、こうなるのであれば一緒に連れてくればよかったと、聡美は思うのであった。


『……聡美、まだ起きてるか?』


「うん、起きてるよ」


『よかった……明日朝起きて、もし雨が止んでたらそのままとっとと基地に帰っちまおう』


「うん……もしまだ降ってたらどうなっちゃうの?」


『その時は……理奈さんに相談だ』


「わかった……ふわ〜ぁ」


『ふふっ、眠そうだな』


「うん、今日は朝から運動したりして色々あったから……その疲れが、今になって出てきたみたい……」


『眠いならとっとと寝ちまおう。いつもとは違う環境だから、普通だったら寝付けない状態だからな……ごめんな、眠たいのに話しかけちまって』


「ううん、大丈夫だよ……こうして眠くなれるのも、薫さんにお風呂に入らせて貰ったり、晩ごはんを食べさせて貰えたからだよね……」


『ああ、マジで感謝だ……もし○三の二人に会ってなかったら、今頃は身体が汗まみれで寝るどころじゃなかっただろうしな……』


「……」


『……聡美?』


「━━すぅ……すぅ……」


『ふっ、寝落ちしちまったか……おやすみ、聡美……』


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


……翌朝。


「━━んっ」


ぱっと目が覚めて、聡美はゆっくりと体を起こす。


「……?」


なぜ自分はトレーラーの中で寝ていたのか……その記憶が曖昧なまま、聡美は現時刻を確認する為にスマホを手に取った。


六時半━━ちゃんとした朝であるかつ、昨日まではあった黒い雨が降る音が、外から聞こえない。


「……あっ」


それを確認したと共に、今まで自分が何をやっていたのかを思い出し……寝かせていた物を正しい位置にする為に、シートを起こすのであった。


「……おはよう、コスモス」


『はい、おはようございます。 聡美様』


「今はもう、黒い雨は降ってない?」


『はい、現在の黒雨の降水確率は十パーセント、暫くは降らない模様です。基地に帰還される場合は、今がチャンスでしょう』


「そっか……彰子ちゃんは?」


『彰子様は現在、お外でトレーニングをされています』


「トレーニング……?」


ふとモニターを見てみると、セーフフィールド展開中のアイコンが表示されていた。


その事を確認し、ハッチを開けて外に出てみると……


「よっ……ほっ……」


そこでは寝癖を立たせていた彰子が……片足屈伸や腕をクロスさせたりしてストレッチをしていた……。


「彰子ちゃんおはよう、朝から元気だね!」


「おうおはよう聡美! 毎朝してたランニングが出来なくて身体が疼いちまってな……緊急事態でも無いのにフィールドを起動して、ストレッチをしてたとこだ! 」


「ふふっ……雨、止んでるね」


「だな……そしたら基地に帰るか!」


「うん!」


それから聡美と彰子はトレーラーに乗り込み……既に起きていた薫とひかりと無線を繋いだ。


『おはよぉ聡美ちゃん、彰子ちゃん、昨日はよく眠れた?』


『ええおかげさまで! この状態ならこのまま帰ってすぐに働けそうっす!』


「シャワーも気持ちよかったし、ご飯も美味しかったです!」


『ふふっ、良かったわぁ。朝帰りでお仕事は大変だけど、お互いに頑張りましょうねぇ』


「『はい!』」


薫からの質問に対して、彰子に続いて改めて感謝の意を表す聡美……歳上からの視点だと、彼女達の喜んでいる姿が可愛く見えて、親切にしてよかったと薫は思うのであった。


『それじゃ……もう二度と旗を立て忘れるなんてヘマすんなよな』


『あぁ分かってる。 次から大物を探す時は、常に旗を取り出した状態で探す事にするわ』


「ひかりちゃん……また、会えるかな」


『また大物が出た時に、ウチらも狙いに行くつもりだからその時に会えるっしょ……でもその時は、既にウチらがあんたらよりも先に来てて旗を立ててる時だし』


『おっと、そうはいかないぜ? 今度こそ俺達が先に旗を立てた状態で、俺達の方がお前達を迎え入れる側になってやるよ』


『へぇ……まぁせいぜい頑張れよ』


挑発し合う、彰子とひかり……だがひかりの口調はどこか寂しそうで、口の悪さでその気持ちを隠しているかのように聡美からは見えた。


その状態でひかりに抱き着いたら、今の彼女はどのような反応をするのか……試してみたい所だが時間も無いので、聡美は次に会った時のお楽しみという事にするのであった。


『さて、そろそろ行きましょうかひかりちゃん。 それじゃあ二人とも、またねぇ〜』


『サトゥミ、アキャコ……またな』


「ばいば〜い!」


『ほんとお世話になりました〜!』


それから二組の隊は別れて……シナノの元を離れて、それぞれの基地へと帰って行くのであった……。


「うう……彰子ちゃん」


『ん?どうしたー聡美』


「基地に帰れるのは嬉しい筈なのに……なんか二人と別れて、寂しくなってきちゃった……」


基地までの帰る中で……ふと聡美は今の気持ちを、ひかりとは違って素直に彰子に話した。


『まぁな〜、薫さんとかマジで母ちゃんみたいに優しかったもんな。ひかりも生意気だったけど何だかんだいい奴だったし……』


「うん……他の部隊には、一体どんな人達がいるんだろう……ワクワクが止まらないよ!」


『満ち溢れてんなぁ聡美』


「彰子ちゃんは何回か大物を狙いに行った事あるんでしょ? そこで他の部隊の人達に会った事ってある?」


『勿論あるぜ!何なら今回みたいに友達になった奴もいる。聡美はコミュ力ありそうだから、どんな隊のどんな奴とも仲良くなれそうだよな!』


「えへへ、そうかなぁ……楽しみだなぁ」


○一、○二、○三、○四━━○五部隊にいる聡美にとって、他の部隊は未知の存在で……○三は体育会系だと薫から聞いたが、どのような者達が働いてるかは実際に会ってみなければ分からない。


口にも出した通り、そんな彼女達にいつか会えるかもしれないのが楽しみな聡美だが……今は紫苑や歩佳が帰りを待っている、自分の居場所である○五部隊の者達の馴染みのある顔を見て、安心したいと思うのであった……。


『━━さて……俺は俺で、帰ったらやらなきゃいけない事があるんだな』


「やらなきゃいけない事……?お仕事とは別でって事?」


『ああ、昨日理奈さんと話してた時にな……ある"命令"を理奈さんから受けちまって……いや悪い、ここでは言わないでおくわ』


「えっ……なにそれ、めっちゃ気になるんだけど……」


『……基地に帰れば分かるさ』


「……?」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「━━おお! 美夜子、歩佳ちゃん! 久しぶり〜!」


「理香ちゃんおはよう、朝から元気だね……」


「おはよう理香、その様子だと無事そうで何よりだわ」


……その後、○五部隊基地。


ミーティングルームでは既に、地上から理香と紫苑、美夜子と歩佳が帰ってきており……理香は歩佳に抱き着いたりして、黒雨が降っていた中で基地に帰って来れた喜びを皆で分かち合っていた。


「おはよう、紫苑ちゃん……」


「おはよう歩佳さん、ムサシの獲得達成おめでとう」


「ありがとう……でも私は殆どやってなくて、○四部隊の人達に取られちゃいそうになったんだけど━━美夜子さんが頑張って私達の物にしてくれたの」


「あら、そんな事無いわ歩佳、昨日の晩ごはん凄い美味しかったわ。 また是非一緒に組んで欲しいわね」


「えへへ……ありがとう……」


続けて歩佳は紫苑と話し……自信が無さそうに、○四とのムサシ争奪戦の時の様子を語ったが……美夜子がフォローを入れた事で、歩佳は笑顔を浮かべた。


「理香達の方は大変だったんだよ〜! ○一の人達と出会しちゃってさぁ……理香達がヤマトに着いた時には、既に○一の旗が立ってた状態だったの」


「流石は○一部隊だね……私達が狙ってたムサシの方にはいなかったら、ヤマトだけを集中的に狙ってたんだろうね……」


「タチ悪いわねぇあいつらも……いつもどこの隊よりも一番多く資源を回収してるんだから、大物ぐらいこっちに寄越しなさいよ」


続けて理香が手をバタバタさせながら、ヤマト捜索の時の様子を話し……こっちには来なくてよかったと歩佳はホッとして、美夜子の方は腕を組んで足をパタパタさせながら○一に対しての愚痴を漏らした。


「悔しいなぁ……理香達をバカにした感じの、あの○一の人達の顔が忘れられないよ……」


「今更来たんだって感じだったわね。でもそうして余裕そうな態度を取ってくれている方が、後で捻り潰しがいがあるから助かるわ……今度は私達の方が○一を馬鹿にする為に、次は絶対先に大物を取りましょう、理香」


「うん!」


「紫苑ちゃん燃えてるね……」


そして歯ぎしりをして露骨に悔しがる理香とは比べて、紫苑の方は一見落ち着いているように見えたが……彼女から出た言葉は凄まじい物で、冷静そうに見えて実は理香よりも怒っているんだと歩佳は感じたのであった。


「……そういえば、彰子と聡美ちゃんは?」


ふとこの場に、その二人がいない違和感に気が付いた理香。


「さぁ、見ていないわ」


「シナノの方で、何かあったのかな……心配だね」


「古川さんはともかく、一応ベテランな彰子が一緒にいるんだから大丈夫でしょ。彰子の事だし、何としてでも古川さんを基地に返そうと思ってる筈よ」


「うん……」


「……」


不安な声を漏らした歩佳に対して、同期である彰子の事をよく知る美夜子がそんな考察をした……それでも理香や歩佳の表情は晴れる事は無く、紫苑はただ黙ってミーティングルーム入口の扉を見つめていると……


「━━おはよ〜」


「「「!」」」


時刻は九時、朝礼の時間となり……それと同時に、理奈とゆあがミーティングルームに入ってきた。


いつもならそれに合わせて隊員達は着席する所だが、隊員が揃っていない緊急事態の為にそうしている余裕が無く、起立したまま理奈達の方を見つめる。


「なんだなんだ、皆そんな不安そうな顔をして……そんなテンションじゃ仕事やってけないよ〜?」


「お姉ちゃん!彰子と聡美ちゃんがまだ帰ってきてないよ!」


「ああその事か━━大丈夫、既に二人は基地に帰ってきてるよ」


「えっそうなの?」


「よかった……」


「……」


隊の中での上下関係無く、妹として姉に質問を投げかけた理香……すると理奈はそう答えて、歩佳はほっと息をつき、紫苑は依然として真顔のまま理奈を見つめていた。


「……」


一方で美夜子は……二人が帰ってきていなかった場合、いつもはマイペースな理奈隊長も流石に焦るだろうと……でもいつもと変わらないという事は、二人は無事だったのだろうと、理奈がミーティングルームに入ってきた段階でそう気が付いていたのであった。


「そしたら今、二人はなにしてるの?」


「二人が基地に帰ってきた時にちょっとお話する事があってね……でももう少しで来る筈だ」


「━━ほら来た」


続けて姉に投げかけた理香からの質問……理奈が続けてそれに答えた瞬間━━扉が開いて、扉の前にいた者が中に入ってきて、理奈の横に立った。


「━━ぐぬぬ……」


「「「!?」」」


その者は胸元には大きなリボン、所々に白いフリルがつき、スカートが短いメイド服を着ており……足には少々窮屈なストッキングを履いており……


そのスカートを抑えながら、顔を真っ赤にしている彰子であった……。


「彰子どうしちゃったの!? 凄い可愛いじゃん!」


「━━ぷっ……くくっ……! あんた何よその格好! あっはっは……!」


「くっ……殺してくれっ……」


そんな彰子の姿を見て、歩佳と紫苑が唖然としている中で……理香は単純にそう褒めて、美夜子は大爆笑を放ち……彰子は美夜子を睨みつけながら、苦しそうに声を出したのであった……。


そして……何故だか誇らしげな顔をしている理奈は、彰子の腰に手を当てながら言葉を続けた。


「この彰子は先の大型資源回収作戦の時に、とある事をやらかしてね……これはその罰みたいなもんだ。今日一日はこの格好でいて貰う訳だけど、彰子はその事で手一杯だろうし、何をやらかしたかまでは聞かないであげてね〜」


「理奈さん……これならいっそ、裸でいた方がっ……」


「ううんダメダメ。裸にさせたら普通にセクハラになっちゃうもん、これでもトレーラーに乗ってる時とかに支障が無いデザインになってるから、さぁ頑張ってお仕事してきなさい」


背中を押され、隊員達の元に向かう彰子。


「くそっ……これも充分セクハラだろっ……」


「ぷっ……くくっ、似合ってるわよあんたっ……」


「美夜子テメェ、これ以上笑うんじゃねぇ……」


「彰子いいなぁ……理香もそれ着たい!」


「それでいいなら俺の代わりに着てくれよ……」


彰子は隊員達に囲まれて……美夜子は頬を膨らませながら笑いを堪え、理香はキラキラとした目で彰子を見つめて……歩佳はこうされるんならやらかさなように気をつけようと心に決めて、紫苑はただ蔑みの目を彰子に向けていたのであった……。


「あの、星出さん……聡美ちゃんは?」


「ああ……聡美なら━━」


「もう間もなく来ると思うよ」


それから歩佳は、彰子にそう質問をして……彰子と理香がそう答えた瞬間━━


「━━ごめんなさい〜、お待たせしました!」


「「「!?」」」


彰子と同じく……メイド服に身を包んだ聡美が、ミーティングルームに入って来たのだった……。


「さ、聡美ちゃん!?」


「なんであんたもその格好なのよ」


「えへへ、彰子ちゃんのミスは私のせいでもあるというか……連帯責任ってやつ? 彰子ちゃんだけに責任を押し付けるなんて嫌だから、私もこれを着る事にしたの……」


やはり短くなっているスカートを抑えながら、歩佳と美夜子からの質問に答える聡美……彼女は彰子程悶絶している訳では無いが、時節自身の頭を撫でたりして恥ずかしそうにしていた。


「聡美、申し訳ねぇ……俺だけがこの格好じゃ、恥ずかしすぎて爆発してたとこだったぜ……」


「ううん大丈夫だよ、彰子ちゃん……てか今の彰子ちゃん、普通に可愛くて素敵だよ!」


「おう、ありがとな……聡美も似合ってるぜ……」


「聡美ちゃん、連帯責任だなんて気にしなくてもいいよ……罰を受けるのは彰子だけで充分だったのに━━てか聡美ちゃん、内心楽しんでないかい?」


「! い、いえ!そんな事は絶対ありません!!」


「そう? 楽しまれると罰を科している意味が無くなっちゃうんだけど……まぁいっか」


聡美から褒められても心から喜べず、元気無くお礼を言った彰子とは一方で……理奈から鋭い質問を受けて、聡美は完全否定をした事でその場をやり過ごした。


「えへへっ、紫苑ちゃん歩佳ちゃんおはよう……遅くなっちゃってごめんね」


「聡美ちゃん、可愛いね……でも隊長さんは、どうしてメイド服なんて持ってるんだろう……」


「……」


「紫苑ちゃんどうかな、私のこの格好……」


彰子が美夜子と理香と話している間、それから聡美も隊員達の元に向かい……紫苑と歩佳に声をかけて、そもそもの疑問を歩佳は思い浮かべて、紫苑は感情の読めない真顔で聡美の事を見つめていた……。


「━━パンツ見えてるわよ」


「!? えっ、嘘だ! ちゃんと見えないだけの長さはある筈なのに……!」


「嘘よ。そうね……メイドさんなら、何か飲み物を持ってくるのをお願い出来るかしら」


「もう!紫苑ちゃんのエッチ……えっと、食堂に行けば貰えるかな……」


「いや、本当に言う事聞かなくて大丈夫だから」


「彰子、あんたの方は普通にコーヒー持ってきなさいよ。勿論一式持ってきて、一からここで作ったやつね」


「彰子〜、理香お嬢様って呼んで〜」


「いい加減にしろよテメェらっ……」


メイド服の姿になっているせいで……紫苑から聡美へのリクエストは冗談だったが、彰子や理香からはそのようにからかわれたリクエストをされて、顔を真っ赤にする彰子……


「うんうん、眼福眼福。偶にはこうやって華のある格好をさせて、隊員達のやる気をあげさせるのもいいね……次は水着でも着させるか」


「隊長……」


更には理奈が密かな野望を口にした事で……横にいたゆあはそう呟きながら、引き気味の視線を理奈に送ったのであった……。


「━━さぁそろそろ出撃時間だよ! 皆格納庫に行った行った!」


「「「!!」」」


それから理奈が手を叩きながら出した号令によって、隊員達は一斉に動き出す━━


「はぁ!? マジでこの格好でトレーラーに乗らせる気かよ……ったくしょうがねぇ、こうなりゃヤケだ!聡美! お嬢様共よりうんと資源を回収して、ギャフンと言わせてやろうぜ!」


「うん!」


「ちょっと、お嬢様共って口の利き方がなってないんじゃない?」


「理香お嬢様って呼んでよ〜」


「はいはい理香お嬢様。あとテメェだけは黙ってろ美夜子」


「聡美ちゃん、その━━走る度に、パンツが……」


「ああ、ごめんね歩佳ちゃん……あんまりスカートの辺りは、見ないようにしてくれると嬉しいな……」


「綺麗な白色ね」


「っ! もう!紫苑ちゃんのエッチ!!」

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