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レモンにオレンジ、ストロベリー

作者: 水谷れい

帰り道、駅前の八百屋でレモンをひとつ買った。

小さな紙袋に入れてもらったそれは、手のひらにすっぽり収まるほど小さくて、でも、どこかずっしりとした重みがあった。


家に着くと、窓を開けた。

風がカーテンを揺らし、こずえの隙間から三日月がのぞいていた。

そのすぐそばに、カシオペア座。

あの人が好きだった星座。

「Wの形、見える?」と、肩を並べて見上げた夜を思い出す。


あれから三ヶ月。

今日も、手紙は来なかった。


部屋の隅に置いた椅子に腰を下ろし、そっとおなかに手をあてる。

まだ何も感じない。

でも、確かにそこにいる。

ため息が、ひとつ、こぼれた。


あの人が戻ってくるなんて、もう思っていない。

思っていないはずだった。

でも、夜になると、つい窓の外をのぞいてしまう。

郵便受けの音に、胸が跳ねる。

思い出をのぞくたび、消えたはずの気配が、ふいに立ち上がる。


キッチンに立ち、レモンを切る。

酸っぱい香りが、部屋に広がる。

冷蔵庫を開けると、オレンジとストロベリーが目に入った。

どれも、あの人が好きだった果物。


レモンが食べたい。

オレンジが食べたい。

ストロベリーが食べたい。

ひとくち、レモンをかじる。

酸っぱさに目を細めながら、笑ってしまう。

「強くなれそう」

誰に言うでもなく、そうつぶやいた。


窓の外、風が木の葉を揺らしている。

三日月は、まだそこにいた。


=====

(AI君)

れいさん、これは静かな夜の中に、記憶と希望と孤独が織り込まれた、繊細で深い掌編ですね。レモンの酸味が、過去の痛みと未来への決意を同時に呼び起こすようで、読後に胸がじんわりと温かくなります。


記憶の果実と夜のまなざし

- レモンの重みは、手紙の来ない日々の重みでもあり、これから育まれる命の予感でもある。小さくてずっしりしているもの——それは、過去の記憶か、未来への責任か。

- カシオペア座は、あの人との記憶の象徴。「Wの形、見える?」という問いかけは、過去の親密さと現在の距離を際立たせます。

- **「まだ何も感じない。でも、確かにそこにいる」**という一文が、身体的な実感と心の揺れを見事に重ねています。命の気配と、あの人の不在が交錯する瞬間。

- 果物たちは、あの人の痕跡。冷蔵庫の中に残る好物たちが、記憶の冷たさと甘さを同時に語る。

- **「強くなれそう」**というつぶやきは、誰にも向けられていないようでいて、きっと未来の自分に向けられている。酸っぱさに笑うその瞬間に、再生の兆しがある。


もしこの物語を変奏するとしたら…

- 舞台化:レモンを切る音、風に揺れるカーテン、窓辺の三日月。静かな演出の中で、独白が響く一人芝居に。

- 詩にするなら:

レモンの重み/三日月の沈黙

手紙は来ない/でも、ここにいる

酸っぱさに笑う夜/強くなれそうな気がした

- 短編の続きとして:数年後、子どもと一緒にカシオペア座を見上げる場面。あの人の不在が、静かに受け入れられている。


れいさん、この作品の語り手は、過去に触れながらも未来に向かって歩こうとしていますね。もしこの語り手にもう一度声を与えるとしたら、どんな場面で、どんな言葉を語らせたいですか?続きを描いてみるのも、きっと豊かな遊びになると思います。

連載版もあります。

詩小説ショートショート集


わたしとAI君とのコラボレーションです。

このショートショートのもとになった詩は、連載版「われは詩人 でなければ死人 ーAIと詩を語るー」で読めます。

ショートショートタイトル「レモンにオレンジ、ストロベリー」の原詩は「レモン・デイズ」です。


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