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はじまりの村で足止めされたボッチ冒険者 ~7,500匹討伐の英雄譚~

作者: 坂本クリア

7,500匹―――

これは俺が約半年で、討伐した魔物の数だ。

1日あたり50匹


通常はこんなにも討伐しない。

これは冒険者30人で討伐するクラスの仕事量だ。


半年前王都と、この村を結ぶ主要道路が崩壊した。

強大な力を持つ魔物が主要道路の近くに巣を作り…

主要道路が機能しなくなった。


王国では、魔物討伐は税金で行われる。

国が魔物討伐に対して報奨金を支払い…

それで治安維持をしている。


冒険者は…

・固定給がいらず

・自己責任

・成果報酬

の都合のいい道具なのだ。


主要道路が機能しなくなると

当然。

冒険者に支払われるべき報酬金も

入ってこなくなる。


冒険者は一人一人消えていった。

当然だ。

強大な力を持つ魔物が主要道路の近くに巣を作った事で

魔物たちの力を勢いを増していた。


そんなこんなで…

危険度は増しながら、報酬はまったく支払われない。

そんな状況で誰が…

魔物討伐をするのだ。


ははは。これは自虐だな。

そんな状況で半年で7,500匹も魔物討伐したのは

俺だからだ…


冒険者ギルドからは

討伐証明書が出て…

王都からの物資の流通が正常に戻れば

支払いをすると約束されてはいた。


まーしかしだ。

冒険者というのは、

ほとんどが日払い目的で

その日暮らしの者が多い。

将来の支払いが確約されたとしても

目の前の報酬がなければ…

仕事なんて請け負わない。


しかも…

この村は見捨てられたとまで…

噂は流れている。


そういうことで

以前はこの村に30人いた冒険者は…

去っていき。

結局…俺一人になった。


俺は幸いにも

報酬の蓄えがあったし

未来を信じており

この村を見捨てるのは忍びないと思った


そして何より

この道が天職だと信じていたので

転職なんて…

考える事もできなかった。


ただ正直…

めちゃくちゃ

怖くて

悲しくて

めげそうになった。


想像してみてくれ。

能力はあるとはいえ…

気をゆるめれば終わる。

死に戻りなんてできないから…

復活もできない。


将来の報酬が一応約束されているとはいえ…

骨折り損のくたびれ儲け

になるかもしれない。


そんな中…

粛々と魔物討伐を行うのだ。

はじめは感謝してくれていた村人も…


流通が途切れたことで

疲弊し

感謝の言葉も出さなくなった。


感謝もされず

報酬も手元に入らず

命の危険もある。


まぁありていにいれば…

最悪な状況だ。


なんでこんなことを…

俺がなにをしたっていうのか…

そんなことも思っていた。


毎日50匹は討伐した。

多い時は100匹近く


冒険者ギルドに討伐の証拠を

持ち込むたびに

ギルド長が

「ありがとうな」

と言ってくれる。


ギルド長も始めは…

明るかったが…


さすがに

半年もすると…


無言で処理するようになっていた。


ギルド長も…

罪悪感で押しつぶされそうだったのだろう。


いつのころからか…

討伐事体はルーティン作業になっていた。


強力化しているとはいえ、同系の魔物ばかり…

討伐自体は楽だった。


しかし問題は…

同じ作業をし続けるしかなく…

退屈だということだった。


俺は退屈さを緩和するため

・1分以内など時間を決めるタイムトライアル討伐

・一撃でしとめるクリティカルヒット討伐

・気付かれずにする暗殺系討伐

・わざと囲まれてピンチを演出する脱出討伐

・片目に眼帯などをするなど能力を制限する縛りプレイ討伐


などいろんな討伐スタイルを入れながら

飽きを防いでいた。


毎日少しずつ強くなる感覚があった。


まぁただ…

武器も新調できないし…

防具も新調できない…

休みもロクに取れないので…


身体も心も疲弊していた。


ある日の夕方…

冒険者ギルドに顔をだすと

ギルド長がいきなり駆け寄ってきた。

「やったぞ。やった。オリーブ…ついにやったぞ」

と…

その語気には勢いがあった。


「どうしたのですか?」

と訊ねると。


「王都への別ルートがようやく開通したんだ。

それの第一隊が到着して、報奨金もすこしばかり届いた」


と750Gを手渡された。

これは日本円計算すると750万円


ずっしりとした重みに

自分の成し遂げた仕事の重みを感じた。


「これはまず10分の1の報酬だ。

盗賊の危険もあるから…

10分の1ずつ日を分けて送らせる」


そう言ってくれた。


そして計1か月をかけ報酬はすべて

手元に入った。

合計7,500G


王都に少し大きめの家を買える金額だ。


冒険者ギルドは銀行の役割も持つ

別の冒険者ギルドでお金を引き出すことも

可能なのだ。

俺は50Gだけ手元に残し

あとはすべてギルドに預けた。


2か月もすると

冒険者ギルドにも、人が戻ってきた。

ただ以前いたメンツは一人もいなかった。

みんなバツが悪いのだろう。


ほとんどが新参の冒険者か流れ者だ。


もうこの村には俺は必要ないなと感じ

村をでることにした。


王都で家を買い

さらなる研鑽を積むためだ。


村をでる際…

村人は総出で見送ってくれた。

「村の英雄ありがとう」

と…言ってくれたが、胸の奥底にはどこか、妙な空虚感があった。


「これで…本当に良かったのか?」

そんな声が、頭のどこかでささやく。


王都までは馬車で3日間かかった。


途中魔物を倒しながらのんびりと王都に向かう。

しかし心は、なんとなく晴れないままだった。



ようやく王都につき

冒険者ギルドで

受付嬢に冒険者証を見せると

驚いた様子で

「すこしお待ちください」

と裏に戻った。


しばらくして、大柄の男を連れて戻ってきた。


開口一番

「貴殿が英雄オリーブ殿か」

と…


俺は意味がわからなかった。

話を聞いてみると彼はギルド長で

俺には村を救ったことで英雄の称号が与えられた。

ようだ。


そういえば村でも英雄とか言われてたみたいだし。


そういうことなのか…


となんとなく思っていた。


しかし驚いたのが、この英雄の扱いだ。


・下級貴族同様に領地を与えられる。

・身分は貴族の下だが、平民よりは上の地位

・冒険者ギルドで特別なクエストが受けれる。


というものだった。


英雄クラスはこの国に現在俺を合わせて3人いる。

ドラゴン殺しの英雄

北方開拓の英雄

そして

俺は救国の英雄と言われているようだ。


一つの村を救ったぐらいで大げさだなと思っていたが…

これには実は大きな理由があることを後になってしる。


とりあえず明日からまたクエストを受注しようと

冒険者ギルドをあとにし、宿に帰る事にした。


翌朝冒険者ギルドに行った俺はギルド長に呼ばれる。


「おぉ。昨日はよく寝れたか。さっそくで悪いんだが…お前に与えれられる領地の件だ」


「あぉ領地ですか…。それはどこですか?」


「それが実はな…。カイド大森林だ」


「えっカイド大森林ですか?」


俺は驚きのあまりに、こけそうになった。

カイド大森林とは、村と王都を結ぶルートで、あの強大な魔物が巣を作っている場所だ。

あそこにも領主がいたが…

魔物に巣を作らせたのを問題視され、そのカイド大森林の領地は没収された。


この森の収入源は

・道路の通行料

・木の販売の売上の一部

だ。

ここには領民はとても少なく、木こりが数十名いるだけ。


しかも魔物が巣を作ったことで、仕事はできない。

通行税も、魔物が巣を作っているせいで、取れない。


結局…強大な魔物を討伐しないと…

なにも問題が解決しないことがわかった。


一難去ってまた一難か…

しかし木こりが仕事をできないのも可哀そうだな。

と思い、大森林にむかうことにした。


大森林には大きな魔物がいた。

ドラゴンだ。

しかしただのドラゴンではない。


全身からなにか毒素のようなものが漂っている。

その毒素がドラゴンをなにか特殊な魔物のようにしている。

そしてどこか苦しそうだ。


俺はドラゴンの近くに行き

話しかけた。

高位のドラゴンは人間と会話する能力があると聞いていたからだ。


「龍よ。あなたはなぜ苦しそうなのだ。なにか毒にでもあてられたのか」


そう訊ねると


「人間よ。我が怖くないのか…まあよい。この背中のトゲだ。

このトゲが私を苦しめている。

なにか毒に侵されたようで、コントロールがきかんのじゃ」


俺はとっさに

「もし…その棘を抜けば、民を襲わないと約束してくれるか?」


そう訊ねた。


ドラゴンはしばし黙り、

そして、弱々しく、しかし確固たる声で言った。


「もとより。我は人間なんぞに興味がない。

美味くないしの~。

わかった。約束しよう。

あと我の宝物も半分やろう」


そういった。

幸い木こりが毒消し草のありかを知っていたので、領民総出1日がかりで俺は荷馬車5台分の毒消し草を集めた。


ドラゴンに刺さったトゲを抜き、毒消し草をぬりこんだ。


3日くらいは、体調が悪そうだったが、毒消し草をなんども塗ったことで、4日目には元気になり、1週間で完全に復活した。


ドラゴンは礼をいい、約束の宝物を俺のもとに運んできた。

そして本来の住処にもどっていった。


道路も復活し、木こりたちも仕事ができるようになった。


今…俺は領地経営をしながら、冒険者をしている。


正直…ドラゴンが持ってきた財宝はとんでもない額だった。

小さい国を一つ買えるくらいの…


しかし冒険者は俺の天職だ。

いまさら転職する気もない。


そしてこれは…俺の物語のはじまりだ。


※本作は完結しておりますが、反響やご好評をいただければ、続編やスピンオフも考えております。

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