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第7章 私、美しい?

### 第7章 私、美しい?

小宮山健二指導員が漆黒の革製出席簿を閉じると、銀縁メガネを鼻に押し上げた。

「諸君、夏季特別講座に関する朗報だ。本学卒業生で瀬戸グループ代表取締役・瀬戸天策氏の厚意により、軽井沢の別荘『星雲荘』を三日間無料貸与されることが決定した」


「皆さん、瀬戸くんに感謝して大きな拍手をしよう」


教室中にどよめきが広がる中、江島龍は何か変だなと思い、妖力を瞳孔に集中させた。

瀬戸政宗のポロシャツの下から透けて見える左肩に、黒焦げのような手形の痕が浮かび上がっていた。その影は腐った海老のように不自然に蠢き、細かい触手状のものを伸ばしている。

「さっき瀬戸のやつと口論したばかり、今みんなにおかしいって言うても信じてくれないか」

まぁその時になったらみんなの面倒を見てやろう!だったら実力アップが第一や、 昼休みにスマホで近所の刑事事件を調べる。


午後三時、江島は天福路の「曙ヶ丘団地」に立っていた。


江島龍はステータスパネルを一瞥し、自信を持って建物内に入った。


《宿主》:江島龍

《鬼オーラ》:9

《化妖カード》:紅蟒精(一星)、混世魔王(一星)


築50年のRC造5階建ての集合住宅で、外壁のタイルは剥がれ、エントランスの暗証番号錠は「8888」のまま固着していた。探索対象は猪口みな(いのくち・みな)――顔面を潰された状態で発見された女性の変死事件だ。


101号室の鋼鉄製防犯ドアを叩くと、内部でガサガサと椅子が倒れる音がした。「どなたです?」

「猪口みなさんのお宅はどちらでしょうか?」

老いた声が軋んだ。「知らん……帰れ! この団地にそんな者はおらん!」


二階の203号室では老婦人が猫用の小窓から顔を覗かせた瞬間、青ざめてシャッターを閉めた。301号室の大学生風の男はドアチェーンをかけたまま「警察に通報するぞ!」と叫んだ。


四階に上がると、407号室の老式鉄格子ドアの向こうで、佐藤遥(小学四年)が廊下に向かって茶碗を捧げていた。卵かけご飯を食べている。


「嬢ちゃんなんで廊下向いてご飯食べてるの?」 って聞くと、

「私の友達をびっくりさせてるよ。」と答える。

えっ何もない廊下を見て龍は唖然とする。


その時、駆けつけた母親の佐藤恵(38才)が、スリッパの片方を手に現れた。「何用ですか? この時間に……」

「猪口みなさんについて何かご存知ですか?」

恵の顔が蝋のように硬化した。「知りません。帰ってください」 ドアを閉めかけてから、指先を神経質に震わせて付け加えた。「もし……もし階段で『私、美しい?』と聞かれたら、絶対に答えないで。目も合わせず、息を止めて駆け降りるんですよ」


「美しいと答えたら?」

「あの子の顔を見たことがあるの?」恵の目が潤んだ。「包丁で二十回以上切りつけられた顔を……『綺麗』なんて嘘つける?」


五階の階段プラットフォームで異臭が鼻を刺した。502号室の扉が5cmほど開いており、腐敗臭と防臭剤の混ざった不自然な芳香が漂っている。


ドアを押すと、水色の作業服を着た男の屍体が崩れ落ちた。死後三日程度と推定されるが、顔面は中華包丁で叩き切られたような状態で、右眼球が顎の位置にぶら下がっている。首筋から胸元にかけて、毛髪の生えた皮膚片がベトベトと貼り付いていた。


「キャッハハハ! 待って……私の顔、見て!」


狂気の笑い声が頭上から降り注ぐ。六階の階段を駆け下りる裸足の音が響く中、白いレザージャケットの女性が現れ、江島の腕を掴んだ。左胸のエンブレムには「陰陽庁第七課 神宮寺鈴」の文字。


「生きてるの!? バカなの!?」鈴がメーター室に押し込む。壁には錆びた水道メーターが七台、蜘蛛の巣を纏って並んでいた。「『太乙玄門符』を貼るから、絶対に動くなよ!」 彼女が貼り付けた符の朱文字が微かに脈動し始める。


扉の外で血の滴る音がした。「ねえ……あなた……私のこと……美しいって思う?」 甘ったるい香水の匂いが鉄錆臭を覆う。爪先でコンクリートを引っ掻く音が、メーター室の扉の前で止まった。

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