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第6章 犯されたら、百倍返し

### 第6章 犯されたら、百倍返し

江島龍は手のひらの護符を指で転がしながら、妖オーラを静かに流し込んだ。護符の表面に刻まれた朱色の呪文が微かに輝き、触れた指先に灼熱感が走る。「これは……少なくとも二級陰陽師の作った本物だ」


彼は小学五年の記憶を辿った。山梨県の過疎の町で、バイクに乗った人身売買組織が金丸明日美を拉致しようとした事件。当時11歳の身体に宿った大人の魂は、少女が連れ去られるのを看過できなかった。


路地裏でチェーンを振り回し、拉致の男を追い払った代償に、額を10針縫合する大怪我を負った。その傷痕は今も眉間に残っている。


「陰陽庁が霊災情報を公開しない理由……か」江島は教室の窓ガラスに映る自分を見つめた。「『鬼は人気じんきを喰い、妖は鬼気を喰う』この生態系が崩れたら、社会はパニックに陥る」


ドアを開けて教室に戻ると、野次が飛び交った。

「おい江島! 金丸お嬢様と何話してたんだ?」

「この陰キャがまさかの逆ナン!?」


バン! 前列の伊達メガネ男・瀬戸政宗が教卓を叩いた。「静粛!」


瞬時に教室が水を打ったように静まり返る。瀬戸は学生會副会長であり、関東屈指の財閥「瀬戸グループ」の若旦那だ。先月、彼に逆らった男子学生が自主退学まで追い込まれた噂は、新入生の間でも広まっている。


「江島君」瀬戸が不自然な笑みを浮かべる。「金丸さんとはどういうお知り合いです?」


江島は資料をめくりながら淡々と答えた。「昔の知り合いです。何か問題が?」


瀬戸の頬が痙攣した。「……いえ、ただの好奇心です。実は父上が金丸電機の取締役を務めておりまして」


「はぁ」江島の興味なさげな反応に、瀬戸の声が鋭くなる。「ところで、学食でアルバイトしてるのを見かけましたが、学費は自分で稼いでるんですか?」


教室中が緊張に包まれる。江島はゆっくりと顔を上げた。「瀬戸さんが羨ましいよ。毎日パパにワンワン吠えてれば、何でも手に入るんでしょう?」


「……!」瀬戸の銀縁メガネが曇る。「この……成り上がりが!」


バスケ部の巨漢五人組が立ち上がる。主将の大野鉄平が江島の席を囲んだ。「土下座して謝れ。瀬戸さんに歯向かうなんて百億年早いんだよ」


江島は指関節をポキポキ鳴らした。「教育実習の一環として、諸君に社会の厳しさを教えてやろうか」


その時、ドアが勢いよく開いた。「何やってる! 全員着席!」


生活指導の鬼教師・小宮山が現れ、一喝した。

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