一.
その日、私は少しおかしいと感じた。なぜなら、彼に対する皆の接し方が変わったからだ。今まではクラスの人気者となっていた彼が、今日は黙りこくって、何か発言しようものなら皆が野次をとばすのだ。私は皆と話し合うことは殆ど無かったから、何が起こったのかは把握しようもないが、やっぱり何かがおかしいのだ。
そして、私は見てしまった。彼が裸の男に取り囲まれ、小便を掛けられているのを。
男子便所内の閉鎖空間で、彼は苦しんでいた。私は気づかれないように息を殺していた。彼はこちらを見ていた。潤んだ目で。まるでこちらに助けを求めているようだった。だが、私は無視した。彼を助けようものならば、私自身がどうなるかわからない。
男子便所は小便浸しになった。私の足も浸かったが、お構いなしでそれを見続ける。可哀相、怖いという心情とは別に、面白い、興味深いという心情もあった。彼は完全に気を失っている。
結局私はばれることもなくそこから逃走した。足が小便臭くなったから、シャワールームに向かった。シャワールームの中には、中性的な美男子が裸で居た。
「やあ」
彼はごく普通に話し掛けてきた。
「や、やあ」
私はなるべく不自然にならないように返事した。
「君は何故ここに来たんだい? あ、それか」
彼は私の足を見て言った。彼にもこの小便臭さは伝わっていただろう。
「何故そんな臭いがついているのだい? 怪しいことでもしたの?」
「い、いや、ちょっと……」
私は彼からなるべく早く逃れたかった。私は彼から離れた場所のシャワールームに入った。
「あ……駄目……あん……」
彼の不自然・不愉快な声を聞きながら、足を洗った。湯で流すだけでは臭いはとれないので、石鹸でよく擦った。
他生徒の性的な話を小耳に挟んでいた私は、性知識もそこそこついていたので、その彼の声が性行為の際の女の声だということはわかっていた。しかし、何故男であるのに女の声を出すのかはわからなかった。それは今も同然である。
彼が先にシャワールームから出た。私はその後に出た。その彼の姿を見て私は愕然とした。身体が反応しているのがわかった。
彼は女子の制服を着ていた。笑顔でこちらを見つめていた。
「どう? 似合ってる?」
彼はくるりと一回転してみせた。私は怖くなって逃げ出した。