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貯め込んだ錬金素材をぶちまけろ

 人間が群れている場所に行くと頭が痛くなるのは当たり前の事実であり、なるべく避けるべき事態ではあるのだけど、それでも理由があろうとなかろうと都会に出掛けなければならない。

 どこから湧いて出たのか派手な若者たち、正体不詳の怪しい人種(このカテゴリにはきっとおれも入っている)、労働者、夜の住人、ギャンブラー、無法者、浮浪者……レパートリー豊かな人間たちとすれ違っていると、確かに昂ぶるものがある。放射される獰猛な生命エネルギーがおれを圧倒する。

 喫煙所なんてのはもっとすごい。下品で下世話で知性の欠片も感じられない連中が煙を吐き続けている。煙を一箇所に集めるというのは良いアイディアだ。魔方陣のひとつでも描けばなにかが召喚できそうな、魔術的雰囲気が立ち込める。だが煙たく煙草臭い。あまり長居はできない場所だ。

 昨日は東洋有数の繁華街へと出掛けた。目的があったのだが、当てが外れてしまった。結局は煙草を二本吸いに街へ出たことになる。そういうこともある。そういうことばかりだ。それでも悪い気分ではない。

 明日も街へ出掛けることになるだろう。だが明日は大宮で事足りるので、大宮に行く。大宮も以前ほどではないが、なかなかガラの悪い街だから好きだ。おれの思い出のストリップ劇場、ショーアップ大宮が閉館してもう二十年近くになるという事実に震える。おれは時の流れの中で迷子になっている。何日か前のことよりも、二十年前の体験の方が新鮮さを保っている。明日はサガの新作が出る。街へと出るのにはじゅうぶんな理由だ。


 ティーンの頃は街へと出ると途端に弱気になっていた。街行くすべての人間が自分よりも格上の存在だと思い込んでいた。いまは何故か逆だ。街へと出掛けると、自分の鋭さが増していることを確認する。その事実で、おれは人よりも優位に立つことができるのだった。

 なにしろ、どいつもこいつも出鱈目に摩耗しているやつらばかりだ。余裕のある顔を見せているのは複数人数で群れているやつだけ。その余裕も、解散してひとりになった瞬間、途端に消え失せてしまう類いのものだ。日本人は平和ボケしている? おれにはそうは見えない。つまり、こいつらの大半は極度の臆病者なのではないか? ひとりきりになってしまうと、いつもなにかに怯えている。被害者になることを殊更に恐れている。臆病者たちが、がっちりと被害妄想的スクラムを組んで、巨大な壁を形成している。

 壁からは、絶対に自分だけは酷い目に遭いたくない、惨めな思いはしたくない、そういう頑なな意思を感じる。そのためなら、自分をすり減らして結果なまくらになろうがちっとも構わない、そう言うわけだ。

 おれはそれ、嫌だな。酷い目に遭おうが、惨めな境遇に陥ろうが、おれはおれ自身を保っていたい。おれの培った美意識に沿って生きていたい。だってそれくらいしか生きる意味を見出せやしないだろう。それ以外になにがあるんだ。虚無に突っ込んだ指をべろべろ舐めて、いいお味ですね、そう言って笑うのが素敵な人生だってのか? 平和な人生だってのか? まあそれならそれで、勝手にしてくれ。明日はサガの新作が出るんだ。おまえらに構っている暇はないってことだよ。


 勝手にしてくれ。そう言いながらも、おれはおまえらが気になって仕方ない。いつかとんでもないことをしでかすのではないか、むしろとんでもないことをしでかしている最中であることに気づいていないのではないか、そんな風に思っている。まあ野次馬根性だ。必死になって、わたしたちは大丈夫、ぜんぜん大丈夫、まったく問題ない、そう自分に言い聞かせているあなたたちが、どういう道を辿って行くのか興味津々なんだ。

 でも暇がないのは本当だ。とにかくやることが多すぎる。主にゲームだが。そしてこの文章を書くという活動が、なかなか時間を食うのです。そりゃあなたにとっては知ったこっちゃないことかもしれないが、おれにとっては難題問題大問題なんだ。サガ、ユニコーンオーバーロード、百英雄伝、フレデリカ。とりあえずでも、やらなければいけないタイトルがこれだけある。全部が和ゲー。Z指定タイトルもない。おれの趣味も変わったもんだ。流血も銃撃も犯罪も暴走も、もう飽きてしまったんだ。フォトリアルなグラフィックもお腹いっぱい。CGは不気味の谷を越えたはいいが、違うものを際立たせてしまった。ゲーム内ルールを超越することのできないフォトリアルはまったくリアリティがないのだった。ただ間抜けに見えるだけだった。

 ビデオゲームという遊び方が、グラフィックにまったく追いついていないんだ。この差を埋めるには、もうフルダイヴしかない。ゲームパッド、マウス、モニターを捨てて、脳で遊ぶんだ。でもそんなものができてしまったら、誰も帰って来やしないよ。リアルがすり替えられる。でもみんなきっとそれを望んでいる。もちろん、おれだって。


 ゲームのことを書くと、おれが興奮してしまう。でもこういう書き方は、おれの中ではあまり推奨していない。ゲームのことを書くのであれば、せめてもうすこし小説っぽくしてほしい。それがおれからおれへのお願いだ。それ以外のことならどんな書き方をしてもいいが、ゲームのことだけは気をつけて扱ってほしい。

 なぜなら螺旋状の少年をゲームブログみたいにはしたくないからだ。螺旋状の少年は螺旋状の少年のままでいてほしい。今日の書き方は最悪の部類だ。タイトルを列挙したりするのは特にいけない。とても危険なことをしていたという自覚を持ってほしい。書くことがないからといって、なにを書いてもいいというわけではないということを、強く意識してほしい。なにを、どう書くのか。そこに拘ってほしいんだ。どう書くのかということは、本当に大事なことなんだよ。

 怒られてしまった。だがまあそのとおりだ。本当はなるべくゲームのことを書きたくはないんだ。だってゲームのことならいくらでも書けそうだから……。しかしそんなことはIGNにでも任せていればいいのだ。おれにはおれの仕事がある。きっとあるのでしょう。


 そして何者かがおれの文章を読んでいる。おれの投げた脳波網に触れている。電撃を見舞うほど強烈ではないかもしれないが、火花くらいは飛ぶだろう。目に見えるほどの静電気だ。バチンと弾け飛ぶぜ。そのうち完成するさ。満ちてあふれだし、あふれだして稲光となるだろう。若く青臭いアニマ。いまだ思春期のポルターガイスト的大騒ぎをご覧にいれよう。目が潰れないようサングラスでもかけておいた方がいい。それか螺旋状の少年の刻むビートに乗ってタイミングよく瞬きを繰り返すか。好きにしたまえ。

 と言っても、なにもそんなに大層なことではない。なにか、こういうことを書きたくなっただけの話だ。書きたくなったというか、書かざるを得なかったというか。意味や思考よりも文章を優先すると、こういう文章になるってことさ。言うなればバッファローの寝返りのようなものだ。

 さあ、メスキートとヨモギとその他いろいろを煎じた幻覚性の高い霊的なお茶だよ。ひと息でいってくれ。今日という日をぶち壊してやろう。最高のワンデイにしようじゃないか。公式の記憶にも記録にも残さず、神秘の森の奥の秘密の部屋の螺旋状の真空管にデータとして送り込まれる。どす黄色く変色した書物、ぷんと香る古書の匂い、そして文字を囓るシルバーフィッシュ。そんな日を書いた掌編小説ってわけさ。

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