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狙うのはおまえの目玉だ

 さっぱりですよ。おれの霊感は錆び付いて、意識がかなり生活に寄っている。やはり先立つものが必要で、後悔先に立たずということなのだろうけど、それでも後悔というほどシリアスな雰囲気にはなってくれないお祭り男の脳内は、年がら年中、ソイヤッ、ソイヤッ、という感じなのだが、それだとYOSAKOIっぽくて、ものすごくダサい、あまりにもダサすぎる……しかし読点多めの文章はサイコな感じがして、おれはあまり好きではないけど、まあ、それも、ケース・バイ・ケースということで、フリーキー・ザ・ダイナマイトって感じで、今夜もお付き合いのほど、ひとつよろしくってことで。ブリスフル。ソウルクイベリング。そういった体験こそをおれは求めている。もちろん素面のままがいい。吐き気とか目眩とかはもうご免だ。階段を踏み外したり、酒でべとべとになった床に突っ伏したり、上着や財布をなくしたり。そういうのはもうご免なんだよ。あれ、今日はちゃんと薬を飲んだんだっけ。もう忘れたよ。だいたい朝食後に飲めっていうけど、おれの朝っていつなんだよ。朝を迎えるためには夜通し起きていなければならない。久しぶり、本当に久しぶりにファックする夢をみた。流体のような女とのファック。なにか生活臭のする、お互い満たされない悲しいファックだったような気がするけど、細かいディティールは忘れちゃったよ。夢の中まで生活に追われるのは気分のいいものではない。むしろ最悪の部類だ。どうしてぼくたちはこうまでしてまだ生きなければならないのか。三月の、このうっとうしさの中で、反響のない部屋の中で。


 マヨナカテレビは午前0時に発動するんだけど、おれの中では午前0時は真夜中でもなんでもないのだった。そしておれの好みは圧倒的に里中千枝ちゃんで、というよりもきっとみんなそうだろう。彼女はペルソナ4のアイコンのような存在ではないだろうか。だってまず彼女に目がいくものな。それはしょうがない。茶髪のショートカットJKに視線が抗うことなどできない。デビュー当初の内田有紀のような。年賀状ソフトもサーヴィスサーヴィス、だ。ショートカットミッフィーというバンドがかつていたが、メンバーが全員男だと知った時の衝撃ったらなかったね。おれはバンド名からして、てっきりボニーピンク的なヘヴンズキッチンだと思い込んでいたから。いやもっと下北でコケティッシュなブリリアントグリーン的な? 渋谷系のあとはいっとき下北だった。という乱暴なおしゃれポップミュージック観。つまりおれはいまペルソナ4をプレイしているということだ。ペルソナといえば桜玉吉が、なあゲームをやろうじゃないかの中で、なるぺそ! って言っていたのが記憶に深く刻みつけられているが、玉吉さんはまだ伊豆で暮らしているのだろうか。漫玉伊豆日記のあとに新刊は出しているのだろうか。尾道ふところさびしんぼう作戦には笑ったよ。


 こんな感じで。今夜のおれには文章を書く資格がなさそうだが、殺しと違って文章を書くのにはライセンスなど必要ないのだった。ただ連想ゲームのような勢いだけの文章を書いてどうする。そういうノリってもう古いと思うんだ。90年代のセンスだと思うんだ。電気グルーヴのオールナイトニッポン的な感じ。いや、もちろん古いからダサい、新しいからカッコいいってわけではないんだけれど、あの人らはキメるところはバチッとキメるからね。だからカッコいいんであってですね。キメる方法を持っていないおれが、おちゃらけたって見苦しいだけだ。まあでも別におちゃらけているわけでもないんだけど。今日はもうこんな感じなんだっていうことなんだよ。スタートが悪かったね。出足でほぼすべてが決まってしまうから。競艇みたいなものだよ。

 虚飾だ。すべてが。言葉に変換する過程でなにかが剥がれ落ちている。今夜はそういう感覚がいっそう鋭敏におれをめげさせる。投げ槍になってしまいそうになるが、そこで踏みとどまるのが文章を書く人間の矜恃ってやつなんだろうさ。しかしおれにも矜恃ってものがあるなんて、あまりにも嘘臭すぎる。実際はないよ、そんなものは。あるとすれば、こういう文章だって、恥ずかしげもなく披露するよっていう、そんな感じのこれ、それは矜恃と呼べるのだろうか。ただの露出狂では? と言うよりも言い訳では? そうかもしれない。おれは露出狂ではないもの。いや、見たいなら別になんでも見せてやってもいいけど、そこにおれの興奮はない。おれに自分の変態性に心当たりがあるとすれば、ピーピング趣味だな。他人のプライヴァシーを覗き見たいという欲求。ペルソナの陰に隠している、その人間自身を見てみたい、つまりおれは人間の仲間になりたいんだ。なんだよ、みんなおれと一緒で醜いんじゃん、ってそう安心したいんだ。理屈にできる時点で変態性が薄れていく。おれも胸を張って、こういう種類の変態ですって言ってみたいよ。ないんだよ。なにかに執着するってことが。文章を書くことくらいだよ。それって変態ですか?


 また一日が葬り去られる。おれの中から消えていく。大小さまざまなサイクルに置いていかれる一方だ。距離を縮めることなど、とっくの昔に諦めた。思い出せないくらい遠い昔に。そんな永劫に近しい時間感覚すらもサイクルの中においては一瞬のまばたきだ。文章を書いていると、視点や感覚が大きくなったり小さくなったりで大忙しなわけだけど、この感覚は子どもの頃から知っている。眠りに落ちる寸前、おれは自分が巨人になったり、逆にノミくらいのサイズの小人になったり、そんないったりきたりの感覚を不安になりながら楽しんでいた。子どもの頃の記憶。こいつはなかなかめちゃくちゃだ。

 夕暮れ空の遠い向こうの方で、火山の爆発が起きていて、その周りを七色のオーブがふわふわと漂う光景のリアルな記憶。雲をおれの思い通りに操作できた記憶なんかもある。だが、雲を操作するには専用のアイテムが必要で、道ばたで拾った茶色いプラ板の欠片で雲を透かして念じないと駄目で、その魔法のプラ板の欠片はいつの間にか失くしてしまって、しばらくの間ずっとおれはそいつを探し回ったのだった。真っ白な夜の記憶もあるぞ。閃光と呼べるような真っ白な光が透かしたカーテンの柄をはっきりと覚えている。

 こういう記憶をもっと綺麗にドリーミィに書けば、スピッた女子の人気者になれるかもしれないが、そんなのはお断りだ。こんなもんはもちろんただの記憶の錯綜だ。だが、同時におれの中では実際に起こったことでもある。それはそれで、これはこれで、両方を信じるだけだ。


 どんな文章だって螺旋状の少年は受け入れてくれるんだ。ただ文章が書いてあればそれだけでいいんだ。いまおれはそう自分に言い聞かせている最中だ。自分にまやかしを見せているんだ。文章を書くという行為は、まやかしを見せつけることと紙一重だ。それを分かつのは、書く者の自制心とひたむきな姿勢。それがないやつは文章を書かない方がいい。遅かれ早かれ精神をすり減らして、なにもかもを見失ってしまうだろう。今日のおれは稀にみるような大失敗をやらかしてしまった気がしている。おれはいま、ひどい状態にあるに違いない。だが本当におれが根っから能なしの間抜け野郎なら、自分がそうだと気づくことができるはずがないだろうな。おれはまだ大丈夫。自分に愛想を尽かしたりはしない。満足にはほど遠いが、光を見失ったわけではない。そうだ。それだけわかっていればじゅうぶんだ。きっと明日も文章を書くことができる。それだけでじゅうぶんなんだ。

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