表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/99

ニヴルヘイムに吹く風の詩を聴け

 日々消えていく言葉を紡ぐ本日の文章活動イン・ザ・螺旋状の少年。客観的事実は横に置いておいて、偶然と当然をいったりきたりの繰り返しの中、更新されるおぼろげな方針を掲げつつ、詩よりは具体的に、小説よりは主観的に、エッセンスを取り除いたあとの抜け殻をここに記す、兆しとしての印を電脳羊皮紙に刻みつける。ここで語られるおれの姿がどのように見られているのか、それは気がかりではあるけれど、自分とはなにか? おれがわからないのに、あなたがわかるわけがない。おれの制御下におかれた自分などはおれのごく一部なわけで、それでもおれに関する純粋な情報量は目下おれが世界一の人間であることは否定の余地がない。しかし偏った価値観と二流の観察者であるおれの能力と、現実的な利害によってすべてを明け透けに語るわけにはいかない事情によって、取捨選択され、切り取られ、貼り付けられた後のおれが、文章の中に浮かび上がるおれである。その「おれ」は誰か? 誰も知らない。少なくともおれではない。


 文字通りのひと段落ついたところで、もうなにかを書いた気になっている。しかし実際はなにも書いていないのだった。それはいつものこと。語ることを拒否しながら文章を書き続けている男が、なにかを隠しているようでなにも隠していない暗号のような言葉を綴る。本来、隠すことなどはなにもない。もしあなたが知りたいのであれば、おれの本名、住所、電話番号、そのような個人情報を教えられるだけ教えてあげよう。しかし、そんなコード化された情報を知ることにどんな価値がある? この文章と同じく信用に足る情報とは決して言えないはずだ。それでもおれは、誓って言うが良心を持ってこの文章を書いている。にわかには信じがたい話だとは思う。しかしそれはそうなのだ。この文章を書くことによって、読むことによって、良い方向に向かっていければいい。そう強く思って文章を書いている。それが目的と言えば目的だ。そのためには回り道も迷い道も厭わずに突き進む。偶然と当然を行きつ戻りつしながら、光の示す方角へ書き続けていくだけだ。


 だからじたばたしたって始まらない。最初からほとんどすべてのことを諦めている。これはもうどうしようもないわな、と思いながらその酷い光景を眺めている。集団となった人間の力は自然災害と一緒だ。嘆きこそすれ、その勢いを食い止めようなどとは思えないし、せいぜい安全圏に逃げるのが精一杯だ。それでもどうしても譲れない、譲るわけにはいかないことがある。好きなだけ暴れるがいいけど、ここまでは浸食してくれるなよ、そういう領域がある。暴徒の集団にはとても敵わないが、群れからはぐれたお調子者を各個撃破することは可能だ。そういう狩人としての一面もあるということを、おれは今以上に自覚していかなければならない。

 連中は幻を見ている。頼れる指導者などは存在しない。やつらはやつらの都合で動くだけで、やつらを信奉する連中のことなど歯牙にもかけていない。しかし、操れるなら操るし、操ったからには利用するだけ利用するだろう。まるで脳みその無い屍体を操るネクロマンサーのようだ。増えゆく死霊軍団。おれは死んでもその軍門には降りたくはない。なぜなら連中はとても臭いし、滑稽なほどに悪辣だからだ。

 逃げなければ。お笑い軍団の一員にされてしまう。梅干し大の脳みそを動かし続けなければ。連中の仲間と認められてしまう。ビジネスの話はご免だ。おれは他人の涙の上前をはねるなんてまっぴらなんだ。

 どこかから、遠くから、聞こえてくる。東方から、海賊放送から、聞こえてくる。独特な、ドープな、信号、コード。耳を澄ましな。心を踊らせな。聴こえてくるぜ。コズミックファンク!


 節目節目のイヴェントだけで盛り上がるだけでは勿体ない。毎夜のように踊り明かせばいい。生まれ、性別、セクシャリティ、学歴、前科前歴、そんなものはマジで関係ない。薄い殻の中に閉じこもろうとしている連中はもう放っておけばいい。楽しむことだ。大事なことはそれなんだ。最新スタイルのトキシックパンク。飛び交うレーザービームの中で弾け飛ぶだけ飛べばいい。健康的に暴れまくって、たっぷり汗をかいたら、お家に帰って眠るだけだ。

 言葉は不完全だ。人間が不完全であるようにだ。不完全な知性が不完全な言葉を綴って不完全な文章を書く。理想とするのは、欠陥だらけでロジックを軽く飛び越える、アノマリーのような文章だ。いつまでも考える葦ではいられない。刑事と記者は足で稼ぐ。電脳ネットにがんじがらめにされ続けていたら、巨大な電気蜘蛛に捕食されてしまう。中身がすっからかんの巨漢のミイラだ。脆弱な人々、彼らが操る脆弱な言葉、それは他人の感情と時間を傷つけ、奪い取ろうとする。許すわけにはいかない。営業とランナーは足で稼ぐ。履きつぶした靴の数だけ強く雄々しく、そして優しくなれたらいいな、という願いを込めて古代人はこう言った。健全な精神は健全な肉体に宿れかし、と。しかしながら、実際そう都合良くいかないのは、皆さんご存知の通りだ。いまではすっかり、健全なんて言葉は忘れ去られた。風紀委員なんて連中は現実のどこかに存在しているのだろうか? そんなチビッコ憲兵みたいな連中が? ほぼ誰も見たことがない風紀委員。職務に忠実で、冷酷で、しかし内心では自分に疑問を抱えていて、結局主人公たちの純粋さにほだされて仲間になる。風紀が乱れる、が口癖。あと女の子をくん付けで呼ぶ。多くの場合、取り巻きを従えている。男女混合でチームを組むことが多い。要領が悪く、おそらく頭も悪い。不測の事態がとても苦手。それが幻の風紀委員。


 そして言葉は不完全なままだった。そして、とか接続詞を使えばなんでも接続できるとは思わないことだ。おれのよく使う手だ。無理矢理に繋げてやるんだ。上手くいくと詩的な雰囲気が出ることもある。上手くいかなくたって、読み流されるだけだ。便利な接続詞。そして、はおれのお気に入りだ。でもこの前、村上春樹の小説を読んでいたら、おれと同じ使い方で、そして、を使っていてとても萎えた。パクられた気分だ。さすがにそれは言い過ぎだと思ったあなた。もちろんそうだ。だから、気分、だから。それよりも、おれが村上春樹を読んでいることに驚いたか。別に驚かないか。そんなおれのことに興味ないものな。おれは村上春樹をいけ好かないやつだと思っているし、嫌いなんだが、読み始めると読めるんだよね、彼の小説。結構おもしろかったりして。だけどデビュー作のあれは酷いと思う。あまりにも、ヴォネガット。言い訳できないくらいヴォネガット。イラストまでヴォネガット風。ありゃ酷い。よって村上春樹はパクリ作家であることは確実だし、たぶん今でもヤってると思う。だって春樹さんは英語が堪能だから、普通の日本人がアクセスできない小説にアクセスできる。それを日本語に翻訳してからパクって、そのあと各国の言語に再翻訳すると、パクリがバレないんだと思う。それが世界で評価が高い理由じゃないかな。上手くやったもんだ。でも実際におもしろかったりするからね。気持ち悪いくらいするする読めちゃう。おれって春樹さんと気が合うんじゃないか? そう思ってしまうくらい。いやもう、好きでいいよ。だってあまりにも人間だ。親近感湧きまくり。おれもよくパクるもの。だけど村上春樹の小説は記憶に残らない。喉越しが爽やかすぎる。いい日本酒は水に近いみたいなアレですか。そういう意味でも日本を代表する小説家なのかもしれない。頑張っていっぱい走って、健康に長生きしてほしいですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ