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暴発ヤング・ソングブック

 とりあえずでいい。なにか書き始めてみよう。なにを恐れているのかわからないが、書かなければなにも始まらない。そして岸を離れ……おれは振り返った。もう陸地は見当たらなかった。きっと霧のせいだ。そうでなければ、そんなはずがない。考えるに値するものがなにもない、そんなことってあるのだろうか。なんの指令も降りてきやしないのにおれを衝き動かしているものはなんだ。ただのルーチンワークだって言うのなら、おれはいますぐこの場を立ち去らなければいけない。わかった。あくまでもここに居座るつもりなんだな。わからない。文章を書くということにここまで拘る理由が。偏執的にこの行為を続ける理由が。無限に思える数の文章がこの世界には溢れている。なにも今更おれが文章を書く必要なんてないじゃないか。優れた文章だって、ゴミクズみたいな文章も、ゴミクズそのものな文章も、溢れに溢れて過剰供給、そのくせ需要はそこまででもない。もはや文字を目で追うなんてかったるいことをしている人間はアホか時代遅れだけだろう。その両方を兼ね備えているやつだって当然いるし、ましてやおれが文章を発表しているこの場所は、控えめに言っても馬鹿が90パーセントを占めていて、当然馬鹿が書く文章はおれを不愉快にさせるだけだし、おれも仕返しで馬鹿を不愉快にさせてやろうと思ってこんな文章を書いているけど、はっと気づく。馬鹿がおれの文章を読めるはずがないじゃないか。だって馬鹿なんだから。馬鹿みたいな文章を馬鹿らしいと思わない馬鹿な連中に囲まれているこんな状況、ランボーならどうする? 戦うだろうな、ランボーだったら。ランボーの1作目、ファーストブラッドのクライマックスを、おれはいまだに涙なしで観ることなんてできやしないよ。ずっと心を殺して耐えてきたランボーから溢れ出る叫び。地獄のようなヴェトナムから帰還した祖国もまた地獄だったという絶望。おい、馬鹿ども。まずはランボーを観ろ。話はそれからだ。


 気を抜くと、レイシストどもへの怒りと憎しみを激しくぶちまけてしまいたくなるくらい、最近のおれの頭の中はそれで一杯なわけだけど、ストップ。八つ当たりをしたってしょうがない。怒りを文章に変換して気が晴れたことなんて一度もないじゃないか。厄介者扱いされて、それで終わりさ。結局のところは路上に出るしかないんだ。諸君、おれは怒っているんだ。くらわしてやりたいんだ。目にもの見せてやりたいんだ。ちくしょうめ。クソどもめ。苛つくっちゃねえぜ。臆病ないじめっ子の群れはどうしてあんなに醜い顔で笑うんだ? 笑えるんだ?


 落ち着きを取り戻すのには時間がかかった。しばらく実践していたアンガーマネジメントなんてものは、結局はまやかしであることがわかったので、もうおれには必要のないものだ。なぜ怒りを無理に抑えつけなければならないのか。怒りを忘れてしまった人間なんて腑抜けた猿になるだけだ。怒りは必要だ。誰がなんと言おうとも。思うに現代に圧倒的に足りていないのは怒りではないか。ひろゆきとかいう二流のぺてん師がもてはやされているわけだ。ああいう野郎は、黙ってぶん殴っちまえばいいんだ。黙れ、このやろう。二度と口を開くんじゃねえ。喋るな。もう一発喰らいたいか?

 確かに。失言だったかもしれない。うん。実はおれもそう思っている。暴力でなにかを解決しようとするのは、非常によくないことだ。暴力というものはあくまでも最終手段。使わなくて済むなら使わないに越したことはない。だがね、連中のようなクソどもが調子こいているのは、暴力に訴えてはこないだろうとたかを括っているからだと思うんだ。ある意味強いと思うよ、連中は。他者が傷ついても心を痛めることがないんだから。自分はまったく傷ついていないから、なにも問題じゃない。そんな風に考えることができるんだから。そういうある意味で無敵な連中を脅かすには、やっぱり暴力をちらつかせるしかないのではないか……そうおれは考えるのだけど、おれは間違っているのだろうか。

 またこんなことを書いているわけで、おれはちっとも落ち着きを取り戻してはいないのだった。


 そしておれはまったくどうでもいいことを書こうと思った。つまりおれ自身もうんざりしているってわけだ。ただあいにくおれには日常のこぼれ話的なものが手持ちにない。別にでっち上げてもいいんだけど、そこまでして書くほどのものかね、文章ってやつは。笑わせようという意図をもって書かれた文章に漂っているうすら寒さに耐えられるほど、おれは鈍感ではないんだ。それがおれの不幸なのか。なんらかの意図をもって書かれた文章。こんな風に見られたいと自己主張してくる文章。悲しいことだけど、そんなものを書いている時点で、あなた自身はあなたが書いた文章、こんな風に見られたいあなた、そんなものとはかけ離れた存在だということがくっきりと浮かび上がってくるだけだ。馬鹿は喜ぶだろうがね。馬鹿を喜ばせて、なにか良いことがあるのかい。おれにはなにも思いつかない。悪いことだけはいくらでも思いつくんだけど。

 くそ、今夜のおれはあれこれと考えすぎだ。おれにできることなんてなにもない。身体以外のすべてがやつれ果てた連中のためにできることなんて、なにも。

 ただただ、こうやって戯言を連ねるだけだ。戯言の船に乗って旅に出よう。沖へ出よう。水平線の向こうへ。浅瀬で遊んでいる連中を見るんじゃない。やつらとおれは同じ生き物ではない。ああそうだ。それでも同じ血が流れている。共通点は多い。意思の疎通もはかれる……たぶん。しかし通じ合えることはない。なにもない。連中がおれを楽しませることはできないし、おれが連中を楽しませることもできやしない。なにかがおれたちを決定的に違えた。それがなにかはわからないが……いや、わかっているが……さすがにそれを書くのは気が引けてしまうよ。もし教えて欲しければ、連絡をくれ。遠慮なく言ってあげよう。おまえは馬鹿だ! ってね。


 今日は馬鹿って言葉を使いすぎた。馬鹿。いい言葉ではないね。かといって悪い言葉でもない。普通だ。普通の言葉だ。そしておれ自身もこの言葉の定義に当てはめることができる。当てはめることのできない人間なんて存在するのか。結局のところ、誰も彼もくだらない存在だということだ。おれにとっても、あなたにとっても。それでもなにかになってやろうと必死にもがく。作家、郵便配達人、ホームレス、カメラマン、犯罪者……なんだっていい。けれどなんにもなりたくないおれのような人間はどうしたらいいのだろうか。誰も教えてくれないんだよ。ケチくさいね。おれなんかよりよっぽど上手くやってるじゃないか。なにか知っているんだろう。教えてくれよ、この世界の秘密をさ。おれはどうもボーッとしていて、聞き逃したらしいんだ。それがいつのことかわからないけど、おれの予想じゃ生まれた時なんじゃないかって睨んでる。なあ、どうにか上手くやっていける秘密があるんだろう? そうなんだろう?


 雨が降ると頭が痛いと訴えても、気圧のせいだよで済まされてしまう。そうじゃない。おれはいつも頭が痛いんだ。頭が痛いから、こんな文章を書いているんだよ。なぜ誰もわかってくれないんだ。と言いつつも、わからせるつもりなんてこれっぽっちもないんだ。わからなくて結構。わかるわけがあるか。おれだってわからないんだ。さっぱりわからないよ。

 

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