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これからどうなるんだい、レイディ

 生きる方向性がわからない。おれ基準で言うと結構長く生きているのに。逆に言えば方向性などが定まらなくても生きてゆくことはできるというわけだ。平和ボケした日本人だなんて言われてしまいそうだ。うるせえ黙ってろ。ボケはおまえだ。さっさと消え失せな。と言う具合に、文章の方向性も定まらない。こうしてブツブツ独り言のような文章を書いているおれだが、よもや狂人などと思われてはいまいな。疑ったフリをしてみたけど、思われていないことくらいはわかっている。なぜならおれの文章はとても理知的だからだ。そこに知性が宿っているかどうかは知らないけど、おれが冷静に文章を書いていることは明白だろう。汚い言葉を使おうと、クソッタレと書こうと、そんなものはおれの日用語みたいなものだから、決して激情が宿った言葉というわけではない。おれは最初から最後まで、徹底して冷静だ。ただ行き当たりばったりに文章を書いているだけだ。いやしかし。しかしだよ。文章を書くのに狂気は必要だ。瞬間的な狂気ではなく、文章全体を覆うようなアトモスフィアとしての狂気が。戸川純の歌のような感じ。とは言ってもだ。狂気は欲しいと思って手に入れる類いのものではないのであった。おれはよく、ぶっ飛ばしていきたい、とか書いている。スピードだとか、あとはなんだ、まあそのようなことをよく書いていると思うのだけど、すらすらと例が思いつかないと言うことは実はそこまで書いていないかもしれない。でも何度か書いたことはあるはず。おれ個人の印象としてはほぼ毎回書いているはずなんだが。いまザッと探してみたけど見つからなかった。おかしいな。不思議だな。まあいい。つまり、おれがそういう、すっ飛ばしていくぜ、みたいなことを書くときは、狂気よおれに宿れ、そう念じているのだと言うことだ。宿れって言うと外部からくるように思われるかもしれないな。もっと詳しく言うと、おれの内側に潜む狂気よ出てこい、という感じで景気づけしているのです。だけどダメだね。おれはどこまでも冷静だ。タフでクールなあんちくしょうだ。


 結局おれは持っている手札で勝負するしかない。それはそう。その通り。ぐうの音も出ない。それしかないよね。それでもまだ見ぬおれに期待しているおれだ。もう一度、手札を確認してみろ。スペシャルなカードが紛れているかもしれない。何度見たって同じさ。いや念のためだ。二枚重なってスペシャルが隠れているかもしれないじゃないか。もうやめよう。惨めが過ぎる。諦めがいいんだな。おれは諦めきれないよ。このまま繰り返しの渦の中でぐるぐる回り続けるのか。それでいいのか。それでいいと言ったのはおれだ。それはそう。その通り。

 シンプルに言えば飽きたんだ。いやまだギリギリ飽きてはいないけど、飽きそうなんだ。迷っているんだ。踏みとどまるか、さっさと引き上げるか。どちらにもそれなりの価値を感じている。贅沢な悩みなんだよ。どっちを選んでもいまより悪くはならないだろう。決していまが悪いとは言いませんけどね。でもやっぱりさ、文章を書くって行為自体が暗いよね。どうしても暗くなってしまうよね。いえ、毒にも薬にもならないような、日常のアレコレをおもしろおかしく、みたいな文章を書く人は知らないよ。ああいう人たちって嫌な目に遭っても、ネタになるって思うらしいじゃないですか。おれはそれ、病気だと思う。狂気ではないよ。病気。なにか騒ぎがあったら、とりあえず動画を録っておけみたいなメンタリティじゃない、そういうのって。目の前で起きている非日常、そしてそれは悲劇かもしれないことを、まず拡散しなければって考える人たちって、承認欲求っていうか、なんでもかんでもエンタメにしないと気が済まないっていうか、もう生きている場所が違うよね。見ているものが違う。感じていることが違う。まともな人間ではない。なんらかの精神的なウィルスに感染していると思います。でももうそれが当たり前ですものね。世界中それがスタンダードだもの。それが恐ろしいとは言わないよ。ただ気持ち悪いよね。そういうことです。


 で、こういうことを書いているおれは暗い人間なのよ。いまや暗いヤツって、アニメとか声優とかそっち系のオタクではないんだよね。こんな文章を書いているヤツなんだよ。頑なに陰キャって言葉を使おうとしないところとかも暗いよね。だって嫌いだよ。陰キャって言葉。おまえって根暗だよな。そう言われたら、そうかもねえって普通に答えることができるけど、おまえって陰キャだよなって言われたら、あ? いまなんつった? こうなるじゃん。嘲り成分が多すぎるんだよね。言葉自体が喧嘩売ってきてるの。ムカつくよね、単純にさ。おれは流行り言葉っていうか、スラングのすべてが悪いとは言わないですよ。陰キャはちょっとセンスが悪すぎるよねって言ってるんですよ。チー牛ってのもあるよね。これに関しては、もう意味わからないからね。暗いヤツってチーズ牛丼をよく食べるの? 本当に? なんで? どういう理由で結びついているのかよくわかりませんよ。はあ……。激おこぷんぷん丸……。定着して欲しかったよ……。まったく! 世界は病人ばかりだ。悪趣味で貧しいものばかりが蔓延して、しゃれっ気のあるものは駆逐されてゆく。なぜだ? おれの胸は張り裂けそうだよ。低脳でダサい連中ばかりが幅を利かせて、おれのように素敵な人間は居場所がなくなる一方だ。そりゃこんな文章も書きます。暗くもなります。おれの困ったところはスノッブな連中も超嫌いってところだよね。どんな人が好きなの? 素敵な人だよ! でも滅多にいねえよ、そんなヤツは!


 暗いと不平を言うよりも、進んで灯を点けましょう。うるせえよ。おまえらには神がいるかもしれないけど、おれにはいないんだよ。神なき世界に生きているんだよ。おれはおまえらが羨ましいよ。どうすれば神の存在を信じることができるんだい? コツを教えてくれよ。おれはガキのころ、神をチェーンソーで真っ二つにしちまった罰当たり者なんだよ。神さえ信じることができれば、素敵なんだけどな。あ、でも教会とかには通わないよ。ひとりで神と向き合って生きるさ。群れるのは好きじゃないんでね。神がいるって確信さえ持てればそれでいいんだ。そうすれば街に出たって、電車に乗ったって、イライラすることはなくなるに違いない。態度の悪いアホを見ても、赦せるに違いない。神が見てるからね。そうしたら外出時の頭痛もなくなるし、暴力衝動もなくなるから、安心して酒が飲めるってもんだ。こってりとしたトラピストビールをたらふく飲んでやるぜ。

 まったく疲れてしまうよ。もういいだろう。飽き飽きだよ。なにもかもが幻だってネタばらしをしてくれよ。冗談だったんだって言ってくれよ。それからみんなでどこかに飲みにでも行こうよ。浅草橋にいい店知ってるんだ。結構な人数でもあそこなら入れるはずだよ。みんなで大騒ぎして笑い合おうよ。カラオケに行ってクールスを歌っちゃおうか。それともフィッシュマンズの物真似を披露してしまおうかな。ガールズバーに行って女の子と楽しくお喋りしようか。タクシーを拾ってお家に帰ろう。水を一杯飲んで歯を磨いてベッドに潜り込もう。それでぐっすり眠ってしまおう。神に感謝して、深く、深く、眠ってしまおう。それで二度と目が覚めなければ最高だね。とにかくおれはもう飽き飽きなんだよ。

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