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よっパラノイア

 おれがこうして、毎晩文章を発信しているのは、なにもそのへんでうようよ蠢いている一般ピーポーのためではないことは、おれの文章に少しでも目を通した人間なら先刻承知のはず。だっておれは普通ヅラしているキチガイどもを明確に敵視しているし、きゃつらは完全に間違った方向を向いていると信じて疑っていない。おれの文章には毒をたっぷり仕込んである。わざとらしく、これ見よがしに。この毒に眉をひそめるヤツに用はない。興味もない。おまえたちは善良な市民のように振る舞ってはいるけれど、なんの役にも立ちやしない。おまえたちは、誰かが動かなければ、自分から動こうとは決してしない。おまえたちは、想定外のことが起こった時に、固まってしまい、事態を見て見ぬ振りをすることしかできない臆病者かつ卑怯者だ。おまえたちは、目立って嗤われることをなにより恐れている。おれにはもうおまえたちの正体がわかっている。そういった場面に散々立ち会ってきた。いつだって、おれのような一般的にアホと蔑まされているような人間が、まず動く。誰かが困っているとき、危険に晒されているとき、まず動くのは、アホと看做されている者たちだ。嘘だと思うかい? おれの口から出任せだと? 笑わせるな。おまえら一般人が動くのは、断言したっていい、誰かが動いた後だ。反射的に、誰かを助けなければ、そう考える前に、おまえらはまず自分のことを考える。今ここで、大袈裟に動いたらみっともないのではないか。恥ずかしいのではないか。自分に注目が集まってしまうのではないか。おれはそんな場面を散々見てきた。結論として、自分の保身しか考えないクソ人間どもが、この世の中にはあまりにも多過ぎる、おれはそう考えている。そして、誰かがまず動く。考えるよりも先に動く。その光景を見て、おまえたちが動いていい場面なのだと理解し、はじめて動き出す。私は動きましたよ、善人ですから。そういうツラをする。そんなおまえたちを、おれがどういう目で見ているか。おまえたちを、どう評価しているか。考えたことがおありかな?

 つまりはそういうことだ。おれはおまえたちを、信用できない。背中を預けることができない。あまりにも弱く情けない人々。イニシアチブだけかっさらって、満足げな顔をしている、妖怪ども。お好きにどうぞ。おれはイニシアチブなんて欲しくない。そんなものが欲しいなどと思ったことは一度もない。おれはただ……いや、もういい。

 おれが文章を書いているのは、きみに読んで欲しいからだ。考えるよりも、まず先に身体が動く、そんなきみに。おれが見るに、ここ小説家になろうのエッセイジャンルにはそういう人間がとても少ないように思える。どいつもこいつも、クソッタレで退屈な文章しか書いていない。おまえたちは役立たずだ。あまりにも卑小で、あまりにも世俗的。自己愛だけが人並み以上に発達した醜い連中。正直に言えば、おれはそんな連中に文章を書いて欲しくない。だから、おれはこうして文章を書いているんだ。おまえたちの文章などクソ以外のなにものでもない、そいつを証明するために。きみのために。きみだけのために。おれは文章を書いているんだ。


 頭が痛い。おれは酔っている。元旦以来のアルコールで、すっかりやられちまった。おれが酔うと、こんな文章を書いてしまうんだぜ。凄いだろう。うっとうしいだろう。これが正直なおれの気持ちなのか、それともただの冗談なのか、そのあたりの判断はあなたに任せるよ。だっておれにだってわからない。どっちもそれなりに信憑性のある話だ。とにかくまずはこの頭痛をなんとかして欲しい。ちくしょう、酒だけじゃない、一晩でまるまる1箱、20本の煙草を吸ってしまった。酒と煙草の合わせ技一本だ。決して遠くない未来、おれは吐き気を催す。その前に、こいつをやっつけてしまいたい。やっつけの文章を書き飛ばしてしまいたい。勘違いして貰っちゃ困るぜ。やっつけはやっつけでも、クソッタレどもの書く退屈でいんちきな文章よりは、よっぽど大したものだということ、そのあたりのことを勘違いしてもらっちゃ困るんだぜ。確かに普段のおれよりは、なんとなく落ち着きのない文章なのかもしれない。それは認めよう。おれは酒を飲んだ。ああ、飲んだとも。それがなんだと言うんだ。酒を飲んだっておれは文章を書けるんだ。一行、また一行と、書き進めることができる。次の一行はいったいどんな一行なのかな。もしかしたら素晴らしい一行になるかもしれない。次の一行こそ、おれが普段書こうとしていたけれど、ついに見つけることのできなかった一行なのかもしれない。おれにはなにも予想できないよ。だからおれの文章はおもしろいんじゃないか。くそ、この頭痛さえなけりゃあな。いや、言い訳はよそう。この頭痛とこの文章の相関関係を考えることよりも、まずは文章を書くことに集中しよう。ああ、でもその前に、水を一杯。


 きっとおれもかつてはいんちき野郎だった。けれどおれはそのことに気づいていた。そして、これじゃいけないと思った。思うだけじゃない、実行した。だからおれはいまこんな文章を書いている。おれくらいの瞬発力とユーモアがあれば、とびきりのいんちき野郎になれたに違いない。おれにはいんちきの才能がある。他人を騙して、自分を騙して、充実した生活を送るおれを演出することなど、お茶の子さいさい、朝飯前よ。しかしおれは人一倍プライドが高かった。他人の目よりも、自分自身の目の方が、よっぽど恐ろしかった。詐欺師は詐欺のテクニックに通じてるから詐欺師になれるんだ。幻の充実など。そんなものにいったいどんな価値があるというんだ?


 急激に酔いが冷めてきて、すこし我に返ってみれば、この惨状よ。な? 阿部ちゃんっておもしろいだろう。クソッタレのいんちき野郎なら、こんな文章は消しちまうだろうな。だってあんまりにも、あんまりじゃないか。でもおれは消さないよ。このままイキでしょう、イキ。上からゴーサインが出ました。やっちゃろうじゃないの。悪ノリに悪ノリを重ねて、めちゃくちゃにして、あんたの眉間に皺を寄せてやろう。それか、なんだよコイツ馬鹿じゃねえの、そんな笑い混じりの独り言をあんたから引き出してやろう。けれどもあんたを退屈はさせないよ。あんたはこの文章から目を離せない。最後まで読まずにはいられないだろうよ。もう認めてしまいなさい。阿部千代さんのことを。好きなんだろう? おれの文章がよ。

 まあいいや。おれのことを好きだろうと、嫌いだろうとさ。どっちでもいいんだよ、本当のところは。ただ酒を飲んで文章を書くのはもうやめようと思ったね。いや文章の内容とかはどうでもいいんだよ。なにが書いてあるにせよ、間違っちゃいないから。単純に辛いんだよ。どうして今夜のおれは文章なんて書き始めたのだろう。すぐに寝てしまえばよかったのに。誰も咎めないのに。誰にも期待されていないのに。まあでもそこで書き始めるからこそ阿部千代なのだと言うこともできる。言うこともできる? 違うだろう。言葉は濁さず正確に言わないと。こんな夜にも文章を書き始めるからこそおれは阿部千代なんだよ。どうだい? ちゃんと文章になっていたかい? 申し訳ないけど、そのあたりは自信がないぜ。ここらへんは、もうただの文字数稼ぎだぜ。こういう最低3000字とか、自分で勝手に決めたことを忠実に守ろうとするあたり、おれってやっぱりパラノイア。

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