お願い、夢の話はもうやめて
どうもこうもない。ただ文章を書くだけだ。ただそれだけのことだけど、それがどんなに刺激的で危険に満ちていることか。自分の考えを言語化しているようで、実際のところはそうでもない。嘘だとか真実だとか、そういったことはどうでもよく、言葉が連なってゆくその光景が好きなんだ。はたして文節と文節との間に明確な繋がりは必要なのだろうか。そんなものは大した問題じゃない。繋がっているようで繋がっていないような文節と文節。意味や結論に気を取られていたら、なにも読めやしないだろう。それとも読み終えた後、なにかが残ったような気がしないと、文章を読んだ気がしないのかな? この作者はなにが言いたいのか。アホらしい。なにも言いたくない場合だってある。ひとつの石ころを蹴飛ばし続ける遊びのように、競技性のないゲームのように、なるべく価値や意味を添加せずに文章を書く。そして飛躍する。おれはオリジナル・ワンなんだ。おれの文章が、ではないよ。おれ自身がだ。おそらくきみだってそうなのだろう。おれにはそうは見えないけれど。とにかく、おれを分析しようとしたって無駄だ。人間を分析しようとしたって無駄だ。きみの分析はいつだって的外れ。言葉に全幅の信頼を置くのは今すぐにやめたまえ。言葉はいつでもどこでも誰とでも寝る売女だ。同時に魂だけは誰にも売り渡しはしない淑女でもある。ムーサよ、ムーサたちよ、貴女がたの加護をおれに。おれは貴女がたを裏切りはしないだろう。
足が冷えるのは辛い。寝付きも悪くなり、いつ眠っているのか、いつ起きているのか、その境目すらわからなくなってしまう。暑い日々はその反対。足が熱を帯びて、寝付きが悪くなり、いつ眠っているのか、いつ起きているのか、その境目すらなくなってしまう。おれの足が、おれを悩ます。おかげで1年の大半が寝不足だったり寝過ぎだったりで大騒ぎだ。適切な眠りというものをおれは探している。探し求めている。顔のむくまない眠りを。まぶたが腫れ上がらない眠りを。目覚めと共に全身が覚醒する眠りを。自分自身が生まれ変わったかのような錯覚を覚える眠りを。新鮮な陽光の兆しに誘われ、野原を駆け巡れば、いつしか小鳥たちが集まってきて、頭の上にそっと花輪を置いてくれる。指を差し出せば、仲良しのあの子が羽根を休めて、美しいさえずりが耳を喜ばせる。そんな目覚めのできる眠りはないものだろうか。
話は変わるけど、アンドロイドは電機羊の夢を見るか? をもじったタイトルが世の中には溢れているが、こいつを弄ぶ連中の何割がディックを読んでいるというのだろうか。こんなことをいつまで続けるつもりだ。いい加減にした方がいい。~は~の夢を見るか? そう聞いてくるヤツがいた時点で、おれに通報してくれ。即刻尋問に向かう。フォークト=カンプフ感情移入度検査を行い、流れよ我が涙。そう問いかけて、なにも反応が出なかったら、そいつは異端だ。マーサー教の名に置いて、酷い目に合ってもらう。覚悟しておきなさい。イジドアみたいにしてやるんだから。一生ザップガンで遊んでもらうんだから。
80年代のオタクみたいなことを書いてしまった。おれのまわりだけ時空が歪んでいる。時の流れをいじくり倒した罰というわけか。だけど文章だけは最新型の阿部千代スタイル。レトロモダンフューチャーといった感じだろうか。チバシティの空はいつだってザーザーの砂嵐なんだよ。おれはくたびれたA-2フライトジャケットのポケットから硬貨を取り出して、時代遅れの縦スクロールシューティングで遊ぶのさ。で、ステージ2のボスに完膚なきまでにやられちまうのさ。チッ、と舌打ちして筐体を軽く蹴飛ばし、背中を丸めて両替機に向かうと、そこにはミステリアスな全身ラヴァースーツの女がいて、こう言うんだ。
「ねえ、アンタ危ういよ……」
おれは挑発的な気の利いたジョークを言って、ペッと唾を吐いて、また背中を丸めて通りを行くんだ。だってチバシティの空はザーザーの電磁式砂嵐なんだからね。最近は爪楊枝がお気に入りで、いつも口に咥えている。舌でいじってピコピコ動かしたりして、遊んでいる。おれが危ういだって? なんなんだよあの女は。初対面のヤツに言うことじゃないだろう。思わず逃げ出してきちまったじゃないか。セレクトショップのショウウインドウに映るおれの顔と目が合った。情けない顔。母親とはぐれた迷子の坊主みたい。ああ、ダイヴがしたい。とにかく文章にダイヴがしたいんだって。いまのおれは、馬もピストルも失ったカウボーイみたいなもんだ。だけどいつだって人生これから。めいっぱい楽しまなくっちゃ。ギブスンがたったの一文で、千葉市をいかがわしい未来都市にしちまったみたいに。魔法をかけてやるんだ。一生解けない魔法を。
やあDJ。イカしたプレイで今日もフロアを沸かせてくれよ。それともおれがやろうか? いつもアンタを見ているけど、なんだかおれでもやれそうな気がするんだよね。人生に一度くらいはDJブースに入ってみたかったんだ。気取った顔で頭を揺らしている、いけ好かないヤツに爆音を届けてやりたいね。ノイズ。センスのいいノイズ。電気的で金属的で悲鳴にも似たノイズ。おまえの耳の中の蝸牛をつつきまくって殺してやるぜ。青く輝く電気牛の暴れっぷりをご覧じろ。エレクトロカウボーイのお手並み拝見といこうじゃないか。なんだって乗りこなしてやるっての。こんな文章だって。振り落とされてたまるかよ。連れて行ってくれ、ヴァルハラ。お相手つかまつる、ヴァルキリー。見上げた先には、ユグドラシル。駆逐してやる、ニーズヘッグ。ギャハハのハ。
いったいどうしたものかね。今日のおれはオイタが過ぎる。おれを困らせてどうしたいんだ。でも気分は悪くないよ。最近はなんだかドブ臭い文章ばかり書いていたから、こうやって心を洗濯するのは、なかなかの選択だ。うん、クーロン結晶のいい香り。九龍城砦は永遠の憧れだよ。一緒に暮らしていたネコにもクーロンって名前をつけるほどにね。クーロンズゲートもいつかはプレイしてみたいよ。ウッ、ハッ、ハッ、っていう感じの戦闘BGMだった記憶があるんだけど、合っているかな。いやいいんだ。合っていようが、合っていまいが。おれの心の鍵穴には合致しているから。美しい記憶はそのまま保存しておきたいんだ。それが真実かどうかなんて野暮なことは言いっこなしってことでひとつヨロシク頼むよ。ふとしたときにフラッシュバックする記憶の欠片が脳をかきまわすその瞬間がたまらないね。いろいろとあったんだよ、おれだって。こんなことを書いたってしょうがないんだけど、でも書かせてくれ。だって他に書くことなんて見つからないだろう。そうなんだ。おれには本当にいろいろあった。悲しいこと、辛いこと、苦しいこと。だからどうしたってんだ。そんなもの全て他人事だよ。こんなこと、前にも書いた気がするけど、というよりも何度も書いた気がするけど、それでもいいだろう。繰り返すんだから。ミクロもマクロもすべては繰り返すんだよ。永遠の繰り返しの中のほんの一点が今ってわけ。そんな風に考えると、なんだか今が素敵な奇跡のような気がして、ちょっと救われる。現実なんて大したことないぜ。魔法の前では形無しだぜ。港の空の色は、空きチャンネルに合わせたTVの色だった。この一文よりも素敵な現実があるって言うなら、ぜひおれに見せてくれ。ラヴ。ピース。




