八話 書留
「緑の君」の簪の件で相談をしてから、キリとトクンの仲は少しだけ距離を縮めた。
お互いに恋心を抱いていて、姿を見かけては微笑みあって挨拶をする。
そして時間があればトクンの見回りの当番の日に、調味料庫の側で何気ない話をする。
キリは徒市にいる親友のビジュンに、「恋をした」と手紙を出した。
そしてとある日、トクンに呼び出されたキリは、その話に驚いた。
「ビジュンからの連絡?」
「いえ、連絡ではなく、来ています。同行しますので、面会して下さい」
トクンに案内されてやって来たのは小門のひとつ。
そこに、後ろ手を縛られているビジュンが、荷車に荷物と共に乗っていた。
ビジュン、と親友に声を上げて走り寄るキリを、門番たちが一旦止める。
ビジュンはキリをその目に認めると、「良い思いをしたわ~」とぼやく。
トクンが小刀を取り出し、「この少年は知り合いですか?」と義務で聞く。
「はい。親友のビジュンに間違いありません」
「ねぇ、ねぇちょっと、早く縄を解いてよ~」
トクンが渡した小刀を受け取って、キリは親友を束縛する縄を切った。
同行していた見回りのひとりの男が荷台から立ち上がり、無言で去って行く。
キリはその男の光鱗の黄色い腰布に見覚えがあって、二度見をした。
ビジュンは「だから、良い思いをした、っていってるでしょうに」とキリに言う。
トクンがビジュンの渡した紙束にさっと目を通し、なんてことだ、とつぶやく。
キリが黒いTシャツに緑色の袴を履いているビジュンの背中に気づく。
「・・・まさよし?たしかビジュンの父上のお名前・・・まさかっ・・・ビジュンっ」
「ん?生きてるわよ」
「あれ?うん、ごめんごめん」
この紙束に書かれているものは、とトクンがビジュンに問う。
「ああ、なぜか相談されるから、王宮に行くついでだし、皆の要望とかをまとめたわ」
「正義を背負ったからか。ぜひお話したい。我、相談見回り役のトクン」
「あら・・・そうなの?大丈夫よキリ。ちょっと彼と話があるの。色恋の類いじゃないわ」