七話 「青の君」の気まぐれ
「緑の君」が位を持ったのは十二歳で、王の寵愛を初めて受けたのは十五歳だった。
生まれは貴族であり、外をあまり知らぬ。
家のために生まれて育った、と思って、何が悪いのか分からない。
それもまぁ、善き統治をする王の側女としての約束があったからだろう。
生まれが違う、と周りからは言われていた。
素朴な容姿を自覚していたし、王宮の言葉も自然となじむ暮らしだった。
ただ、身体が弱く御子を生めないと診断されてからの白々(しらじら)しい目は確かにあった。
それでも王に気に入られたくて、詩を詠んでみたり、琵琶を奏でてみたりした。
ただ王が若き日に好んだのは、実用的な動きを孕んだ剣舞などであった。
「お前が悪いわけではない」
王はそう言った。
それから約二十五年、自分の役目ももう終わりなのだろうか、とため息が出る。
身体の不具合は肺であって、咳が出る。
なので久しく、王には会っていない。
「このまま、お姿を見ることはないのだろうか・・・」
思わずぼやいた「緑の君」の、見舞いに来ていた「青の君」が言った。
「なぁ、なぁ、緑はん、次の『緑の君』は誰じゃろか?」
少し黙って吟味するに、その「青の君」の誘いは浪漫の類いだと思った。
その表情を読み取ったのか、「青の君」は「緑の君」の髪から簪を一本抜いた。
衣の袖口に隠し、「ほな、お大事に」と退室した「青の君」は口元を上げる。
部屋を出て番人の側、階段の下で待っていた側付きのユアンに、「青の君」が言った。
「お前の姪は、息を忘れるほどに美しいらしいなぁ?」
「不思議な魅力を持っております、可愛い姪です」
ふぅん、と相槌のような鳴き声のようなものを発した「青の君」。
それをあきれ顔でユアンは見た。
「何か、くわだてた時の顔をなされておりまする」
乾いた笑いを出す「青の君」。
「その、キリとか申す女人、見てみたいな。例の廊下に呼べ」