六話 「緑の君」
「『緑の君』が、お呼びです」
女官に言われ、『緑の君』の自室に呼ばれるキリは、そこにイサも見つけた。
『緑の君』とは側女であり、側女は「赤」「緑」「青」の『君』とそれぞれ呼ばれる。
愛称特有の色で統一された衣と装飾品を身につける決まりがあり、『緑の君』は緑色。
そしてキリが呼び出されたのは廊下に落ちていた簪を拾った件。
そしてイサがこの部屋にいるのは、飾番だからに他ならないのだろう。
現在、病に伏している『緑の君』がその区画の廊下を歩くはずがない・・・
なのにその廊下で、『緑の君』の簪が見つかった・・・
つまりキリとイサに、何らかの容疑がかかっている。
共謀の。
で、あるから、キリは機転をこらして発言した。
「共謀して盗んだのであれば、簪を落としたとそもそも報告しません」
「キリの発言に賛同です。簪を落としたと言われたのが初対面です」とイサ。
病になのかその奇妙な出来事になのか、『緑の君』は顔をしかめた。
「ならば、何か心あたりは?」
キリの心音が高鳴った。
「いえ・・・ありません」
イサがはっとして、キリを見る。
「誰かをかばっているか、脅されているのですかっ?」
苦しそうに無言を保つキリに、隣に同じく平服しているイサが顔をのぞく。
「おもてを上げなさい・・・」
『緑の君』が、イサとキリの顔立ちを見て、「若く美しい」とぼやいた。
「実はその日な、『青の君』が見舞いに来てくれていた」
はっと息を呑むキリに、それを見逃さない面々。
キリが動揺しているのは、親戚の「青の君」の側仕えのユアンのことだ。
もしユアンの立場が揺らいで、なくなってしまったら・・・
「喉でも渇いているのだろう。どれ、水を飲みなさい」
キリとイサは促された通りうやうやしく器に入った水を飲み、その場に倒れた。