四話 徒市のビジュン
『徒市:とし』の、とある家に美少年が三日ぶりに帰宅した。
名は『美純:ビジュン』と言って、玄関先で仮の恋人である男のほほにキスを贈った。
家の経済力は特になく、時折働きに出ている。
彼、ビジュンは王宮にいる『キリ』の親友。
十九歳の彼の父親は、時折観光客を相手に海に面した崖から飛び降りる仕事をしている。
今日はその仕事であって、どうやら家にはいないようだった。
ちなみにビジュンは父が十六歳、母が二十七歳の時の子供になる。
料理をしている母が、手紙が来ていたよ、と姿も見ずに声を透す。
「誰から~?」
「キリちゃんよ~」
自室にて手紙を読むと、はっと息を呑み、胸元を押さえるビジュン。
「キリは・・・恋をしている・・・こうしちゃいられない、あたしの出番よっ」
帰宅早々、小荷物をまとめる息子に、「稼ぎは~?」と母の声がする。
ビジュンは徒市の娼館で通いの男娼の契約している。
先程ほほにキスを贈った相手は、娼館の護衛で、客ではない。
部屋にある机の上に木製のトランクを乗せて、服を詰め込む。
いつの間にか混じっていた黄色の『光鱗布:こうりんふ』の腰布を打ち捨てる。
ただ少し考えた様子で、その布をおもむろにトランクの中に入れた。
身支度を終えたビジュンは、家の奥にいる母に声をかける。
「ちょっと出てくる~」
「お金は~?」
「部屋に置いといてあるから~。あと、しばらく帰らない~」
「どこに行くの~?」
「王宮~」
「ははは。だったら茶葉と醤油が足りないって王様に言っておいてくれ~」
「わーかったぁ~」
こうしてビジュンが本当に王宮に向かったのが家族に知れたのは三日後。
ハイネックなノースリーブの上着に袴、ゴーグルの付いた帽子をかぶっている奇妙な美少年のうさわがわずかにたっていた。