参話 武官のトクン
王宮の造りは『夏公:かこう』と『冬公:げこう』と言う大きくふたつに別けられる。
夏公は、何かあったら王宮の外に出る者。
冬公は、何かあったら王宮内に留まる者。
武官にもその造りは当てはまり、『都薫:トクン』は夏公眷属の武官。
その仕事は王宮内と外については界隈の治安を維持する見回り相談役。
『夏公長:かこうちょう』に気に入られた者として、夜の関係のうわさが出ている。
朝から昼前に外で、そして当番になれば夜に王宮内の見回り、それ以外は休憩時間。
報告書を書く時間も休憩に含まれ、トクンはその善人ぶりから夏公長に好かれている。
もちろんトクンから報告を受けるのは夏公長であり、更に上の位はいる。
かと言って、夏公長は場合によれば王に直接報告が義務とされている身分である。
トクンは馬に乗って闊歩するだけで治安を善くした謎の美人、と王に報告されている。
そんなトクンの初恋は先日であって、今宵は当番で王宮の見回り。
調味料庫の木製階段に人影を見つけ、声をかける。
そしてそこにいたのは女人であり、初恋の相手であるキリ。
キリは宵闇に明かりを少しだけ灯してあるだけの場所で、思い悩んでいる様子だった。
「もしよければ相談に乗りたい」
そう申し出て事情を聞くに、『緑の君』の簪について悩んでいるとのことだった。
「それなら幼馴染みが『緑の君』の飾番で・・・」
「どうして「青の君」が落としたような気がしたのか・・・」
相談を受けるのも仕事の内であるトクンは思わず唸ってしまう。
「隣に座っても?」
「ええ、あ、はい。どうぞ・・・」
隣に腰掛け、彼女の香りを知ってしまう。
自分が恋をしていることを確信して、トクンは思わず目をそらした。
「「青の君」の側仕えが親戚の叔母で、それで困っています」
「なぜ?何か心あたりはないか・・・待てよ、ううん・・・」
「もし『緑の君』の物を「青の君」が『盗んだ』としたら・・・それをオバには相談できません」
なるほどなぁと言って、少しすっきりしたと言うキリをトクンは部屋前まで送った。