弐話 飾番のイサ
『畏咲:イサ』が王宮に仕え始めたのは十四歳頃だった。
童顔の美形で、低身長・・・
今は二十五歳だが、まだ幼さを残す面立ち。
役割は王の側女の「装飾官」の中の『飾番:かざりばん』。
髪飾りや耳飾り等を保管する部屋の番人的存在で、「緑の君」の部屋担当。
入りたての頃は側女様の装飾品を把握するに、
この飾りは自分に似合わないかしらと内心夢を馳せて鏡を欲したこともある。
部屋には棚があって、そこに丁寧に装飾品が並んでいる。
その保管と、部屋の掃除、その部屋の番が仕事。
修理などは「装飾官」の内の仕事だが、「飾番」の役割ではない。
そんな「緑の君の飾番」を訪ねて来たのは、『希李:キリ』と言う美女。
気を使って手拭いに畳んである簪を示した。
「これは確かに緑の君の装飾品でありますが、拾ったのは廊下?」
「はい。廊下で拾いました」
唸るようなため息を吐き、イサは考え事をする時の癖である腕組みをする。
「緑の君はしばらく自室でお休みの筈・・・なぜ廊下に・・・キリ、貴方、心あたりは?」
キリはしばらく沈黙して、かぶりを振った。
「そうですか・・・修理に出したものかも知れません。わたくしは飾番として上司に報告させていただきます」
「はい、お疲れ様であります」
「善い一日を」
「善い道を」
丁寧な挨拶ができるその美女キリと、簪について報告を終え日誌をしたためているイサ。
そこに武官であり幼馴染みでもある『都薫:トクン』がやって来る。
土産に月桃の葉に包んだイサの好きな「丸」と食紅で書かれた丸餡饅を持参して来た。
素直に喜びの顔を見せ、側にある椅子に座ることを許可するイサ。
武官専用の帽子を脱いだトクンは、休憩時間なのだと言う。
「それで、どうしたの?」
「本当は昼休みに訪ねるはずだった。昼頃にお前の側に参られた美女に呆けて、少しばかり動けなくなった・・・女人の名を聞いたか?」
「・・・キリ・・・?」