8 あれ? 俺の信頼度、ひくすぎぃ?
俺は唖然とした。
「……は?」
だが、エイリッヒは鼻を鳴らすと、
「このような場所に呼ぶ理由が他にあるものか。だが忘れるな、我は武人。簡単にやれると思うな。武器は持たずともこの身体一つでこの塔くらいは破壊して見せよう。そうすれば人々も集まる。大勢の面前で我が宰相殿に殺されれば、宰相殿の非道さを皆が知るところとなろう。そのためならばこの命、失っても構わぬ」
そう言って拳を握り、構えた。
その瞬間、ただの魔術の実験用の部屋が突然緊迫感に満ち満ちた戦場に変化した。
すごい。俺はあっけにとられながらそう思った。歴戦の武人とはこういうものなのか。マンガで読んだ三国志の張飛とかそういう感じだ。福島正則辺りも似た感じなのかも知れない。自然に構えただけなのだが、その構えには安定感と迫力があふれ出すほど詰まっている。
普段エイリッヒは巨大な戦鎚を武器としていたはずだが、それを作らずあえて素手のままなのは丸腰で討たれた非道さの演出のためだろう。
つまりエイリッヒはここで討ち死にする覚悟なのだ。
素手とはいってもアダマンタイトで覆われた巨大な西瓜ほどもあるエイリッヒの握りこぶしは岩の固まりと変わらないから充分凶器ではある。それが俺を狙っている。
ジーメオンであっても直撃を喰らえば大ダメージは免れ得ない。
どうするべきか。
俺が対応に迷っていると、エイリッヒの気迫をたじろがせるような凄まじい殺気の籠もった声がエイリッヒの背後から聞こえてきた。
「ジーメオン様に無礼を働いたな……」
底冷えのするような低い声の主はザビーネだった。
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