60 勇者達の事情Ⅰ
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後で聞いた話である。
英雄機関の勇者カマエルことアルハヴァが最初に気づいた。
群れから外れた魔族を狩っているところだった。十人程度で移動していたのだがどうやら高位の者を含んでいたらしく、なんとかその一人を逃がそうと必死になっている魔族達を面白半分にいたぶりながら殺しているところだった。
天が軋んだようだった。ぞわりとした恐怖がアルハヴァの背筋を滑り落ちた。
反射的にアルハヴァは視線を空に向け迷うことなく勇者に任じられた際に拝領して以来肌身離さず持っている聖剣を起動した。
カマエルの聖剣は大剣の形をしている。ガードがない攻撃的な形状のその大剣が霊気の輝きを帯びた。
そこで初めてアルハヴァはそれを視認した。
恐ろしいほどの大規模かつ緻密な魔術だった。
見た瞬間、アルハヴァは衝撃のあまり動きを止めた。
魔力圏が百万単位を超えているだろうというのは直感でわかった。三エガス(km)四方を焼き尽くすに足る密度の高熱が圧縮され、赤を超えて白く輝きながら自分たちに迫ってくる。本来軍を対象にする戦術規模の魔術が小隊にすぎない自分たちに襲いかかってきたのだ。
信じられなかった。魔族が使用する魔術についてのレクチャーは受けていたが、そこで学んだものの百倍は規模が大きかった。
アルハヴァは驚愕しながらも冷静な動きで霊気を帯びた聖剣を振るった。アルハヴァが勇者に任じられて五年。その間ひたすら続けた訓練のお陰だった。聖剣の一振りで、想像を絶する恐るべき高熱の塊はあっさりと弾き飛ばされた。
そのまま百テブス(m)ほど右手で地上に激突し、そこで解放された熱が地表を一瞬で溶かして沸騰する液体に変えた。
魔族の一人が腰を抜かしてへたり込んだ。
アルハヴァの肌も熱に炙られ粟立った。
アルハヴァはピリピリとした肌の痛みと同時に死ななかったことに安堵し、さらに恐怖したことに激しい苛立ちを覚えた。勇者である自分が下等である魔族の攻撃如きに怯えたことなどあってはならなかった。
アルハヴァは憎々しげに唇を歪め、
「ファン!」
「うへぇ」
アルハヴァが呼んだと同時に、黄昏の王国に侵入していたが失敗して戻ってきた勇者--ラファエルのファンが不満げに聖剣を抜き、上空に向けた。
「必殺! 空飛ぶ突き!!」
霊気が爆発的に高まって、その霊気が細い線となって宙に伸びた。
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