57 空を飛ぶ。
不思議な感覚だったが自然とできた。ジーメオンも数年に一回は『殻』を使っていたからやり方は身体が覚えていた。
俺はジーメオンの身体を残して『殻』を着たまま小部屋からもといた部屋に戻り、そして窓から夜空に飛び立った。
羽を羽ばたくとあっという間に風に乗ることができて俺は感動した。空を飛ぶのは超気持ちよかった。夜明け前の夜空は暑すぎず寒すぎず、まさしく空を飛んでるような気分であるわけで、気持ちいいのも当然だった。
夜で鳥目でもあるにもかかわらずベルフェゴールの機能なのか七つ目があればそういうものなのかさまざまなものが実にくっきりはっきりと見えた。夜なのに城内には働いている人がけっこういた。城の廊下を掃除している一角族の女性魔族は朝見たときも同じように働いていた。二交代制ならば問題ないが一人が二十時間ほど連続で労働をしているのだとすると、ブラック企業もビックリだった。そしてジーメオンの常識を鑑みるに間違いなく二十時間連続労働だと思われた。まぁ、魔族に人権なんて無いからしょうがないかも知れなかった。だが魔族に人権がなければ今魔族である俺にも人権がないということで人権が欲しい俺としては改善の必要があった。
城の周辺も見えた。
走るエイリッヒの姿も見えた。鋼族に与えられた宿舎に急いでいるように見えた。勇者の侵入という今のこの異常事態を認識している俺以外のたった一人の男だ。おそらく部族をまとめ上げてこの状況に対応しようとしているのだろう。エイリッヒは責任感の強い男なのだ。
一方、王都の城からほど近い場所に武装した一角族の戦士達が集まっているのも見えた。人数は三百人程度だろうか。一角族の有力者であるアルバン公爵邸の庭で、武装したまま何かを待っていた。この時間に起きて集まっていてしかも暴れるわけではなく静かにしているということは、黒の親衛隊から報告を受けていた『若い一角族の暴走』が今まさに起こっているようだった。俺は頭を抱えたくなったが手がなかった。一難去ってまた一難、というよりは並行して複数の『難』が起こっていた。諜報機関によると彼らはどうやら俺を殺して魔王の復権を目指しているらしい。俺のお陰で弱小種族であった一角族が八大魔族の一角を占めるまでに成長したなどという事実は、若者の暴走には関係ないのだった。俺を排除したところで、彼らの立場は変わらないのだが……人数は三百人程度だろうか。想像していたよりも多かった。内乱に近かった。勇者のことがはっきりしたらすぐに対応する必要があった。
胃がキリキリする状況を俺は文字通り鳥瞰したが、皆俺を鳥だと思っているので誰も俺を気にしなかったので俺はそのまま城の上空を三回旋回し、それから城を離れて現場に向かった。
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