56 空を飛べるかも。
勇者は物乞いに扮して隠密行を行っていたようだから、住人達に見つかった際、危害を加えるよりも逃げることを優先すると思われる。だが心配だった。核弾頭を街中に放置してしまったような気分だった。それに俺は宰相であるわけで、魔族の生活に責任がある立場なのだ。放っておくのはさすがに胃に悪いので確認が必要だった。
そこまで俺がやらなくてもいいのかもしれないが、勇者というのは的として小さすぎるため軍では対抗しづらい『兵器』であるし、そもそも俺は信頼できる軍を持っていなかった。軍を軽視し自らを恃むのみだったジーメオンの弊害だった。
生き残るためにまず信頼できる軍を手に入れよう、そう考えながら俺は『殻』と呼ばれる化身を眺め、その中から飛翔タイプを選んだ。ベルフェゴールと呼ばれている『殻』だった。見た目は最大級の鷲をさらに一回り大きくしたようなサイズで、二枚の羽の下に小さな羽がさらに二枚付いており、計四枚の羽と、そして一本の足、全身は赤い七つの目以外すべて漆黒、という怪物だった。
廊下のようになっている小部屋の奥から三番目に剥製のようにうずくまっていたベルフェゴールの前に俺が立ち、手をベルフェゴールの上に翳し目をつぶった瞬間、ベルフェゴールが起動した。
ベルフェゴールは身体を起こし、羽を広げゆっくりと上下に動かした。
ベルフェゴールが動き出すと同時に、ジーメオンの肉体が時間が止まったように停止した。右手がベルフェゴールの頭に伸びたまま固まっているので、ジーメオンの血の気のない肌の色や灰色づくめの格好と合わさってどこか彫像のように見えた。
それを俺はベルフェゴールの目で見ていた。
俺の意識はベルフェゴールの中にあった。
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