54 さよなら。
勇者は霊気を利用した運動能力の向上を行ったのだ。
勇者はわずか地の一蹴りで俺を追い抜き、さらに一蹴りで、サッカーボール並みの速度で蹴飛ばされた俺の左腕に追いつき、それに聖剣を振り下ろし、霊気を注ぎ込んで粉々に砕いた。俺の左腕は粉砕されたあと蒸発したように消えて無くなった。
勇者が勝利の笑みを浮かべて俺を振り返った。
俺は残った右手を勇者に向けていた。正確には勇者の頭上に。
たぶんその行動の意味が分からずいぶかしげな顔をした勇者の姿が、突然消えた。
理由は分かっていた。勇者は落ちたのである。落とし穴に。
勇者が立っていたその場所は俺が勇者のために仕掛けた罠--馬鹿みたいに深い落とし穴が魔術によって掘られていたのだ。最初は戦いながら勇者をその場所に誘い込むことを狙っていたが、実力の差が大きすぎて無理だったので、とっさに左腕を囮に使って誘い込んだのである。
勇者が落とし穴の上に張られていた薄氷に似た層を踏み破る瞬間を待っていた俺は、即座に先ほど勇者が立っていた場所の真上に再度魔術領域を確保する。
そして、土の精霊に土の精製を命じた。
空間に膨大な量の土が突然発生した。
その土は雪崩を打って、勇者がたった今落ちたばかりの穴に流れ込む。
たまに水も精製し穴に流し込んでやる。湿った土ほど厄介なものはないからだ。
ダンプ三十台分以上の土砂と水の混合物を落とし穴に流し込んだあと、俺はポンポンと服に付いた土ほこりを払った。
「さて、帰りましょうか。さっさと逃げ出さないと勇者が穴から出てきちゃいますよ。なんというか乱暴者でしたがさすがに狙う相手がいないって事になれば諦めて帰るでしょう。野次馬も現れたようですし」
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