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53 勇者は動く。
エイリッヒと戦っていた勇者もそのことに気づいた。
勇者も身を翻して俺の左腕に駆け寄る。背中を堂々とエイリッヒに向ける姿はいくら霊気の恩恵があるとは言えすがすがしいほどだ。
だが、先に動き出した分、俺に利があった。
さすがに拾い上げる余裕はなかった。俺は勇者の伸ばした手の先にあるジーメオンの左腕を伸ばした右足で蹴飛ばして、勇者と左腕の距離を少しでも開けようとした。
左腕を蹴飛ばしたなんとも微妙な感触が俺の右足のつま先に届く。
トゥーキック。
主を失った左腕は主に蹴飛ばされてくるくる回転しながらあらぬ方に飛んでいく。
「馬鹿だな。そんな大切な腕だったら切り落とされた段階で負けなんだよ」
勇者が一気に加速した。
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