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48 勇者の力。
その光は俺とエイリッヒの頭上を通り抜け、通りを一瞬で駆け抜け、そして通りの終着点に立つひどく立派な石造りの鐘楼を、わずかな抵抗もなく上下に分断した。
ゆっくりと塔が切れ目に沿ってずれていく。
危ないところだった。
エイリッヒが背後を振り帰って愕然とした声を上げた。
「ば、馬鹿なこのようなことが……」
頭上に時報用の鐘が吊された石造りの鐘楼はヤザット縄張りの際に、東西南北に配置されたものの一つ。南の鐘と呼ばれるこれは、床面積は十五メートル四方、高さは三十五メートルという立派なもので、ヤザットを訪れる魔族のお上りさんの観光名所にもなっていた。それがゆっくりとずれ落ちて行く様は、どこか非現実的でもあった。
俺はチラリとそちらを見て、すぐに勇者に視線を戻した。
「……私もそう言いたいですね。ちょっと設定盛りすぎだろってね」
圧倒的回復力と防御力だけでなく、聖剣には飛び道具まで備わっているのである。
チートである。
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