44 勇者の力。
文字通り、魔術では勇者を傷つけられない。
魔族が使う魔術は精霊によるこの世界への干渉である。そして重要なこととして精霊は移動せずずっと同じ場所に存在し続け、精霊が発現した奇跡は別の精霊には自動で引き継がれないという事実がある。この世界には一エルメごとに八種類の精霊が重なって存在しており、魔術はその精霊のうちの一匹の影響力を強め、その物理干渉能力を使うわけだが、たとえば先ほどエイリッヒの戦鎚の頭部を発射した魔術の場合、魔術を発動した瞬間にまず戦鎚の頭部の位置にいる風の精霊が戦鎚の頭部をある方向に向けて飛翔させ、次の位置にいる風の精霊がもう一度飛翔させ、その次の位置にいる風の精霊がもう一度飛翔させ…………ということを繰り返しているのである。連続で魔術が発動したことで戦鎚の頭部が加速されることはなく、それぞれ対象を命じられた速度で支配する空間を移動させ、その空間から外れた瞬間速度はゼロになるのだ。火の精霊が創り出した熱もまた同様である。
物理法則的には移動エネルギーはどこに消えた等思うことはあるが、そもそも魔術自体が物理法則を無視しているのでそこを気にしても仕方がない。
そして、霊気は精霊の干渉を受けない。
霊気に満たされた聖剣はもちろんのこと、霊気を聖剣から受け取った勇者もまた精霊の干渉を排すのである。
先ほど勇者が戦鎚の頭部を避けたのは、勇者が俺たちを見くびって霊気を全身に巡らせていなかったからだ。
今はその輝きが見えるほどの霊気が勇者の身体を覆っている。
こうなった勇者を斃す方法はたった一つ、物理武器で霊気が持つ再生力以上のダメージを勇者の肉体に与えることのみである。
もちろん、こちらの武器は聖剣と刃を交わせてはならないというハンディ付き。交わらせるとこちらの刃だけ切断されてしまうためだ。
あげくに霊気の再生力は優秀で刺したり斬ったりでは到底間に合わない。
機関銃が欲しかった。機関銃があれば霊気でガードされていようが、どんどん削っていって最終的に粉みじんにできるだろう。
この戦いに生き残ったら機関銃を作ろう。
でもとりあえず今回の戦いは身一つで何とかしなければならないのだった。
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