40 私は誰ここはどこ。
俺は手をぶんぶん振った。
「違う違う。ひどい誤解です。人違いですよ。私は宰相というあだ名の土木会社の経営者でそこのゴーレムはうちの会社の現場監督でして、今日は工事の受注の打ち上げに秘書--背中に背負っているこの子なんですけどね、と一緒に食事会を終えたところなんです。危ない危ない。人違いで殺されるところでした。まぁ、人違いと分かったから行っていいですよね? さっきからうちの秘書の反応がなくてちょっと心配なんです」
エイリッヒは状況についてこれないのか「う」とか「む」とか言うだけだ。演技は期待してないから余計なことを言わないだけありがたい。
俺の嘘に勇者はなるほど、と頷いた。
俺の作り話を信じたようだった。
良かった。賭に勝った。思った通りこの勇者はおつむが弱いらしい。
勇者は困った顔で、
「人違いかぁ。だったら悪いことしたなぁ」
俺は作り笑顔で、
「いやいや、気にせず。幸いまだ怪我もないですし」
「違うんだ」
「……違う?」
「僕が勇者とか鋼族の族長を殺さなくちゃ、とか余計なことを教えちゃったからさ」
勇者は照れたように頭をかきながら言った。
「おかげで半殺しじゃなくて殺さなくちゃいけなくなっちゃったから、申し訳ないな、って」
次の瞬間、勇者の身体から霊気の白い飛沫があふれ出しさらに聖剣がコマ落としのようなおかしな速度で俺に突き入れられた。
読んでいただいてありがとうございます。気に入っていただけたならポイントやブックマークをぜひお願いします。




