38 勇者とは。
『みかこん』には勇者はミカエルしか出てこない。勇者が複数いることは語られるが、少なくともミカエルは自分以外の聖剣の保持者に物語上は会っておらず、ミカエルの視点で語られるストーリーには出てこない。
目の前の『勇者』はミカエルとは思えなかったので、残りの六人のうちの誰かなのだろう。
そこで、あれ? と思った。考えてみれば『みかこん』の中でミカエルはヤザットに住む魔王と出会っているわけで、つまりヤザットに来ていたわけである。もしかしたら勇者というのは魔族の生息圏への出入りが比較的自由なのかも知れなかった。能力もずいぶん人間離れしてむしろ魔物じみているし、あり得ない話ではない。俺としたことがジーメオンの常識に引きずられてしまったようだ。
いかんいかん。気をつけよう。俺の『みかこん』の知識はここでは武器になるはずなのだからもっと冷静かつ慎重に行こう。
そしてその役立つはずの武器によると、俺は大ピンチなのだった。
勇者というのは強い。聖剣の恩寵によって、勇者は霊気という特別な力を使うことができるようになる。その霊気は勇者に圧倒的な筋力と不死に近い再生力とそして怪物じみた攻撃力と飛翔する能力を与えるのだ。その一撃は小さな要塞並みの大きさの竜でさえ殺すのである。
まともにやって勝てる相手ではなかった。人間は一対一では魔族に比べて圧倒的にひ弱だが、その魔族と人間の差より大きな差が魔族と勇者の間にはあるのだった。
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