31 どっちがお好き?
短剣はエイリッヒが避ければ後ろを歩いていた俺に当たっていたかも知れないが、俺もまたザビーネを抱えたまま横っ飛びに跳ねて射線から外れており、さらに左手の甲を前に突き出していた。左手は攻撃用である。左手には風精霊による魔力が込められた指輪が三つ着けられており、雷撃、衝撃、飛翔の三つの魔法が無詠唱で発動可能だった。
エイリッヒの視線の先、俺が左手の甲が向けられた先にはぼろを纏った物乞いの姿があった。短剣を投擲し終わった体勢であるから、時間としてはほぼ同時と言っていい。
その物乞いは、道ばたでうずくまっていて先ほど前を通り過ぎた相手だった。先ほど魔力を飛ばしたときに確認したときとは明らかに異なりきちんと二本の足で立っており、さらに放つ気配まで別人のように変わっていた。
強力な戦闘力を持つジーメオンでさえ躊躇するような迫力だった。
一体何者、という疑問を俺が発する前に、エイリッヒが口を開いた。
「狙いは宰相殿か、それとも我か」
答えるわけがないと思いきや、思いがけず返答があった。物乞いを装っていた相手は、ぼろのフードを外すと、若々しい顔を見せ
「ああ、うん。ゴーレムの方かな。僕もよくは知らないけどね。そう頼まれた。で、そっちは宰相さんなのかぁ。宰相ってえらいんだよね? じゃあ、そっちでもいいのかな?」
罪の意識のかけらも感じられない口調だった。
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