29 食文化侵攻。
俺の返事に、
「うむ」とエイリッヒはうなずき、
「仲介の労は我が執ろう」
と言った。
そこで政治の話は終わって、それから先は主にキッネの美味しい飲み方についての話ばかりだったと思う。
鋼族はさほど創意工夫がないのか、キッネは水で割ることさえなくそのまま飲んでいたようで、そのおかげでカクテルのレシピについてはほぼ俺の独壇場だった。俺は知りうる限りの蒸留酒の飲みやすい飲み方について語り尽くさせられ、実際にそれを作って三人で味見をし、エイリッヒはますます酩酊し最終的には歌を歌い出し、そしてザビーネはトイレから出てこなくなった。吐瀉物の中で眠りこけているザビーネを俺が介抱することになったが、幸いサラリーマン時代にその辺は慣れていた。魔法も使用してテキパキと処理する俺は、店員にまで感心された。
明け方、店が閉まる直前、残り一組になる前に俺たちは店を出た。
店側としては、俺たちのお行儀は最悪とまではいかなかったようで『死ぬまで飲む亭』のオーナーらしい半獣人がそれまで奥でずっと料理をしていたにもかかわらずわざわざ見送りに出てきて、「キッネにライルを絞る飲み方、うまかったよ。よければまた来てくれ。その際はお前の考えた酒の飲み方について我が店で独占的に買い取る準備があるぞ」と真剣に申し入れてきた。
俺が「そういうことなら美味しいつまみの作り方もお教えしますよ」
と答えると、オーナーは半信半疑な表情だったが、「期待している。本当に俺が気に入ったなら、お前は俺の店では永久無料でいい」
「それは楽しみです」
チーズを使ったレシピとかどうだろう、そもそもチーズがないからチーズを作るところからだなと考えながら歩き出した俺はふと立ち止まって辺りを見回す。視線を感じたのだ。
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