20 診察。
もともとそこは宰相であるジーメオンとの謁見を望む者の中で身分が高い者用の待合室だった。だから調度品もかなりいいものばかり使われている。広さも何に使う想定なのか学校の教室くらいあり、壁には良く分からない絵が飾られていた。
俺はまずパウラを長椅子に座らせて、自分もその前にしゃがんだ。
エイリッヒはパウラの後ろに立ったままだ。
俺はパウラの腹に手を当てた。
「はじめますね」
「お願いします」
魔力を同調させ、それをエコーのように放つ。
魔力とは精霊へ命令を発するゲートとしての役割がある。密度と量が存在し、密度によって複雑な命令が可能になり、量で規模が変化する。基本的に生物に影響を与えることはできないが、魔力自体は感じることが出来る。
胎児であっても一緒だ。
エイリッヒとパウラの子は俺の魔力に反応した。
魔力の波長を変えてやる。
エイリッヒとパウラの子は、目の前でガラガラ鳴るおもちゃを振られた赤子のように、明らかに興味を引かれた様子だった。まだ胎児であっても魔力を感じ、反応する。
俺はそれをしばらく続けた。
それから、
「……今日はこんなものでいいでしょう」
そう言って立ちあがる。
俺の言葉通り、パウラの周辺の光精霊はかなり落ち着いていた。
「どうだ?」
「はい。楽になりました……あなたの顔もはっきり見えます」
「そうか。我には何か良くわからなんだが」
「要は胎児に魔力の存在を気づかせたのです。魔力に気づけばそこに意識を向けます。意識を向けることで精霊にも一定の影響を与えることができるのです」
「そういうものか」
「はい。しかしこの年でここまで精霊に対する感受性が強いというのは将来楽しみですね」
「我とパウラの子だ。当然である!」
自慢げに胸を張ったエイリッヒはすぐにパウラにたしなめられていた。鋼族の族長はどうやら奥さんにはまったく頭が上がらないらしい。
この情報は何かに使えるかも知れないから覚えておこう。
「それで宰相殿」
「なんでしょうか?」
「我は宰相殿を見誤っていた。そこについては謝罪しよう。だが、宰相殿をまだ理解できぬ。改めて腹を割った話をしたい」
俺は目を見張った。そして頷いた。
「望むところですよ」
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