17 宰相としての忙しい日々。
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鋼族の族長をわけも分からず西の塔に呼び出した、というピンチをとりあえず切り抜けた俺だったが、翌日からジーメオンとしての日々がはじまり、まったく気が抜けないのであった。
とにかくジーメオンとしての日常は死ぬほど忙しかった。ひっきりなしに持ち込まれるあらゆる問題を豪腕で解決していく。そこに確かに情はなく、すべてをジーメオンにとってどちらが価値があるかで判断していく。ただジーメオンは自分の財産にまったく興味はないため、ジーメオンの最終目的である人類の根絶への歩みを進めるか否かで判断しているわけである意味公平だ。
そこに俺の個人的な目的である『結果として封印されないこと』という判断基準が加わったわけである。
人類の根絶は不倶戴天である魔族にとって相対的にメリットがあることで私欲とは言えないはずだし、俺が生き残るというのも総合的に見て魔族の重要人物で未だ統合の要であるのだから公的な意味があるはずだ。
ここが人類の国家ならば百年もすれば国民すべては入れ替わるわけで、憎悪は徐々に薄れていくだろうが、何しろ五百年生きるのも当たり前に存在するのが魔族である。そう簡単に敵同士だった種族がいきなり仲良くなったりはしないのである。
俺はジーメオンとして仕事をこなしながら、俺が生き残るために何をするべきか必死に考えた。
結論としては、とにかく魔族が人類に勝つこと、だった。魔族が人類に勝てば、当然俺は捕まらないわけで、つまりは封印されないのである。極めてシンプルだった。
だが、その方法には障害があった。
俺--ジーメオンは魔族を統一して作られた黄昏の王国の宰相であり、事実上の最高権力者なのは間違いなかった。だが黄昏の王国は建国してまだ日も浅く、火種を多く抱えており、ジーメオンの自在に動かせる組織ではなかった。
俺が信頼を置ける軍事力は、はっきり言って存在しなかった。宰相派の種族は叡智族と不死族と言われているが、その二種族も政治上の味方であるに過ぎず、別の理由があれば容易く俺を裏切るだろう。一角族は俺のお陰で八大魔族にまで成長したにもかかわらず、俺に対して不満げだし、王都を護る鬼族は政治的にも中立である。
ザビーネと黒の親衛隊だけは裏切ることは無いと思われたが、あわせても百人足らずであり、軍とは呼べなかった。
つまり俺がやるべき事は信頼できる味方を増やしながら、人類に勝利をするために策動する、ということで、まずはグラム城の奪取を成功させなければならなかった。
そんなわけで俺はがんばっているのである。
ジーメオンは暴君かも知れないが、有能な政治家であることは間違いなかった。
陳情を次々と処理し、途中、辺境の村を襲う盗賊団の存在等、すぐにどうとはできない先送り案件はあったものの何とか一日目の謁見時間が終わった直後、閉まった扉の向こうで警備の兵士達の制止の声が響いた。
俺が後ろを振り返るまでも無く、俺の背後に影のように控えていたザビーネが進み出て執務室の外に出て、すぐに戻ってきた。
「どうしました?」
「それが……あの……エイリッヒ様なのです。どうしてもジーメオン様にお会いしたいと……」
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