16 巨乳メイドは悪役宰相が好き。
ジーメオンが何を考えていたかはわからないが、仕事の合間を縫ってジーメオンの人を人と思わぬ冷酷かつ厳しい教育が施された。
ザビーネはジーメオンの拷問にも思える教育に耐え、みるみる力を付けていった。教育を受けながら、ジーメオンの覇業と非道を助け、文武に渡って惜しみなく協力し続けた。同時に一角族は強大になっていき、ジーメオンの立場が上がるにつれ、ザビーネの肩書きも変わっていった。
現在のザビーネは、魔王国宰相筆頭秘書という立場にある。
そして恋はまだ続いている。
恋の対象は常に厳しく冷酷にザビーネに対してきた。それは人間というよりは使いでのいい道具に対する扱いだった。それでもむしろザビーネはそのことに悦びを感じていた。ジーメオンは冷酷で残虐で有能で偉大であり続けた。ジーメオンの理想こそザビーネの理想であるべきだった。そのためであれば死でさえまるで問題なかった。
むしろジーメオンの目的のために死ぬことがザビーネにとっての理想とさえ言えた。
それが突然変わった。
何が起こったのかわからないが、突然ジーメオンが優しくなったのである。
困惑しながらも、口元がゆるむのが止められないのである。厳しくされるのは喜びであったが、優しくされるのは歓喜なのである。
ジーメオンが掌握している親衛隊の報告を受けながら、もにゅもにゅしてしまうのである。
浮ついた気分で聞く親衛隊の報告には基本的に大きな問題はなかったが、
「鋼族と鬼族の一部で不自然な動きがあるようです。隊長クラスの行き来が増えています。二種族の間で婚姻があり、祝い事があったのは事実ですが、それにしてはやけに上役が格下の隊長の下に一人で訪ねる形が混じっているようです」
「……気になる動きですね。閣下に伝えておきましょう。他には?」
「すでにお伝えしておりますが、一角族の一部による反乱計画が最終段階に入っております。武器も集め終え、時宜を待つばかりとのこと……いかが致しましょう?」
ぎりりと歯がこすれた。
「閣下の助けを受けてかろうじて種族を保っていられる程度のゴミが、恩を忘れて恥知らずにも閣下に逆らおうなどと……」
「消しますか?」
ザビーネはしばし考え、
「いえ」
と首を振った。
「一角族については、閣下が対処済みであったはずです。閣下の手を煩わせるのは業腹ですが、彼らを自ら処断することもまた閣下の計画の可能性があります。閣下の指示を待ちましょう」
「了解いたしました。報告は以上です」
「ありがとうございます」
ザビーネの前に跪いていた黒尽くめの親衛隊がザビーネを見上げたままわずかに眼を細めた。
ザビーネは首をかしげた。
「まだ何かありますか?」
「いえ……何もないのですが、どうかされましたか?」
「どうか、とは?」
「秘書官の様子が普段と違いますので……その、なんというか、浮ついているというか--」
「そ、そうですか?」
幸せが迸ってしまっていたらしい。思わずまた口がもにゅもにゅしてしまったのを、力を込めて唇を閉じた。
「失礼しました。個人的に少しよいことがありまして」
「そうであるなら問題ありません。こちらこそ失礼しました」
「ありがとうございます」
一礼すると親衛隊は去り、ザビーネも愛する主人--ジーメオンのもとに報告のために戻った。
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