15 巨乳メイドは頬がゆるむのが止まらない。
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あとで聞いた話である。
ザビーネは混乱していた。
自分の主君が突然ひどく優しくなったのだ。
ザビーネは叡智族の第二世代だった。
精霊王が産んだ原種から最初に生まれたのが第一世代。その次の世代が第二世代であるから、原種にとっては孫に当たる。百七歳という年齢は三千年の歴史を持つ叡智族の中では若い方で、周囲にはすでに三十世代を超えており、本来ならばザビーネは『原種に近い存在』として崇められる対象となっていたはずだった。実際、叡智族においては第一世代はすでに一名にまで減少し、第二世代も十名以下だった。長大な寿命を持つ彼らであるが、魔族の覇権を巡る戦いの中、消耗し続けた結果だった。
ザビーネの出生は特殊であった。
ザビーネの父親は、牛鬼族だった。そして母親は第一世代の叡智族。第一世代がよその種族と交配することは極めて珍しく、実際それは本人の意図では無かった。争いの中で第一世代のザビーネの母親が鬼族の亜種族である牛鬼族に連れ去られ、そして奪還されたときには妊娠していた、という愛情も祝福もまったく存在しない経緯だった。
第一世代を汚された叡智族の怒りは凄まじく、それから続く叡智族の無慈悲かつ執拗な攻撃にあって牛鬼族は完全に全滅した。無理な攻撃のせいで叡智族もまた、半分以上の戦力を失った。
一方で叡智族はザビーネの誕生自体は言祝いだ。久しく生まれなかった第二世代が誕生したことを何よりも尊いものと規定したのだった。
そのため、ザビーネは呪いと祝福のなかで誕生した。
そんなザビーネが自らのすべてを捧げる対象を見つけたとき、叡智族は困惑した。その対象が、一角族の客人として最近あちこちに出現する『不死族』と思われる男だったことで困惑は極みに達した。
男--ジーメオンは謎めいた魔族だった。どこからともなく現れ、その圧倒的な魔力と驚くほどの策謀力で寄留している一角族を強種族に変えていった。
出会いは叡智族の村でのことで、ザビーネは叡智族に対する外交に来たジーメオンに一目惚れをした。なぜそんなことになったのか誰もわからなかった。ザビーネ自身にもわからなかった。ジーメオンは見た目は最悪で、性格は悪魔的で、やることは残虐で、知恵は悪知恵に偏り、そしてなにより、素性の知れない魔族であったからだ。
それでも恋をした。叡智族の第二世代は激しい恋をした。そして叡智族のあらゆる説得を振り払い、恋をした相手、ジーメオンに頼み込みすがりつき最終的には奴隷契約にも等しい契約を望んで交わしジーメオンの召使いのような形で仕事を得た。
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