14 俺は猫を被る。
俺は優しい口調でエイリッヒに告げた。
「すぐにパウラ殿のもとに戻り確認してみてください。そうすればすべてが明らかになるでしょう」
「いや……しかし……そ、そうだ。そもそも宰相殿はいったい何用でこのようなところに我を呼び出したのだ?」
「実はとある理由で奥様のことを知ったのですが、エイリッヒさんも奥様の体調不良を隠していらっしゃるようですし、こっそりと伝えなくてはと思いましてね。ここならば人に聞かれることもないでしょう、と」
「そ、そうか……なるほど。心遣い、感謝する」
「もちろんエイリッヒさんの心配事が解決したら色々お願いしたいこともあります。何しろ我が国は戦争の準備中ですからね」
エイリッヒは瞬間固まり、それから
「……むろんだ。我は黄昏の王国に忠節を捧げる者。この国のためならばいかなる艱難辛苦も受け入れよう」
エイリッヒはもとの武人の顔に戻ってそう言った。
俺は精一杯の笑顔を浮かべて、
「ともあれ、すべては奥様と話をしてからでしょう。お祝いを表立って言える時をお待ちしてますよ」
俺の言葉をきっかけにエイリッヒは挨拶もそこそこに西の塔から立ち去った。
奥さんに確認するべく城下に与えられた自分の屋敷に急いでいるのだろう。
とりあえずいったん問題を先送りしたことに成功した俺は周囲を見回した。改めて散らかり放題散らかっている部屋のことが気になってくる。どうせ朝まで考えることで一杯だ。片付けながら考えようか、などと思っていると、
「ジーメオン様にまた命をいただきました……」
と潤んだ目でこちらを見ているザビーネと目が合った。なぜか上気していて頬がほんのりと赤かった。発情しているように見えた。
発情しているザビーネはいつもの冷徹な姿とはまるで違っていたがそれはそれでとてつもなくかわいかった。
なんだかこっちまで鼓動が早まってきたので、俺は慌てて目をそらしながら、
「こ、ここは散らかりすぎているようです。手伝ってくれませんか?」
と言ってそれから自分で率先して片付けを始めた。
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