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知らぬ大罪

 舞踏会はキャメロット城で定期的に開かれる行事だ。当然ただ踊るだけに非ず。その本質は社交界において重要な立ち位置を持つ。顔見せとしての役割は勿論、その立ち振る舞いで貴族としての本質が問われるもの。踊り一つにしても、優雅に華麗に努めてこそ上流階級としての泊が付くのだ。

 故にモルガンはこの場が苦手だった。子供の頃は純粋な遊び場として、美味しいものが食べられる場所としか思っていなかったが、年を重ねる度に、政治的意味合いが強くなり、女としての自分の存在意義を嫌でも自覚させる。


 「遅いぞモルガン。皆、君の登場を待ち望んでいた。皆さんにご紹介します。こちらが私の婚約者であるモルガン嬢です。いやはや世間知らずで籠りがちの至らぬ女ですが、皆様のお力添えを頂きたく……。」


 ランスロットを囲んでいた諸侯貴族たちが値踏みするかのようにモルガンを見つめ、思い思いの言葉を並べる。中身のない言葉、上辺だけのお世辞なのは明白であった。彼らは一度もモルガンとは目を合わさない。軽く一瞥しただけで、ランスロットと話しながら「美しい女性」「気立てが良さそう」「大人しい方が妻としては扱いやすい」などと話す。

 ランスロットは騎士団にて強いカリスマと実力を兼ね持つ。加えて一国の王位継承権を持つ大物。この舞踏会において、皆が彼に一目置いており、あわよくば彼に近づこうとしているのだ。


 そんな彼と婚約を結べたのは、モルガンにとって幸運であることは間違いない。上流階級の中でも更に上位の立ち位置を約束された令嬢。だというのに社交界の場に中々出て来ないミステリアスな存在として噂されていた。

 もっともそれは全てランスロット卿の存在あってのこと。決して彼女自身の魅力ではない。


 「折角の舞踏会だ。来いモルガン。一緒に踊ろうじゃないか。」


 手を取り踊りに参加する。ランスロットが踊りに参加した瞬間、周囲の注目を浴びる。噂の婚約者のお手並み拝見といったところだった。

 踊りというのは基本的にパートナーがエスコートすればもう片方が素人であっても形になるものだった。ランスロットは不慣れなモルガンをまるで自然な形に踊りになるようエスコートする。その姿は誰がどう見ても一流の舞踏。周囲の人達は息を呑み、声を失うものもいた。


 踊りが終わり拍手喝采。ランスロットは軽く頭を下げる。遅れてモルガンも頭を下げた。


 「今日は私のエスコートで何とかなったが、それは来賓に目の肥えたものがいなかったに過ぎない。次までにもう少し踊りの練習をしろ。モルガン、私に恥をかかせるなよ?」


 来賓に聞こえないようランスロットは小声でモルガンを叱責する。「はい……。」と静かに答えた。

 事実、踊りについてはまったくの素人だというのに、人形使いのように自然に形にするランスロットの実力は大したものに違いない。だが……それは本で読んだ踊りの楽しみ方とはまるで違うものだと感じた。


 舞踏会も終わりの時間が近づき、ようやく解放される。そう思った矢先のことだった。扉が乱暴に開かれ慌てた様子で誰かが入ってきた。


 「た、大変です!謀叛が……モードレッド卿が乱心されました!!」


 突然の話に、来賓たちはざわめき出す。ランスロットはそんな彼らを落ち着かせ伝令に来た騎士に近づいた。


 「モードレッドが?一刻も早く事態を抑えなくてはならない。話を続けなさい。」

 「いえ……鎮圧はガウェイン卿により無事終えました!今は牢の中に連行している最中だそうです!私がここに来たのは……。」


 騎士はモルガンの方に目を向ける。ランスロットも同じく。冷たい眼差しだった。


 「モードレッドは君の実弟だったねモルガン。どういうことか説明してくれるかな?」

 「……え?」


 どういうことも何も……初耳だった。モードレッドが謀叛?まるで想像がつかないことだった。


 「なるほど、私が何度誘っても来なかった社交界の場に珍しく来たのはそういうことか。こうして私をこの場に留めさせることで弟の謀叛を支えると……だが残念だったな。今日はこの城にガウェイン卿もいたのは計算違いだったかな?」

 「え……いや……それは……。」


 言葉に詰まる。何か悪い方向に話がどんどん進んでいる気がするが、自分は何も知らない。知らないとしか言いようがないのに、誰一人自分の言葉を信用してくれなかった。


 「そういえばモードレッド様は普段からランスロット様に対して不満を零しているって……。」


 エレインが呟く。確かにそれは事実。いつかエレインと世間話をした時に私が話をしたことだ。


 「なんだそれは……ではランスロット卿の暗殺も考えていたのか……?」


 来賓の一人が呟く。その言葉をランスロットは聞き逃さなかった。


 「なるほどモルガン。君は私との婚約が気に入らないというのだな。良いだろう。こちらこそ反逆者との婚姻はお断りだ。この場をもって君との婚約は解消させてもらう。衛兵!!」


 警護にあたっていた衛兵を呼び出す。慌てた様子で駆け寄ってきた。


 「モルガンを……いやこの叛逆の魔女を牢に連れて行け。処遇はあとで決めよう。」


 両腕を捕まえられる。私は唖然とした表情で、頭の中が真っ白になって、ただただランスロットの冷たい目をずっとずっと見つめていた。

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