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41.住人(3)

 ともあれ、プレイヤーの発言にこれ以上の意見を並べても無駄だと悟ったのだろうか。烏羽は肩を竦めると、投げやり気味に呟いた。


「もう、好きにされたらよろしいかと。ええ、興が削がれたのは私の方やもしれませぬ」


 安堵の溜息を吐いたのは紫黒だ。彼女は烏羽からの制裁を受ける可能性があったので、文字通り綱渡り状態での提案だったからだろう。なかなかに思い切った事をする。

 まさかの公式からの神使情報ネタバレに背徳感と好奇心を抱きながらも、花実は紫黒に情報の続きを促した。


「それでそれで? この先に待ってる相手はどんな能力を持っているの?」

「薬師だと思われている神使の名前は濡羽。白花を洗脳下に置いている神使でもあるわ。よって、その能力は完全洗脳。ただし暗示系の術は須く『術者より上位の存在』には効かない」

「つまり?」

「都守である大兄様は、この能力による洗脳を受けないって事」

「そうなんだ。ラッキー!」

「更にこの能力で同時に洗脳出来る相手は1人まで。という事はつまり、濡羽が別の誰かに術を掛けようとした時は、白花の術を解かなければならないの」

「まあ、下位の神使全員にそれ出来たらぶっ壊れ性能過ぎるからね……」


 神使間での上下関係が分からない。分かりやすい都守などという役職を持っていれば、上位勢だと理解できるが、ならば紫黒と濡羽ならばどちらの序列が高いのだろうか。

 そのまま紫黒に訊ねると、彼女はやや難しそうな顔をした。


「基本的には色の濃い神使の位が高い事になるのかな。都守は別枠だから、除外した方がいいけれど……。うーん、濃さで言えば私より濡羽の方が濃い、のかな?」

「そういう曖昧な感じなのね」

「同色同士で戦闘する事なんて、あまりないから」


 それもそうだ。今が異常な事態であるだけで、基本的には平和な世界だったらしいし、同僚でどちらが強いかなどあまり頓着しなかったのだろう。


「あと、主様。こういう説明をするとよく勘違いされるのだけれど、今した話は特殊な能力の話。通常の術であり、避難誘導にも使われる暗示系の術に使用制限は――」


 続く言葉はしかし、不意に家の一つからゾロゾロと出て来た男達によって中断される。彼等はパッと見た様子では一般人だ。神使では無さそうである。

 が、そんな彼等は手に鎌や鉈、包丁などの凶器を持っていた。目も虚ろで、とても正気とは思えず、花実は息を呑む。急にホラーな路線は止めて貰いたいものだ。

 そして同時に、紫黒が言いかけていた言葉の意味も理解する。


「暗示に掛かりやすいただの人間なら、操り放題って事ね」

「ええ、そうよ。それじゃあ、主様、下がって。手に刃物を持っているし、殺気立っているわ」

「うーん、怖め……」


 紫黒に言われるがまま、男達から数歩距離を取った。一般男性と向き直る紫黒を余所に、薄群青からそれとなく腕を引かれてその場から離脱させられる。


「人間の数を減らし過ぎてしまうと、汚泥討伐後の復興が長引くわね……。何とか殺さないように調整しないと」


 独り言めいた紫黒の呟きに、やはり神使と言うのは人間と考え方が違うのだと思わされる。あくまで彼等彼女等はこの世界を恙無く運営する為に存在するのであって、人間一人一人を尊んでいる訳ではないようだった。

 だがこれはゲーム。問題は無い。現実世界でこんな発言をする官僚がいようものなら炎上するし、花実自身も不快感を覚えるだろうが、非現実であれば好意的にも受け止められるというものだ。

 むしろダークな思考が楽しめるのは創作物の特権。あり得ないような善人より、難解でリアルならば許されないような思考が好きだ。

 ――まさか、こういう嗜好を加味して隠しステータスである適応色は選ばれているのだろうか?


「主サン、危ないんで俺から離れないで欲しいッス」

「あ、うん」


 薄群青はすっかりプレイヤー専用の避難誘導仕事が板についてしまった。他にまともな神使がいないせいでもあるだろう。とはいえ、新たに紫黒が加わったので彼の心労も減ってくれる事を祈る。


 一方で烏羽は何をしているのかと言えば、後方で観戦を決め込んでいた。人間の相手くらい、紫黒一人でしろとでも言わんばかりのスタンスだ。


「薄群青。今、主様の結界は私が持ってるから、そっちで張り直して」

「了解ッス」


 結界権限がするっと薄群青に移る。こっちで指示をしなくとも勝手に戦ってくれるキャラクター達の動きには慣れてきたが、こういう応用もできるのか。驚きだ。

 考えていると、薄群青に呼ばれた。


「主サン、これはどう処理しますか? 烏羽サンなら問答無用で目の前の人間を薙ぎ倒すでしょうけど、紫黒サンは割とマトモなんで。一般人相手に強い攻撃は出来なさそうッスけど」

「ええ、うわ、これどうするかによって後々分岐がありそうだな……」

「……ま、主サンの判断に任せるッス」


 含みのある言い方だ。紫黒を観察していた花実は視線を外し、隣に立つ薄群青を見下ろす。目は合わなかった。


「もしかして、何か知ってるの?」

「……いいえ」


 シンプルに嘘だ。薄群青は口数が少ないし、何より当アカウントでは烏羽が延々と駄弁っているので、言葉を交す隙があまりない。

 だけど――最近、ふとした拍子に思うのだが。

 言わないだけで、薄群青は思っているよりもずっとゲームに関するメタ的な知識を蓄えているのではないだろうか。

 結局の所、嘘を見抜く特技は『相手がアクションを起こさなければ』何も情報を得られない。そもそも動かない、何もしない人物に嘘も何も無いからだ。

 黒色の神使ばかりが不穏だと思っていたが、なかなかどうして薄群青も曲者なのかもしれない。


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