32.新入り(3)
「――ところで、これからどうなさるのです? ええ、まさかとは思いますが井戸端会議の為に我々を集めた訳ではないのでしょう?」
心底飽きた、と言わんばかりの態度である烏羽に花実は肩を竦める。理由があってここに集まった訳ではなく、紫黒を物語に連れて行けるのかどうかだけが気掛かりだったのだ。
故にその疑問が解消されたその瞬間から、この場はただのお喋り会場である。それを伝えると怒られそうだが。
気を利かせてくれたのか、薄群青がそれとなく話題を変える。彼は本当にプレイヤーに優しいキャラクター性を持っているなと、つくづく感心させられた。
「神使が3体揃ったんで、ストーリーに戻るんスよね? その件で集まったんじゃないんですか」
「そ、そうそう。それを考えようと思ってたんだよ」
話を合わせたのが見え見えだったのか、烏羽に胡乱げな目を向けられる。が、気付かないふりをした。ここで狼狽えてしまえば、考え無しに広間にみんなを集めたと認めてしまうようなものだ。
それに、現地で今からどうすると作戦会議を立てるよりも、予め動きを決めて事にあたった方が確実性が増す。薄群青が入れてくれたフォローだったが、このままそれに乗っからせてもらおう。
「3人いるから都に行けるし、話に戻ったらまずは都マップに行きたいね。前回はあんまり見て回れなかったし」
「それはそうでしょうとも。ええ、1時間程度の散歩をと言っていたのに、急に気が変わられてしまってはねえ。はい」
「しつこ……。その話、何日も引っ張るじゃん、烏羽」
「都に下りるのも結構ですが、重複している紫黒はどうするのですか? ええ、現地にも紫黒がおります故、多大なる混乱を招くかと思われますが」
――それは……何かこっちからアクションを取った方が良いって遠回しに言われてるわけ?
烏羽は疑問形で言葉を放ったが為に、真偽以前の問題だ。行動を起こした方が良い、という言葉であれば、まだその真意を探る余地があったものを。
考えていると、渦中の人物である紫黒が申し訳無さそうに言葉を放った。
「私は先に処理した方が良いと思うよ。神使が重複すると、変な誤解を招きやすいものだわ。それに、名前を呼ばれる度にどちらを呼んでいるのかも分からないし」
「確かにそうだね。うーん、ストーリーに戻ったらまずは、現地紫黒と会ってみようかな。え? ワンチャン、こっちの紫黒だけがストーリー上に存在しているなんて事は……」
「無いと思うけれど、万が一そうなった時には主様にお伝えするから、心配しないで」
「分かるんだね、どっちが残っただとかは」
意識が黄都・黄檗の依拠に向いた事で思い出したが、白菫と白花の兄妹神使周りもまだ謎が残っていた気がする。記憶が正しければ、現地紫黒と白菫は何やら揉めていたようだし、それに白花が絡んでいるようでもあったが。
「紫黒って、何で白菫と喧嘩してるんだっけ?」
「それは――」
紫黒が回答しようとしたその瞬間だった。「お待ち下さい」、と烏羽が割り込んでくる。
「いけませんねぇ。ええ、いけません。ねたばれなど、召喚士殿の興も冷めてしまうというもの。現地に赴く事もせず解を得ようなどあまりにも面白味に欠けます。ええ」
「え、でも……」
烏羽の言葉に怯えつつも反論しようとした紫黒はしかし、再度の圧力で今度こそ黙り込んでしまった。
「おや、紫黒、お前には状況が分かっていないようだ。ええ、げぇむにろぐいんするか否かは召喚士殿の気分次第……。飽きてしまえばそれまでの事ですとも、ええ。故に我々は主人がげぇむを楽しむ事を邪魔してはならないのです。ふふふ……」
恐らくその言葉に紫黒は納得した訳ではないだろう。だが、それ以前に烏羽との争いに勝てない事を悟ったのか、口を閉ざしてしまった。
ネタバレはなくてもいいが、目の前で仲間の言論弾圧だとかは素直に止めて欲しい。息苦しくなってくるし。
「まあまあ。えーっと、都で流行ってる病っていうのは?」
聞いておいてふと思ったが、これを聞くのもネタバレだと言って烏羽が横から口を出してくるのだろうか。チラ、と彼の方を見やればニヤニヤしながら事の成り行きを見守っていた。
そうなってくると、紫黒は花実の問いに何らかの返事をしなければならず、更に胃の痛そうな表情を浮かべる。迂闊な事を訊いてしまい、申し訳無い気持ちで一杯だ。
「え、えーっと、病気の件は……私は関わっていないから、よく分からないのよ」
「そうなんだ。それは普通にストーリーをこなして調べようかな! うん!」
プレイヤーの答えに安心したのか、紫黒は分かりやすく安堵の表情に切り替わった。烏羽もニヤニヤするのみで、彼女の発言に対し難癖を付ける気配はない。
一瞬、会話が途切れたのを見計らってか、薄群青が総括の一言を口にした。
「それじゃ、ストーリーに戻ったら、まずは現地の紫黒サンを捜すって事でいいッスか?」
「そうしようかな。うん」
作戦会議は終了。ストーリーに戻るべく、花実はポケットから端末を取り出した。今度こそ都を探索できるといいな、という淡い期待を持ちつつ端末に表示されたバナーをタップ。門へと足を向けた。




