27.足止め(1)
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全く以て唐突な話になってしまうのだが、ストーリーを止めたまま3日が経過した。現在はログイン勢であり、ログインボーナスならぬ強化アイテムだけを貰う日々が続いている。
その理由と言うのが、都マップ攻略に神使2人では無理があるから、という訳だ。そこそこストーリーを進めたと言うのに、まだ神使が2体しかいないのは控え目に言って意味が分からない。
本来なら3人まで編成できるそうだし、何故わざわざ編成上限まで編成せずにストーリーへ繰り出しているのか。強制縛りプレイである。
――と、言う訳で。ガチャ待ちをしているのだ。
にしても、恐ろしいのがログインする度に烏羽が結構本気でお怒りという事実である。2日目くらいからはなるべく顔を合わせないようにしているのだが、ログインすると鬼の形相で走ってくる為、あまりにも恐すぎる。最早ホラー。
どうやら急なログアウトや、放置されるのがお嫌いらしい。刺さる人には刺さるであろうキャラ付けで何よりだが、キャラクター考案者は烏羽の見た目の厳つさを決して忘れないで欲しいものだ。あれに見下ろされるとシンプルに恐怖である。
一方で全く文句を言ってこないのは薄群青。何と言うか、彼はプレイヤー慣れしているようで数日程度のログインのみでも狼狽える様子は無い。淡々と職務に従事しているのみだ。
「うーん、進めるにしてもチャット仲間達も神使3人以上は必須って言ってたし……」
いつものチャットでも当然、黄都が攻略出来ない旨の相談はした。が、やはりどう足掻いてもフルメンバーで臨むべきステージのようで大人しくガチャ待ちをした方が良いと言われてしまったのだ。
しかもどうやらプレイヤーには見えない『コスト』なる概念があるという話も聞いてしまった。最初に烏羽を引いてしまった為、なかなかこのコストを消化できず、結果として進行が止まっている。
同じくコスト問題に直面したプレイヤー、白星も黄都でガチャ待ちを余儀なくされたと言っていたし、先人の言葉を聞いて大人しく待つのが吉だろう。うちのパーティでまともに戦闘を任せられるのは烏羽だけなので、どう考えたって彼に都を歩く為の結界を維持管理させるのは悪手だ。
ただ――もう3日は待っている。
日に日に烏羽その人の機嫌が悪くなっていくので、そろそろガチャを回したいものだ。花実はぐったりと溜息を吐いた。
「ああそうだ、ログインする前にメッセの確認しとこうかな……」
自身の手元にあるスマホに目を落とす。
同じくβ版のテストをしている親友の彼女なのだが、何故か2日前くらいから連絡が取れない。色々と話したい事があると言うのに、全然返事がなくて困っているのだ。基本的に返信が早い友人なだけに、ちょっとだけ心配である。
――今日も返事、ないなあ。ゲームで忙しいのかな……。
メッセージを見たというアイコンも付いていないので、そもそもスマートフォンが壊れたり、紛失したという可能性も捨てきれない。だがまあ、互いにもうすぐ大学生だ。小さい子供でもあるまいし、その内ひょっこり返事をしてくれるだろう。
そろそろゲームにログインしよう。一応はアルバイトなので、何日も足踏みしている訳にもいかない。解雇される前にガチャの機会が巡ってくる事を切に願う。
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何日も同じゲームをプレイしていると、段々とルーティンが出来上がるというか、ログインして最初に取る行動が決まってくるものである。
花実の場合は、ログインして自室に入るとまずゲーム内端末に手を伸ばす。これが無いとゲームは進められないし、重要なお知らせもこれを見ないと分からないので何も始まらないからだ。
そうして、運営からの重要なお知らせがないか確認をしている最中に、薄群青がやってくる。本日分の結晶を届ける為だ。
「主サン、今日の分ッスよ」
「はいはーい」
警戒もなく戸を開け、薄群青と対面する。今日も彼はログイン勢と化したプレイヤーに対して、何も言う事は無いらしい。もしかすると、レア枠である烏羽にだけ特別にそういったボイスが用意されているのかもしれない。
最近、貯めに貯めた結晶が烏羽を2回強化できるくらいになった。というのも、薄群青が稀に1日2個の結晶を提供してくれる事があるからだ。
それを受けて強化プランについて思いを馳せる。烏羽を一番に育成するのは勿論だが、如何せん彼の育成コストは重い。後半になるにつれて、更に重くなる。ここは烏羽1強化、薄群青1強化というのもありだ。
今まで散々、ポンコツプレイヤーである自分を支えてくれた薄群青を蔑ろにし続けるのも悪い気がする。それに、烏羽はもう既にかなり強化してある。自陣に2人しか神使がいない事を考えると未強化のまま薄群青を放っておくのも収まりが悪いだろう。
方針を決めた所で、強化対象を呼ばなければならない。結晶は手渡し方式だからだ。
「そろそろ結晶を使おうと思うんだけど、烏羽は――」
ダンッ、という足音と共に件の烏羽が顔を見せる。満面の笑みを浮かべているが、それは嬉しさから浮かんでいるものではないだろう。かなりご立腹の様子に、花実は頭を抱えた。機嫌取りが大変そうだ。




