25.都マップ(1)
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「都のマップが……ある!!」
烏羽の案内で都に出た花実は満面の笑みで声を上げた。そう、言った通り都のマップが存在しているのだ。まるで本物みたいに精巧な作りに感動すら覚える。これが基本無料のソーシャルゲームとして配信されるって、それこそ本当の話か? 最早、ガチャではなく普通に金を取った方が良い気さえする。
そんな花実の様子を見てか、ニヤニヤしながら烏羽が声を掛けてきた。どういう感情なのかは分からないが、馬鹿にするニュアンスを多分に感じる。
「ええ、ありますとも。感想はどうですか?」
「本物みたい」
「本物みたい。ええ、本物みたい……ねえ?」
クスクスと烏羽は謎の笑いを漏らしている。引っ掛かるものを感じるが、彼はいつだって思わせぶりなので深くは考えない事にした。
それにしても、都のマップを歩く事はないみたいな話をしておいて、まさか普通にマップがあるとは。ストーリーの中で黄都へ下りなければならない時が来るのだろう。沢山歩きたいので、出来るだけ都でのミッションを課して欲しいものだ。
「それで、主サン。都で何をします? 目的も無く歩き回るのは、ちょっと現実的じゃないと思うんスけど」
薄群青の問いに対し、花実は少し考えを巡らせた後に応じる。
「取り敢えず、噂の薬師っていうのを捜してみようかな。多分、重要キャラクターでしょ」
「そうなりますよね。そんじゃ、行きますか。で、俺と烏羽サンのどっちに結界を担当させます?」
「え? えーっと、じゃあ、薄群青に……」
「ですよね。俺に結界を張らせるとして、保って1時間弱って所ッス」
「時間制!?」
「俺、あんまり術が得意じゃないッスから。それに何かあった時の為に、主サンが蓄えている輪力には極力手を付けたくないし……」
――プレイヤーも輪力っていう力を持ってるって設定なの?
そもそも召喚士の設定がなかなかに謎だ。主神代理とかいう重要そうな役割も兼任しているらしいし、プレイヤーは人間扱いなのに輪力がどうのという話まで出て来た。というか、最初の村で召喚士に喚ばれた神使は輪力を供給できるとも言っていて、更に混乱するばかりだ。
「私の持ってる輪力を使ったら、どのくらい保つの?」
「1日、2日くらいは保つんじゃないスか? でも、主サンの輪力がゼロになったら俺達は社に還されちゃうんで、一人になっちゃうけど……」
「フィールドにプレイヤーだけで放り出されるって事?」
「うッス」
それは実質、ゲームオーバーではないか? 成程、プレイヤーにHPなどの概念はないが輪力が底を突けば間接的に終わるという訳か。少し理解した。
「というか、薄群青殿。輪力の問題より先に解決すべき事があるのでは?」
「烏羽……」
「ええ、大層不安そうな顔をされている召喚士殿に朗報です。結界を張っている神使はその間、戦闘に参加できませんぞ! ええ、当然ですね。結界の維持は手間が掛かりますから」
「えっ!?」
正直、そっちの方が問題だった。何せ、うちの社には神使が2人しかいない。3人まで編成できるらしいので1人空白の状態でストーリーを進めているのだ。それが、更に1人減る――ゲーム開始直後のアカウントか? と聞きたくなるような状況である。
「驚かれているようですか、当然でしょう? 召喚士殿。ええ、それでも都へ行かれるので?」
「うーん、1時間散歩コースに変えよう。目標が見つかったらラッキー、って事で」
「そんなに都へ下りたいので? 面白いものなどありませんよ、人間がうじゃうじゃといるだけです。ええ」
勝手知ったるように言う烏羽。彼も都守らしいので、都など見飽きているのだろう。残念ながら花実は現実で住んでいる場所も都会とは言い難い地域である為、全然見慣れていないのだが。
「まあ、主サンも散歩したいって言ってるんだし、いいんじゃないッスか。都が珍しいんでしょ、俺も初めて来た時は結構ワクワクしたしね」
薄群青のプレイヤーの意見を立てる発言により、お散歩開始と相成った。結界担当である彼がブツブツと何かを呟くと、周囲を薄い膜のような物に覆われる。半透明だったそれは、完全なドームを形成すると空気中に溶けるかのように透明に早変わりした。
「結界を張ったッス。そんじゃ、行きますか」
「ええ、結界役として尽力して下さいね。薄群青殿。ふふ……」
こうして、ギスギスメンバーとの黄都散歩ツアーが幕を開けた。
黄都の状況はと言うと、非常に閑散としている。烏羽は「都には人がうじゃうじゃいる」と言っていたが、人気があまりにも無い。流行病のせいで誰も外を彷徨かないのだろう。
そして都守の依拠から都を見下ろしていた訳だが、地上に降り立ってみると――思っていたより都が広い。1時間如きでは、全然マップを探索出来ないのではないだろうか。
「――と、取り敢えず進もう!」
「ええ。では召喚士殿、まずはどこへ向かいますか?」
「このまま真っ直ぐ道なりに進んでみようかな」
「畏まりました」
あくまで主体はプレイヤーという事か、神使2名は数歩後ろから着いてきている。道が分からない人間を前に立たせるな。そうは思ったが、そういえば目的地も無かったと思い直したのであった。




