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14.挨拶回り(4)

 こうしていても始まらない。仕事中の彼等はこちらに気付くよしも無い為、声を掛ける必要がある。鬼のような形相で業務に従事している手を止めさせるのは申し訳ないが、所詮はゲーム。知ったこっちゃないというのが本音だ。

 ただ鬼気迫る空気感のせいで、どうも気乗りしない――と、ここで薄群青が動いた。


「ちょっといいッスか」


 渋い顔をしながらも、2人の神使にそう声を掛ける。何と言う勇気。プレイヤーが尻込みしている事を読み取ったかのような、無駄の無い動きだ。

 薄群青の声により、2人の神使は揃ってピタリと動きを止めた。そして、鬱屈とした疲れの滲む双眸をこれまた同時に花実達の立つ方へと向ける。吸い込まれそうなくらいに、暗い双眸だった。ずっと休んでいないのではないかと感じさせる迫力がある。


「――……なに」


 カラカラに乾いた声で短く問い掛けたのは女性の神使。

 少し濃く見える黄色の長髪をお下げにしており、大きな丸眼鏡を掛けている。どことなく退廃的で独特の空気感を発していた。もうこの時点で、今まで出会った神使と違う。何が違うのかを説明するのはとても難しいけれど。

 ともあれ、彼女の問いに対し烏羽が回答する。


「なに、ではありませんよ。ええ、召喚士とその一行です。仕事に追われる貴方方の為にわざわざ赴いて差し上げたのですが?」

「あ、そう。適当に過ごしててどうぞー……」


 愛想も無ければ興味も無さそうだ。こういった反応がつまらないのだろう、烏羽は面白く無さそうである。

 しかし、無関心過ぎる女神使に代わり、その正面で仕事をしていた男性型の神使が苦言を呈する。


「いや、山吹さん。これ受け流しちゃ駄目なやつなんじゃない? 主神が用意してたアレでしょ……」


 彼は女性型神使と似た色合いを持っている。色について深い知識がある訳でもないし、視力も平均的な花実には色の違いが分からなかった。

 そんな彼だが目の下にあまりにも濃い隈がある。健康的とは言い難い肌の色に、寝起きかと問いたくなる程あっちやこっちやと跳ねた髪。これまたかなり独特の空気感だ。


 凄く対応に困っていると、薄群青がこっそり耳打ちしてくれた。彼は本当に気遣いの出来る子である。


「主サン。男性が藤黄サン、女性が山吹サンッス。俺も名前くらいしか知らないけど、一般的な黄神使って感じですね」

「え? 全員あんな感じなの?」

「うーん、都守の黄檗サンはもうちょっとフレンドリーッスよ。それ以外は大体、あの感じッス。ね? こう、変わった空気でしょ?」


 コソコソと話をしていると、ここで初めて女神使――山吹が作業の手を止めた。虚ろな目でこちらを見てくる。


「ああ、だから建物内に人間がー……。実験用に連れ込んだのかと。うっかり」

「山吹さんってば、さっき召喚士一行だって名乗ってたって。聞いてなかったの?」

「んー……。記憶に無いから聞いてなかったんじゃない……?」


 一向に話が進まない。痺れを切らした花実が、気の利いた台詞を考えている間に黄色2人の間でも何らかの取り決めが成立したらしい。山吹が先手を打つかのようにその口を開く。


「えーっとぉ……。ようこそ、いらっしゃいました。んー……まあ、今、忙しいしぃ。邪魔さえしなければ好きに過ごしてて貰ってー……。んあ? そういえば、私達以外には誰がいたっけー……」

「白菫兄妹と紫黒さんがいたと思うけれど」

「あー、そしたら白兄妹とかに身の回りの世話はさせたらいーんじゃない? 知らないけどもー……。紫黒はちょーっと心配なんだよねー……」


 待てよと、男神使の藤黄が眉根を寄せる。


「そういえば、駐屯してる神使はどうしてるの? 客、ほったらかしじゃんか」

「あれま、本当だ」


 マイペースが過ぎるやり取りに胃痛を感じ始める。それは烏羽も同じだったようで、笑顔が徐々に冷え冷えとしたものへ変化しているようだった。ただし、薄群青は全く苛立ちを覚えていないらしい。涼しげな顔で黄色2人の会話が途切れるタイミングを伺っている。

 こういう時には人の性格が出るな、と変な所で感心してしまった。

 そんな薄群青と一瞬だけ目が合う。彼は黄色達がまだ雑多なやり取りをしているのを確認し、再度花実に進言した。


「主サン、取り敢えず都で起きているトラブルの内、もう一つを確認した方がいいんじゃないッスか。あの人等、仕事の手を止めたら延々と喋り続けますよ」

「それもそうだね、会話を止めさせよう。……ごめん、ちょっといい?」


 あんまり恐い連中では無いと分かったので、即座にストップを掛ける。2人の会話が止まったのを見計らって早急に話を切り出した。


「ここに来たのは、裏切者騒動と、もう一つの騒動について話を聞きたかったからなんだけど」


 ああ、と黄色神使達は渋い顔で溜息を吐く。そのままの調子で藤黄が花実に訊ねた。


「それ、白菫さんあたりから話は聞けなかった? わざわざ僕等の所にまで、話を聞きに来なくてもさあ……」

「その白菫から、黄系の神使に聞いてくれって言われて来たんだよね。何でも、部外者の神使が勝手に話せる内容じゃないって」

「あー、あの人、本当に義理堅いし真面目だよね。面倒くさ……」


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