13.挨拶回り(3)
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紫黒と白花の部屋を後にすると、烏羽が次に向かうべき部屋を示す。
「この先にいる2人の神使で、建物内にいる神使は全員ですね。恐らくは黄系統の神使でしょう、一緒にいるようなので業務中のようです。ええ」
黄都と言うだけあって、黄色の神使が2人もいるようだ。とはいえ、関係無い色の白系統が既に2人いるので、有り難みも薄れてしまっているが。
それにしても、同色の神使を何人も見た訳ではないので何とも言えないが、色毎にある程度性格――というか、行動パターンが定まっているようだ。白系は2人とも召喚士に対して温和だった。神使達も色系統である程度の性格を定めている。
「そういえば、黄色系の神使には会った事、ないなあ」
「でしょうね。黄系統は町村にあまり配置されませんし。あの人等、神使によっては薄色より戦闘に向かないッスから」
薄群青の言葉を烏羽が鼻で笑う。
「はは、何をおっしゃる、薄群青殿。黄系の神使には戦闘以外の役目があります故、ほぼ何の役にも立たない薄色しりぃずと一緒にしては失礼ではありませんか」
「アンタが一番、俺等に対して失礼ッスわ。というか、召喚士様の目線で言えば、神使の強化に必要な結晶を生み出せる、生産性のある薄色シリーズの方が重宝してるって知らないんスか?」
「おや、言うではありませんか、ええ。ただ裏を返せばすとーりーの進行には連れて行って貰えない、裏方という事になりますが。ええ」
「別にいッスよ、そんなの。裏で楽出来て最高じゃないですか」
睨み合う神使達をほっこりとした気持ちで見つめる。薄群青は召喚されたての頃こそ、烏羽に対し恐れ戦いていたが、最近はその感覚が薄れてきたらしい。仲良くしているようで何よりだ。
ただまあ――プレイヤーの目線としては、輪力の結晶を生産する薄群青は絶対に必要な枠だと言えるし、烏羽も重要な火力としてアカウント的にも必要不可欠。どちらが欠けても詰むので、その点で言えば価値は同等である。烏羽は怒り狂いそうだけれど。
「ところで、黄色の神使はどんな神使なの?」
問い掛けると、それまで啀み合っていた二人は口論を止め、各々花実の問いに応じた。
「そッスね……。気難しい連中が多い感じがします。主サン達の言葉で例えるなら――トリッキーだとか、そんな言い方になるかな。性能も性格も一筋縄じゃいかないッスよ。まあ、黒系程じゃありませんけどね」
「ふふ、私はこんなにも召喚士殿に尽くしているというのに、この言われよう。ええ、構いませんけれども。ま、黄色はつまらない連中ですよ。からかい甲斐が無くて」
「何と言うか、職人気質な神使ッスね。例えが難しいけれど」
両名の証言を合わせた結果、恐らく寡黙で真面目なタイプではない、という結論が自然と生まれた。何故なら真面目な性格の持ち主は等しく烏羽の玩具にされてしまい、『つまらない』などという感想を彼が口にしたりはしないだろうからだ。
トリッキーで且つ職人気質――一筋縄ではいかない、というイメージ。やはり会ってみなければ実際にはどうなのか判断できない。
そんな事を話していると、大きな扉の前で烏羽が足を止めた。先程、白花と紫黒のいた部屋よりも重厚で大きさのある部屋だと扉を見ただけで分かる。
「こちらの部屋にいるようですよ、ええ。どうしますか? もう乗り込みますか?」
「この部屋は何なの?」
「執務室ではないでしょうか。仕事をする空間、と言うのは都毎に異なっているので断言は出来かねますが。ええ、広く作業を行う黄都の執務室と言えばそれらしいですねぇ」
「広く作業……? 勝手に入って大丈夫かな」
「構わないでしょう。ええ、何せ我々は言われた通りに仕事をしているだけですので」
後で文句を言われたらどうしよう。そう思いながらも、そっと扉に手を伸ばす。が、その手が扉に届く前に薄群青が扉を開け放った。
「どうぞ、入って下さい」
扉を押さえた状態の薄群青から入室を促される。今まで烏羽と二人きりだったので、丁重な扱いは少しばかり緊張してしまうのだが、自分だけだろうか。
果たして、中は確かに執務室などという呼び方より、作業スペースと呼ぶに相応しかった。
並ぶ大量のデスクに、満遍なく乗せられた紙の山。散乱したペンのような物に、充満する墨汁に似た匂い。山積みされた書類は床にまで散っている。何がどこにあるのか、本人しか分からないであろう空間だ。
そんな大勢で仕事をしていたであろう風景の中で、実際に仕事をしているのは2人の男女だけだった。作業量と人数が見合っていないであろう光景に、花実は首を傾げる。
「人数足りてなくない?」
「最初の汚泥侵攻で、汚泥の海に沈んだのでしょう。ええ、こういった異常事態の原因解明は黄系神使の専門です故、現場に足を運んでそのまま――と言った所ですかね」
「なるほど……。都守の神使もいないんだもんね」
「ええ。最初に黄色の多くを失ったのが、文字通り泥沼の始まりだったのやもしれません。ふふ……」
もう一度、残された黄色の神使達を見やる。黙々と作業をしている姿は、哀愁すら漂っているようだった。




