10.初めての都(3)
「――召喚士様、まず最初にお伝えすべき事があります」
何故かプレイヤーに、常に改まっている白菫は神妙な面持ちで口を開いた。ずっと険しい顔をしていたのだが、今はその表情に僅かな困惑の色が差している。
「えぇっと、何かな?」
「この黄都ですが――現在、都守が不在です。というか、行方不明という状態です」
「え?」
それは大変な事なのだろうか? いやでも、行方不明という事は誰もどこへ行ったのか、何をしているのか分からないという事で、そういった意味合いでは大事である。
反応が鈍い花実に対し、人を小馬鹿にするかのように鼻を鳴らした烏羽が囁く。
「ええ、召喚士殿。事の重大さが分かっておられないようですが――大変ですよ、ええ。都に都守がいないなど、鍵の付いていない家に住むようなものですとも!」
烏羽は嘘を吐いていない。であれば、彼の飄々とした態度とは裏腹に、とんでもない状態に陥っているという事か。薄群青の顔色を伺ってみると、彼もまた困惑の色を強く滲ませている。都守が都にいるのは当然の事らしい。
その都守であるはずの烏羽は、チュートリアルガチャに応じて我が家にやって来てしまった訳なのだが。その辺はどういう事なのだろう、分からない。いやでも、ソシャゲだから仕方無いという側面もある。
考え込んでいると、疲れ切った様子の白菫が話を元に戻す。
「召喚士様。俺は時間が押しているので、話を続けてもよろしいですか?」
「うん」
「都守が不在である事に加え、看過出来ない騒動が幾つか起こっています。黄都には現状、都守を除いて5名の神使が駐屯しておりますが、問題の解決に掛かり切りです」
「なるほど……」
「最初から黄都にいた神使が2名。俺を含めた3名は外部の都なり町なりから、ずっと前に派遣されてきた外部の神使となります」
「外部?」
疑問符を浮かべると、すかさず薄群青が補足説明をしてくれた。
「同色の神使ばかりを配備する訳にはいかないッスから、多色の神使を都に配備する決まりになってるッス。特に黄都にいる黄系の神使は戦闘に向かないので、気持ち多めに余所の神使を置いてるんですよ」
「あー、そういうのがあるんだ。え? じゃあ、烏羽のいる都にも黒色以外の神使がいるって事?」
ええ、と烏羽が頷く。
「おりますよ。まあ、口答えせずに働くのであれば、何だって構いませんとも。ええ」
「えー、本当に都治めてる偉い神使なんだ……。何で烏羽にしたんだろ、性格が歪みに歪んでて向いてなさそう」
「聞こえておりますよ、召喚士殿。酷いではありませんか、ええ。そもそも、我々は選ばれて都守になったのではなく、都を守る為に生み出されたのだから当然でしょう? 順序が逆ですよ、ええ」
「うーん、価値観が違い過ぎる……」
ごほん、と白菫がやや苛立ったように態とらしく咳払いする。そうだった、彼は忙しいのだった。
「進めていいですか、話を」
「ご、ごめんね……」
「いえ。急がせてしまって申し訳ありません。起こっている問題の一つですが、汚泥から都を守る結界の一部に穴を開けられる事件が多発しています。まあ、わざわざ俺が説明しなくとも分かるでしょうが、恐らく神使の何者かが穴を開けているのでしょう」
またそれか。どうやら裏切者がもういるらしい。というか、それがいるから次のストーリーに黄都が選ばれたのだろうが。
ただ――『恐らく』の一言だけが嘘みたいなのだが、これはどういう事だ。はっきり『いる』って事を分かっていながら、言葉を濁したのだろうか? あまり目くじらを立てるような言動ではないけれど。
更に白菫が話を続ける。
「それに加えてもう一つの問題があります。が、これは俺の口からは説明が出来ないので、黄系の神使に確認をお願い致します」
「おや、黙秘すると言うのですか?」
「俺は所詮、白都から派遣されて来た神使に過ぎない。黄系の神使が定めた守秘義務を俺の判断で勝手に口にする事は許されない」
どうやらあくまで余所からの派遣であり、黄都に最初からいる黄系の神使の取り決めを変える力は無いようだ。
「ただ、召喚士様。俺個人の見解ですと、内部にいる裏切者より、もう一つの問題の方が厄介です。正直な所、後者の件で手が回りません。裏切者どころではないので」
「えー、そういうイベントもあるのかあ」
「はい? まあともかく、もう一つの問題については黄系の神使をお尋ねください。遠路遙々いらっしゃった召喚士を、無碍にはしないはずです。……恐らく」
――黄系神使って恐い感じなのかな……。
煮え切らない態度が少し恐ろしい。またも思考の海に沈んでいると、それまで現状について教えてくれていた白菫が一言断りを入れて座布団から立ち上がった。
「それでは召喚士様、俺は仕事に戻ります。お好きに過ごして頂いて結構ですが……そうですね、都へ出る前に黄神使――山吹達に必ず話を聞いて下さい。危ないので」
「了解」
「よろしくお願い申し上げます」
丁寧に一礼した白菫は、今度こそキビキビとした動作で部屋から出て行ってしまった。




