09.初めての都(2)
都について教えてくれる、とそう言った烏羽が淡々と説明を始める。これも台詞内にはないだけでチュートリアルの一環なのだろう。
「都は合計で五つございます。ええ、五つ。その内の一つがここ、黄都です」
「5ステージね……」
「都は中央を除き、最も主要な都市です。ええ、当然、配備されている神使も多いですよ。とはいえ、都には都守がいるので大差はありませんけれど」
「都守?」
「名前のままでございますとも、ええ」
おい、と前を歩いていた白菫が苦言を呈するように口を挟む。
「都守の事もきちんと説明しろ。召喚士様、都守と言うのは全ての神使のまとめ役。主神と召喚士の次に力ある立場の神使です」
「へえ、そうなんだ」
「……他人事のようですが、貴方様の連れている烏羽も都守ですよ」
「え!?」
――それはガチレア神使を最初に引いちゃったという事になるのでは!?
一見するとレア度の概念がないガチャ。しかし、実際には神使の性能差が割とエグい。だがそれと同時に納得もした。人間が平等ではないように、神使もまた全く同じくらいの強さでまとめ役もおらず、それぞれがそれぞれで動いている訳ではない。
設定ガン無視のソーシャルゲームではストーリー上での活躍はそんなにしていないのに、SSRだのURだのという、新規実装されたから高レアみたいなキャラクターがいる中、異様な設定の忠実さだ。
成程、ストーリーだとかに忠実なのは良い事だ。良い事だが、そのせいで高レア帯が減ると集金できないのでは? 大丈夫? ソシャゲの民が最も恐れるのはサービス終了なのだが。ある程度金を稼ぐ意欲を見せろ。
あと運営、もう一つ良いだろうか。
――チュートリアルガチャで、最高レアを排出するのは止めるんだ。リセットマラソン、略してリセマラで破綻する。
都守という高レア帯は5人いると思っていいだろうが、裏を返せばレア保証されているキャラクターは5人しかいない可能性だってありそうだ。それがチュートリアルガチャから出て来れば大惨事待った無し。
悶々と考え込んでいると、薄群青が白菫に疑問を投げかけ始めた。妙な沈黙が破られる。
「白菫サン、よくうちの主が召喚士だって即判断しましたね。俺もそうだけど、町に来た時は一瞬とは言え疑ったッスわ」
「フン。召喚術を転用して作られた術式の上に現れれば誰でも召喚士だと分かる。全ての主要地に置いた方が良いんじゃないのか、この術式」
「それはまあ、都守サン方で話し合ってもらって。こっちで決定できることじゃねッス」
話をしている内に、気付けば地下から出て1階にやって来ていた。地下は無骨な石造りの部屋だったが、地上は小綺麗なものだ。木造建築、独特の香りが漂っている。このフロアは来客向けの外観だ。
恐らくだが、あの地下は関係者以外、あまり訪れないのだろう。少し埃っぽくもあった。
「結構、広いなあ」
何気なく漏らした花実の呟きに、すかさず烏羽が反応を見せる。
「それはそうでしょう。ここは都守の依拠。ええ、我等が主神の権威を見せ付ける為の施設です故。雑に建造したりは致しませんねぇ」
「別にそこまで深いコメントしてなくない、私」
「ええ、ええ! 存じ上げておりますよ、召喚士殿。いつだって貴方様の言葉は浅く広いですからね!」
――コイツ、ぶっ飛ばしてやろうかな……。
会話を試みるようになった弊害。まるで相手がそこに存在しているかのようにレスポンスしてくるので、普通に苛つく。誰だ烏羽の性格を設計した奴は。苛つくプレイヤーを見てほくそ笑んでいるに違いない。
そんな主人と神使のやり取りを見たからか、白菫が盛大な溜息を吐く。主神代理らしい召喚士がちんちくりんでウンザリしている、という意味だろうか。少し気難しそうな感じもするし。
ただし、薄群青はそうは受け取らなかったらしい。多分、彼の方が花実より心が綺麗だったからだろう。
「お疲れッスね、白菫サン」
「ああ、まあ……。次から次に問題が起きてしまってな。黄系の神使は連携が取りづらいし、何故俺はここに配属されてしまったんだ……」
「弱音とか珍しいじゃないスか」
「はあ……」
初対面なので何とも言えないが、白菫が疲れていたり弱音を吐くのは同僚から見ると『珍しい』状態に分類されるようだ。何かの伏線かもしれない。覚えておこう。
――と、件の白菫が部屋の前で足を止めた。
「来客用の部屋です。取り敢えず、ここで待機していて頂けますか?」
「あ、うん」
「どうぞ」
自然な動作で戸を開けてくれる。花実はおずおずと部屋の中に足を踏み入れた。やはり和風RPGのようなので、畳張りの部屋に机が一つ。旅館の一室みたいだ。
何とも言えない顔で室内の様子を見ていた烏羽が、無遠慮に座布団の一つに座る。そうして、疲れ切った顔の白菫に意地悪く微笑みかけた。
「ええ。では、白菫殿。黄都の状況について説明して頂けますか? ええ、ずっと黄都にだけ我等が召喚士殿が居座り続ける訳にもいきませんから! ふふ、何が出て来るのか愉しみですねぇ、はい」
――烏羽が活き活きしている時には碌な事がない。
それを早々に悟ってしまい、花実はこっそりと溜息を吐いた。




