08.初めての都(1)
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視界が開ける。辿り着いた場所は、珍しく外ではなかった。
「ここは……」
どうやら地下。窓が無く、重苦しい空気に満ち溢れている。周囲は薄暗く、明かりが数個付いているだけだ。
目を細めて周囲を見回していたせいだろうか、薄群青が何らかの術を使用し、明かりを顕現させる。光のボールみたいなものだ。
「あ、ありがとう」
「いえ。人間って夜目が利かないんスよね。転んで怪我でもしたら大変ッスから」
――ええ、優しい……!
新しく加わった神使が、非常に気が利くので驚きしかない。尤も、烏羽が急に気の利いた事をし始めたらそれはそれで恐いのだが。
「都守の依拠――の、地下ですね。ええ、主神が設置した術の上に出たようです」
「術の上?」
「召喚士、というしすてむを構築したのは主神。万が一の事態が発生した場合、遅かれ早かれ召喚士が都へやって来るでしょう。ええ、そんな時に都のどの辺に召喚士が来たのか捜すのが面倒ですから」
「つまり、その術? は、召喚士の出現ポイントを定める為にあるって事?」
「ええ」
町や村にはそういったものが無かったので、外に放り出されたのか。やはり都にもなってくると、そういった雑事に関する対策が取られているらしい。
ところで、と薄群青が眉根を寄せて首を振る。
「俺等がここに来てるって事は、上の連中も分かってると思うんスけど……。誰も来ないッスね。勝手に上の階に上がっていいんスか?」
ふむ、と烏羽が考える素振りを見せ、そして意地悪そうないつもの笑顔を浮かべた。
「私だったら、招いてもいない客が勝手に都の重要施設を歩き回っていたら……。ええ、その場で首を刎ねてしまいますねぇ、はい」
「こっわ。アンタそんな事ばっかりしてるから、悪評ばっかりになるんスよ」
烏羽のような人格では、そもそも都に配備されないだろう。あまりにも物騒過ぎるし、迎える事があるのかは定かではないが、客とかの顰蹙を買う行動を自発的に取りそうだし。
が、薄群青は初期神使のニヤけ顔を真に受けてしまったのか、唸ってその場から動こうとしない。もうこれはプレイヤーである自分が移動を提案しなければ、ずっと地下から出られないのだろうか。
「ここにいても仕方が無いし、用心して別の場所へ――」
言いかけた言葉はしかし、全く聞き覚えのない声に遮られた。
「召喚士様……?」
恐々と、それでいて警戒をするような低い男声。ハッとして声がした方を振り返ると、当然存じ上げない人物が立っていた。目を丸くして驚いているようだ。
今まで会った神使の、そのどれとも色合いが異なる男。外見年齢は花実と同じくらいだろうか。険しい顔をしており、色合いはかなり白に近い。彼等彼女等は名前と同じっぽい色を持っているので、その法則が崩れなければ初めての白系神使だろう。
そんな花実の考察とは裏腹に、その人物を視界に入れた烏羽は玩具を見つけた子供のような笑みを一瞬だけ浮かべた。面白い奴が来たぞ、と口に出さずとも態度に表れている。
案の定、仲間内で初期神使を止めるより先に、その烏羽が口を開く。本当に口が減らない。
「おやおや、白菫殿。お久しぶりですねぇ、ええ。ところで、主神『代理』でいらっしゃる召喚士殿の御前ですよ、いつまでお待たせするのですか? ええ」
指摘を受けてか、烏羽の存在に気付いたからか、白菫と呼ばれた彼が肩をピクリと揺らす。視線をあっちこっちへ彷徨わせた後、意外にもしっかりとした声音で言葉を紡いだ。
「――これは、失礼した。お迎えするのが遅くなり、申し訳無い。俺は白菫。この黄都に月白様の命により駐屯している神使だ」
「あ、どうも……」
あっさり召喚士である事を信用してくれたのか、淡々と挨拶される。どこにも嘘は無かった。
しかし、どうにも烏羽と薄群青が並ぶ光景はおかしな物だと思っているらしく、チラチラと二人を交互に見ている。
「それで、召喚士様。黄都へどういった御用で?」
「用というか、俺等はただ社の門に導かれるまま、ここに来ただけなんスわ。何か起こってんのか聞きたいのはこっちって事」
「ああ、主神様が準備したアレか……」
薄群青の受け答えに、白菫が納得したように頷く。
「なんかこう、立て込んでます? バタバタしてるように見えるんだけど」
「まあ、そうだな……。今はかなり忙しい。こちらの事はおいおい説明するとして、まずは1階へ戻らないか? 客をいつまでも地下室に立たせておく訳にはいかない」
確かにここで立ち話をしていても始まらない。花実は白菫の提案に肯定の意を示した。
「そうか。ならこちらだ。客室へ案内しよう」
先頭切って歩き出した白菫に続く。歩きながら、不意に烏羽が口を開いた。
「召喚士殿は都に来るのが初めてですねえ、ええ。どうです?」
「どうもこうも、まだ建物の地下しか見てないから何とも言えないでしょ」
「ふふ、知識が赤子程度しかない召喚士殿の為、この烏羽が都について解説致しましょう! ええ、私、出来る神使ですので」
確かに戦闘だとか要領だとかは『出来た』神使だけれど、性格が終わっているので微妙な反応をせざるを得ない。人格も人を構成する大事な一因である事を反面教師という形で教えてくれた彼には感謝しきりだ。




