06.フレンド神使(1)
「そろそろ……ストーリーを進めようと思うんだよね」
何かを言われた訳ではないが、不意に花実はそう呟きを溢した。2人の神使がそれぞれ反応を示す。
「お好きになさっては? ええ、我々は召喚士殿の手駒に過ぎませぬ故!」
「烏羽サンの能力を一つくらい解禁してから行くのかと思ってたッス」
烏羽の嫌味はともかく、薄群青の的確な返しに関しては返事をする。彼の言うとおり、自分の発言は矛盾しているからだ。
「そう思ったんだけど、ストーリー中でも社に戻ってこられるから、新しい結晶が出来た所で一度戻ればいいかなって。どうせ、そんなにすぐには戦闘なんて無いだろうし」
「おやおや! ええ、随分と楽観的な意見ではありませんか。何が起きるかなぞ、現地へ行ってみなければ分からないでしょうに。ええ、ええ」
「それはそうだけど、でも、空いている日があんまり無いんだよね。ぶっちゃけ、大学生活ももうそろそろ始まるし……」
大学? と烏羽が首を傾げている。説明するのも億劫だったので、そのまま放置した。それに然したる問題でもないし。
「そういえば、ストーリーに神使って何人連れて行けるの? まさか、一人しか連れて行けないなんて事はないよね」
一人しか連れて行けなかった場合、必然的に烏羽を同行させる。このアカウントには神使が2人しかいないので、残された方は暇だろう。尤も、データなので暇もクソもないはずなのだが。
そう思って訊ねてみると、レスポンスが早い薄群青が的確な回答を述べた。
「3人まで同行できるッス。ま、うちには2人しか神使がいないから交代要員もいないし、このまま出発する事になりますね」
「そうなんだ……。3人プラス、フレンドって感じなのかな」
――こういう所はビックリする程、ソーシャルゲームなんだよね……。
物量で推す、という事は不可能らしい。それをやっちゃうと物語が破綻するから致し方ないのだが。それとも、3人という数字に何か意味があるのだろうか。大抵のソーシャルゲームにはパーティ人数の制限になぞ、意味はないけれど。もしかしたら、なんて事もありそうだ。
それはおいおい考えるとして、ストーリーへ行く際、フレンドの助っ人はどうやって借りるのだろうか? 今までプレイしてきて、それらしい何かが表示された事は無い。門の前にまで移動して、何とも無かったら一旦止まって考えてみるとしよう。
ストーリーを開始するべく、その場に立ち上がる。門の前からしか、ストーリーに参加できないのが地味に不便だ。没入型、を掲げている以上、そんな見当違いのクレームは付けられないけれど。
廊下に視線をやると、心底面倒臭そうな口調で烏羽がブツブツと文句を言い始める。少しばかり珍しい上、実に子供っぽい挙動に困惑する。
「本当に今から物語を進められるので? ええ、何の通告もなかったのでやる気が出ないのですが」
「ハッキリ言いすぎでしょ……。やる気が無いとか、そんな理由ある?」
「ありますとも。ええ、私とて心がありますので」
烏羽に嘘を吐いている様子は無い。紛れもなく本心なのだが、そうであるが故に本気で動きたくないと思っているのだと、ダイレクトに伝わってくる。
一方で不満の一つも漏らさない薄群青は、既に花実について来る気満々のようで、無感情に駄々をこねる同業者を眺めている。
「さあ、立って立って! レベリングの必要がないっぽいゲームなんだから、暇があったらストーリーを進めるのは当然の事だからね」
「本当に今日はお喋りですねえ、召喚士殿。私と違って、機嫌がよろしいのでしょうか? ええ、それはそれは、大変喜ばしい事ですねえ」
全然喜ばしいと思っていないようだ。常々、思っている事と正反対の事をほざくので嘘カウンターが回りまくっている。
しかし、そこはゲーム内のデータ。文句を言いつつも烏羽は立ち上がった。やはり反抗的な性格のキャラクターも、ゲームシステムには勝てないという事か。無情である。そんな初期神使は刺々しい息を肺から押し出すように吐き出した。随分と苛ついている。機嫌の悪い時間が長い。多分、薄群青を召喚してからこっち、ずっとだ。
最初は神使同士に相性なる隠しパラメーターがあるのかと思ったが、どうやら違うらしいと気付いたのは最近。薄群青は烏羽がいようがいまいが、特に気にせず日常を送っているからだ。
恐らく裏設定で烏羽に「自分以外の神使がいると不機嫌になる」などがあるのではないかと推察している。薄群青召喚時、連れている自アカウントの神使に対してコメントが付いていたので、そういう調整はありそうだ。莫大な仕事量になるだろうから、普通ならばあり得ないけれども。
考えながら玄関を目指す。召喚した神使達は嫌味な会話を繰り広げながらも、途中で離脱すること無くプレイヤーに付いてきていた。
それにしても、早急にあと1人、神使が欲しい。3人連れて行く枠があるのに、2人しかいないというのはどうにも損をしている気分だ。枠が勿体ないとも言うが、ともかく少しだけ気持ちが悪い。
――ストーリーが終わる頃には、3回目のガチャが回せるようになっていますように!
そう祈りながら、花実は社の外へと出た。




